1 モンデックス

  イギリスのナショナルウェストミンスター銀行とミッドランド銀行が50%ずつ出資し、ブリティシュテレコムが技術提携して設立した「モンデクス」が開発したICカード型、価値充填型およびオープンループ型の電子マネーである。その実験は、1995年からイギリスのスウィンドンという人口17万人の町で行われ、「現金の特性」を備えた電子マネーの世界最初のものとして注目された。そのシステムは、図1のようにICカード、専用電話機、ウォレット、バランスリーダー、専用端末機の機器から構成されており、利用者は、発行されたICカードにATMで電子マネーを自分の預金口座から充填し、店での買い物代金、駐車場料金、バス・タクシーなどの支払を行うものである。また、個人間でもウォレットを使って電子マネーをICに移転することができる。すなわち、電子マネーの高い流通性が確保されている。このようにモンデックスは、現実の世界での支払いに利用され、ICカードに充填された金額は、現金同様に転々と移転し、誰がいつ支払にあてたかがわからないという匿名性の特徴を持つことから現金に最も近い電子マネーであるといえる。なお、1996年にマスターカード・インターナショナルが51%の株式を取得したことにより、モンデックスはその傘下に入ることとなった。

 ( 図1)モンデックスの電子マネーの流れ図

 2 Eキャッシュ

  オランダのデジキャッシュ社によって開発されたネットワーク型の電子マネーである。この会社は、暗号学者であるデビッド・チャウム博士によって設立されたことから、Eキャッシュは、高度な暗号技術が利用され匿名性やセキュリティが守られているのが特徴である。インターネット・ショッピングなど電子商取引の決済手段としての利用が可能であり、現在、ミズリーシ州セントルイスにあるマークトウェイン銀行やドイツ銀行、フィンランドのEUネットがEキャッシュを発行している。

 (図2)Eキャッシュの流れ図

 

 3 NTTの電子マネー

 NTT情報通信研究所と日本銀行金融研究所は、共同研究の成果として、暗号技術を使用し、ネットワークを介したオンラインなどに利用することを目的として、実際の現金と同じように使える実用的な電子マネーの実験システムを95年12月に発表した。しかし、そのシステムは、次のようないくつかの課題が残されていたので、それを踏まえて図3のような新電子マネーシステムが開発されることとなった。これは、98年10月から新宿で大規模な実証実験を開始する予定となっている。

課題
(1)事後検出を中心とした二重使用防止対策であったため、二重使用後の利用者の追跡は可能であるが、二重使用そのものを防ぐ対策が不十分であった
(2)利用者から預金を受け入れる銀行が電子マネーの発行機関を兼ねる仕組みとしていたため、複数の銀行が電子マネーを提供する場合、複数の発行機関が併存し、電子マネーの互換性が問題となるほか、銀行間での決済方法を検討する必要があった。
(3)電子マネーの二重使用をチェックするために、過去に発行したすべての電子マネーの情報量を発行機関のデータベースに蓄積する必要があった。このため、電子マネーの発行量が増えると、発行機関の蓄積するデータが膨大となるという問題
(4)電子マネーを分割して使用する際や、利用者間の譲渡の場合における処理上の制約

 それらの課題の解決を目指して開発された新方式の電子マネーシステムの特徴は、次のような点をあげることができる。そして、下の図3は、新方式のシステムを図示したものである。

(1)ネットワーク型とIC型の統合
(2)安全性の向上(登録機関の設置、暗号利用)
(3)複数銀行による同一の電子マネー提供(発行機関の設置)
(4)必要とされるコンピュータ資源の削減 
(5)電子マネーの分割、利用者間での譲渡(オープンループ型)

 

(図3)新方式のNTT電子マネーの流れ図