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USBインターフェースを利用した制御学習教材の研究
 
      山岸 正人(甲府市立富竹中学校 2004年度山梨大学内地留学)
      藤田 孝夫(山梨大学教育人間科学部)
 
 
 中学校技術・家庭科における情報教育のうち、「プログラムと計測・制御」に関して検討を行った。本研究では、USBポート及びそのパラレル変換器を用いた入出力器により各種電気・電子部品及び機器の制御を行い、情報教育への活用の有効性を示した。
 
1 序論
2 技術科教育における情報教育のあり方
3 情報教育の現状について
4 制御学習教材の研究のための条件
5 制御用インターフェース
6 プログラム言語
7 「HSP」によるUSBインターフェース制御
8 教材・題材例
9 結論

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1. 序論
 
 中学校技術・家庭科学習指導要領における情報教育は、コンピュータの「使い方を学ぶ」ことが重視される傾向にあり、コンピュータを生産過程の技術的基礎の1つとして学習の対象とする視点はきわめて低い状況にある。このことは、技術科における情報教育が、本来、求めている情報教育とはかけ離れてしまっていることを意味する。本研究では、技術科教育として行われるべき情報教育のあり方について検討し、コンピュータ制御に関する学習を取り入れることによって、技術科教育の中に情報教育を明確に位置付けることができると考えた。
 現在の学校現場を考えた時に、コンピュータの操作性という面ではWindows環境に進化したことで格段に進歩したが、これまで利用されていたプリンタポート等を用いた制御教材を扱うことが難しくなった。その為、重要視されながらも実際の授業で制御教材は扱われることが少なくなった。
 そこで、本研究では、共通のコネクタでさまざまな周辺機器を接続することができるインターフェース規格のUSB及びそのパラレル変換器を使用した入出力器を用いて、LEDの点灯や模型の制御実験など、より効果的な制御学習のための教材の検討を行った。
 
 
2. 技術科教育における情報教育のあり方
 
 本研究では、中学校技術科教育の目的を、「生涯にわたる技術的素養の基礎を身につけること」と「課題解決能力の育成」と考えた。ここでいう「技術的素養」とは、「技術を利用、管理、評価、理解する能力」、「技術に対して前向きに向き合える気持ち、行動力」である。技術科教育の目的から、技術科の情報教育では、コンピュータ操作技能、情報活用能力を身につけることはもちろんだが、コンピュータと産業や社会との関わりを切り離して考えることはできないといえる。
 生産の過程で制御機能を機械化したものがコンピュータであり、コンピュータは技術体系の中で最も基本的で重要なものになってきた。日常生活においても電気機器などコンピュータ制御は欠かせないものとなっており、コンピュータ制御の初歩的な理解なしでは、技術及びその発展を的確に把握し、評価することができなくなってきているといえる。
 そこで、普通教育、唯一の技術教育である、中学校技術科の情報教育において「プログラムと計測・制御」の学習は、不可欠であるということがいえる。
 
 
3. 情報教育の現状について
 
3.1 情報教育全般
 
 「プログラムと計測・制御」の必要性を踏まえ、「情報教育の現状について」まとめることで教材研究の方向性を見いだすこととした。
 情報教育の現状は、アプリケーションソフト操作技能中心の学習内容が主であり、「プログラムと計測・制御」の選択的な履修によるプログラム制御学習は未履修といった状況にあると思われる。生徒においても、生活や産業の中でのコンピュータ制御についての認識が不足しているといえる。詳しく「プログラムと計測・制御」学習についての現状を知るために、山梨県内の技術科担当教師からアンケートを実施し、各学校の履修状況、意識、考えについての調査を行った。
 
3.2 アンケート結果
 
アンケート実施中学校数・教員数
 山梨県内21中学校  回答数23人
 
質問 1
 今年度、技術の授業で「情報とコンピュータ」の(6)プログラムと計測・制御を
履修していますか。あてはまるものに○印を付けて下さい。
     選 択 肢        中 学 校 数
ア、履修している  2 (内1中学 必修、選択とも履修)
イ、選択授業などで履修している  1 
ウ、履修していない 19
 
質問 2 ・・・・ 回答中学校  2校
 質問1でア、イに○印をつけた方のみお答え下さい。
 具体的にどのような内容を学習していますか、ご記入下さい。
 
 ○履修学年(1,3)年    ○履修総時間 選択17時間(3年)
                        必修 6時間(1年)
                        必修 4時間(3年)
 ○プログラム言語(ロゴ、ロゴ坊)
  ○内容  
・簡単なアニメーション作り(3年) ・図形、模型、絵(1年)
・図形、基本的な命令を使う。演示のみで簡単な模型の制御を考えさせ、コンピュータの制御の有用性を学ぶ。(3年)
 
 
質問 3
 質問1でウの「履修していない」と答えた方のみお答え下さい。
 履修されていない理由は何ですか。下記から該当すると思われるものすべてに○印
を付けて下さい。
 
   ア、時間的に厳しい                   
   イ、指導が難しい                    
   ウ、教材に費用がかかる                 
   エ、教材が不足している                
   オ、日常生活に役立ちにくい              
   カ、もっと違う内容の方が重要だから           
   キ、生徒の興味関心が低いことが考えられるから      
   ク、その他                      

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
質問 4
 今後、(6)プログラムと計測・制御を履修したいと考えていますか。あてはまる
ものに○印をつけて下さい。
 
   ア、 はい                        
   イ、 いいえ                     
   ウ、 どちらともいえない               
   エ、 学校、生徒の実態に応じて履修したい       
   オ、 その他                     
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
質問 5
 「(6)プログラムと計測・制御」についての考えやご意見がありましたら記入して下さい。
 
・自分が授業を成立させるための知識に乏しく、研修、研究も時間もない。
・内容としてはおもしろいが、教えるための教材などの条件のハードルが高いように思える。
・実生活の中でプログラム(コンピュータ)は「すごいな!」と気がつくものがよい。
・以前、勤務していた学校では履修していたが、モータ制御はいきなりは難しく、前段階として「お米をヒーターでたく」ヒーターの制御をやっていた。炊けたお米を食べてみるなど子供は喜んでやっていた。
・環境が整えば、生徒に履修させたいと思う。
・非常に重要な内容(もっとも技術らしい学習内容)なので、必ず実施したいものである。
・教科書であまり取り上げていないので扱いにくい。
・ Windows環境で使いにくくなっている、言語の問題、XPのポート出力が規制されるなどクリアしながらぜひやっていきたい。
・教材を早くそろえて授業を行えるようにしたい。
・形として残せるものが少ないので計測、制御についても形に残せるようなものがあるとよい。
・教材を考え、実施できるようにしていきたい。
・少ない時間の中のやりくりや学校の実態を考えて行うので、あまり深入りした取り組みができない。
 
3.3 アンケート考察
 
 「プログラムと計測・制御」学習は、予想以上に低い履修状況であった。このことは山梨県全体にもあてはまる状況と思われる。この理由については、「時間的に厳しい」、「指導が難しい」、「教材が不足している」、「教材に費用がかかる」という意見が多く挙げられているように、学習指導要領の選択的履修によるものと、予算的な面や日々の忙しさによる教材準備や教科研究の時間の確保ができない状況が原因しているものと思われる。また、制御プログラミングがWindows仕様では、敷居の高いイメージとなっていることも大きな理由の1つとである。その反面「非常に重要な内容なので必ず実施したい」という意見からも、この内容の重要性を認識して、多くの教師が今後、履修していきたいと考えていることがわかった。このように重要性を認識している現状で、わずかな指導環境の整備や教材の工夫で、この内容を履修する学校が増加することと思われる。
 そこで、現状をふまえ、これらの履修できない理由を解決できるような教材の製作工夫や題材の工夫をすすめた。
 
 
4. 制御学習教材の研究のための条件
 
 「身につけさせたい力」とアンケート考察から制御学習教材の研究を進めていくためのいくつかの条件をまとめた。本研究では、具体的に身に付けさせたい力を以下の3点と考えた。
 
 1)コンピュータの初歩的なプログラミング技術と技能(順次、分岐、繰り返し)を習得する。
 2)簡単な機器をコンピュータで制御するプログラミング技術と技能を学ぶ。このことを通して、コンピュータがさまざまな機器や機械を制御できることを知る。
 3)コンピュータが生産や社会に果たす役割を理解する。
 
 アンケート結果より、
 4)予算面や時間を配慮した準備しやすい教材
 5)指導しやすい教材
 6)指導時間を考慮した教材
 
これらを条件としてあげ、具体的には制御用インターフェース、プログラミング言語、関連教材、題材、コンピュータ使用環境の検討を行った。
 
 
5.  制御用インターフェース
 
 技術科の制御教材というとパラレルポート(プリンタポート)を使用してものもが多く扱われてきている。しかし、「ポートの出力規制などがWindows環境で使いにくくなっている。」という意見があったように、最近のパソコンにはパラレルポート(プリンタポート)をいっさい持たないものが増え、パソコンでの制御学習が複雑で制限がでてきている状況にある。その為、指導する側にとって、扱いにくいものとなっている。
 そこで、現在共通のポートとして取り入れられているUSBポートを使った制御用インターフェースを利用することで、どのパソコンでも手軽に使え、面倒な接続なども減り、扱いやすい教材になると考えた。また、USBポートであれば、安価なUSB切替機で、パソコン数台から1つの制御教材を制御することも可能になるなど利点が増えると考えられる。
 本研究では、実際の授業で扱うことを考え、予算面のことや指導のしやすさ、理解しやすさという点も配慮し、「USB-IO」[1]というUSBインターフェースがもっとも適当と考え、使用することとした。その特徴については、以下の通りである。
 
・12ビットの出力制御ができ、また入力端子を最大4つ備えていて、簡単なフィードバック制御を行うことができる。
・モータ制御のためのドライバ基板があり、モータを接続するだけでその制御も行うなうことができる。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Fig.1 「USB-IO」USBインターフェース
 
6. プログラム言語
 
 USB-IOを制御できるものには、ビジュアルベーシック[2]、フリーのプログラムソフト「HSP」[3]、技術科の教材向けの「オートマ君」[4]、「制御カンタ」[5]などがある。本教材研究の条件から考えると、低価格もしくはフリーのソフト、すべてのOSに対応できるなど、どのパソコン環境でも利用できるもの、また情報処理の手順や構造を学習できるもの、学校以外での利用が可能で、操作等の情報を簡単に入手できるなどの発展性があるものがふさわしいと考えた。
そこで本研究では、BASICに似た命令で、手軽で扱いやすいフリーソフトであるホットソーププロセッサー(HSP)というプログラミング言語を使用することとした。このHSPは、使用許可を取る必要がなく入手でき、またプラグインソフト[6]もフリーソフトで用意されている。指導する側でも短時間で習得が可能であり、生徒にも十分理解でき、使いやすく、多くの機能を備えており、発展的な学習を行うのに適しているものといえる。
 
 
7. 「HSP」によるUSBインターフェース制御
 
 USBインターフェースは、USBポートに接続するだけで認識し、8ビットと4ビットの2つのポートを持ち、8ビットのポートでは出力制御を、4ビットのポートでは出力制御と入力信号処理を行うことができる。また、コンピュータからの信号をLEDにより視覚化させ、わかりやすい制御学習ができるようになってる。本体には、インジケータLEDとしてポート0に対応する赤8個と、ポート1に対応する白4個の2色のLEDを取り付けていて、簡単なLEDの点灯制御を行うことができるよう工夫がされてる。
 例えば、ポート0の3番目の端子の信号をHIGHレベルにするには、言い換えるとポート0の3つ目の赤LED3を点灯させる場合、UIO_OUT 0,4という命令で制御することができる。



 

例:#include "hspusbio.as“
  uio_out 0,4
 
例:ポート0の3番目の端子の
信号をHIGHレベルにする命令
 
 この制御により、入力データとLEDの点灯との関係で、コンピュータの原理である10進数と2進数の関係についても理解できるようになっている。この出力信号や入力信号処理を応用し、コンピュータ制御の題材の工夫や教材の製作工夫を行なった。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Fig. 2 USBインターフェース インジケータLED部分
 
      

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Fig.3 「HSP」操作画面
 
 
8. 教材・題材例
 
 本研究では、以下の教材の製作、題材の工夫を行った。
 1)1、2、4個の7セグメントLED制御(Fig.4)
・タイマー制御、逆算タイマー制御
・数値表示、時計表示
・数値カウンター、数そろえゲーム
 2)模型ロボット制御(Fig.5)
・融合教材(ロボットコンテスト、オルゴールモータ)
 3)各種センサーによる入力制御実験(Fig.6)
・温度、照度、水位、タッチセンサー
 4)ソリッドステートリレーキットを利用した電気機器の制御(Fig.7)
・時間による制御
・タイマープログラム制御
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Fig.4 4個の7セグメントLED制御            
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Fig.5 模型ロボット制御
        

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Fig.6 各種センサーによる入力制御実験  
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Fig.7  ソリッドステートリレーキットを利用した電気機器の制御
 
 
 例として、Fig6に示す各種センサーによる入力制御実験についての「HSP」によるプログラム例を示す。動作内容は、タッチセンサーでモータの回転を切り替え、押しボタンスイッチでモータを停止させるものである。
 
プログラム例
#include "hspusbio.as"
screen 0,150,150
mes "test"
pos 30,60
button "スタート" , *s1
button "終わり" , *s2
 
*s1
uio_out 1,3
uio_inp u1,1
if u1=3 :uio_out 0,1
if u1=1 :uio_out 0,2        
if u1=2 :uio_out 0,0
wait 1
goto *s1
stop
 
*s2
uio_out 1,0
uio_out 0,0
stop
 
 
この学習の補助プリントは以下の通りである。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ここに挙げた教材はUSBインターフェースやフリーソフトを含め、準備しやすく、短時間での自作も可能なものとなっている。指導においても負担にならず、扱えると考える。また1つの教材で多くの課題が設定できることで、生徒の実態に応じた指導ができ、それにより生徒の興味・関心を喚起し、より課題解決意欲を高めることができると思われる。
特に7セグメントLEDの制御は、初歩的なコンピュータ制御の1つとして多くの機器や機械の中で利用されている。この制御については、基本的なプログラミングやコンピュータ制御の知識と技能で十分、扱うことができる。これを制御することでコンピュータがさまざまな機器を制御できることを知り、生活の中で制御を意識し理解するきっかけをつくることができると思われる。
 また、ソリッドステートリレーによる電気機器の制御により、日常生活で実際に使われているコンピュータ制御について体験し、学習することでより制御を身近なものとしてとらえることができると考える。
 先に述べた、身につけさせたい力やアンケート結果からまとめた教材研究の条件についても、十分対応できるものである。さらに12個円形LED制御、リレーによるモータ制御、ラジコンによる模型自動車の制御等への応用も可能である。
 
 
9. 結論
 
 USBインターフェースの使用、フリーソフトの活用、教材の製作、題材の検討により、教材準備や指導面での負担の軽減を図ることができる教材を提示した。これらの教材を扱うことで初歩的なプログラミングや制御技能、コンピュータ制御と産業や生活との関連を十分、理解させることができるとともに、生徒の関心意欲を高めることができると考える。
 アンケート数が不足していて、より詳細な現状を把握できたとはいえず、効果的な制御教材研究のための条件を多く挙げることができなかった。研究内容については、1つ1つの教材が持っている評価分析や目標分析といった点について研究を深める必要があり、今後は実際にこれらを使った授業を行う中で教材分析や教材の改善を図っていきたい。
 
 
【参考文献】
[1]テクノキットホームページ    http://www.technokit.biz/
[2]三石印房ホームページ      http://www.geocities.jp/m_m_m_ishi/
[3]HSPオフィシャルホームページ  http://www.onionsoft.net/hsp/
[4]ギジュツドットコムホームページ http://www.gijyutu.com/g-soft/automa/
[5]Westboxホームページ   http://www.geocities.jp/site_westbox/
[6]K-K's pageホームページ     http://www.chichibu.ne.jp/~kawahira/index.html
 
 
 
【謝辞】
 2004年度内地留学として山梨大学教育人間科学部で1年間の研究を行ったものである。この研究を進めて行くにあたり、多くの方々にご指導、ご助言を頂き誠にありがとうございました。この場をお借りし厚く御礼申し上げます。

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