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天気地図等システムの作成



 吉村 稔

   

教育人間科学部


 目次
 

1 はじめに  
2 応用プログラムのねらい  

2-1 偏差図による表現  

2-2 天気分布図あるいは天候表  

3 天気地図等表示システム  

3-1 天気地図表示  

3-2 サンプル  

3-3 天気表作成  

3-4 サンプル  

4 付記 
5 参考文献

図1 偏差図1783年1月〜6月(天明三年)   

図2 偏差図1783年7月〜12月(天明三年)   

図3 操作   

図4 天気記号

図5 天気地図 1835/08A   

図6 天気地図 1836/08A   

図7 天気地図 1834/01B   

図8 天気地図 1843/01c

図9 天気表 同一地点同月異年   

図10 日光の自然季節の永年変化(復元)  

図11 天気表 同年同月異地点  

図12 天気表 同一地点毎月

   

要旨

従来より研究資料を集積する目的で作成中の歴史天候データベースの応用プログラムとして表題のシステムを作成してきた。今回改訂版が作成されたので、利用例などを中心に報告する。


1 はじめに

 

筆者は、共同研究者と共に日本における公式の気象観測開始以前の古日記の毎日の天気記録を、古気候の復元資料として収集整理してきた。その結果は研究用の「歴史天候データベース」に継続し収録してきた。このDBの応用ソフトとして天気分布図表示システム等を開発してきたが、その必要性を理解して頂くために若干の説明をしておきたい。
収録データは活字化されたものもあるが、記載地域が限定される。日本各地となると多くは所在の調査、古記録の読み取りを経て収録する必要があった。また、資料から歴史時代の気候を復元する方法は確立されておらず、復元方法の開発を並行して行う必要があった。このため各地の大学に散在している、データの収集・復元の研究の担当者に、収集した資料をなんらかの応用ソフトにより集計し、あるいは作図された天気分布図・統計値などを、利用しやすい形で提供する必要があった。

   データは毎年追加し累積するが、遠方の研究者にDBの情報を直接応用ソフトを通じ検索、処理させることは、出発当時は非現実的であった。このため、応用プログラムに毎日の天気情報をもたせた上で、これを提供することにした。このため現在まで2本立てで運用してきた。

 今回報告するシステムは、従来の必要に応じて偏差図作成、天気地図表示、天気表作成などと個別に作成していたプログラムを一体化、かつ印刷あるいは画像作成などその機能を拡充した新システムである。このような改造に必要になったのは, データ数の増加は当初から考えていたが、使用していたDBソフトが予想よりはるかに少ないレコード数で障害が多発し、上位のDBソフトに移植する必要が生じたこと。また、個別に開発した応用プログラムではデータ管理に手間かかることが主な理由である。

 

   2 応用プログラムのねらい

 2−1 偏差図による表現

 応用プログラムのねらいは、歴史時代の気候を復元する際に、DBの資料をどのように役立つ方法で表示するかである。その年その季節の気候が平年より寒いとか降水量が多いと言うことで気候の特色が表現される。つまり平年偏差である。当初の計画は、日記に記載された日々の天気のデータを、例えば雨天日数、晴天日数などを地点ごとに集計し、これを元に月降水量、あるいは月平均気温などを推定することであり、この推定値を使って偏差図を作成することで、気候の変化を示そうという試みであった。

 しかし、日記という主観的な記述であり、しかも連続的な天気を簡単な語句で表現しているのだから、一日の変化でさえ記載もれが多いと考えるのが妥当であろう。他地点と直接に推定値などの多少を比較することは危険が多い。そこで、それぞれの地点で月毎に毎年の変化をまず調べることにした。降水量に関してはPI(文献2)である。

 あと一つ問題があり、日記の記述期間はすべて違うことである。しかし100年以上の記録を含む日記が藩庁日記、社寺まれに大農家の日記にあるので(文献1)、そのような長期の日記は、ある程度まで気候変動を含んでいるであろう。そこで、月集計値について平均、最大、最小などの値、あるいはその順位を考えても永年値から求めたそれら値の近似値として許されると考え、それぞれの日記の記載期間について、毎年月別にPI値の順位による階級から相対的乾湿状況を地点別に推定した。

 これに併せて晴天日数(ここでは日記で晴れと解釈した語のみの記述してある日数)を同様に集計し、その月の相対的な晴れの多少を、晴天日数の階級に区分の階級で示した。この両者の組み合せとして、その年その月の気候を表現したものを西暦1700年ー1860年について作成した。(文献3)

  (図1)

 記号は 仮に乾燥から湿潤(PIの小から大)・高温から低温(晴天数の多から少)方向で示すとすれば、次のように与えられている。

出現率

晴日数

乾湿

最上位

5%

hh

dd

中上位

15%

 h

d

中間

60%

 n

n

中下位

15%

 c

f

最下位

5%

 cc

ff

 この方式で示した天明4年の偏差図を示す。8月の異常が顕著である。

(図2)

日記の性質上、記載が無い日、あるいは天気の記載が無い日も含まれる。その調整をどのようにするのか、天気は継続性があるので、雨の日が連続する中での欠日と晴天期間中の欠日では同じ一日の欠日でも本当は意味がことなる。これを順位の決定にどのように反映させるか。階級を設定することは良いとしても、同値が多くてなかなか機械的に決められない。上位からとったり、下位から決定したり境界となる年をきめたが、この処理をプログラムでは書ききれず手作業が残る。さらに、この基準にあう長期間にわたり単一の系列の日記からの天気データは、ある程度読み取ってしまった。今後このプログラムによる偏差図の作成は多数回あるとは思えない。このような理由から、今回のシステムには偏差図表示プログラムは組み込むことは見合わせた。

 2−2 天気分布あるいは天気表

 我々の目的が過去の気候の復元あるいはその変遷の解析であるから、データをDBに格納しただけでは意味がない。偏差図は月単位であるので、月の上旬、中旬、下旬と言ったその中での差、あるいは異常であった日付は不明である。毎日のデータを持つ有利さはこのような点に答えをだせることであろう。日々の天気分布型と天気図型とは1:1には対応しない。それでも代表的天気図型とそこで現れる典型的な天気分布は知られている。従って、20−30年の断片的な日記でも天気分布図などの作成には使用出来、復元資料は増加する。このように資料を拡大して、詳細な復元を試みることにした。

 

 日記の記録をどのように資料化するかが問題である。一日の天気が、晴れ、曇り、雨と言った一つだけの天気を表わしている場合は、それを表現するので問題は無い。半数程度の日記が、例えば「晴れのち雨」、「朝曇り午後時々雨、夜月明晴」など変化を記述している。これをDB上にどのように記載し、またそれを天気分布図上などに表現するかである。古日記の天気用語に関しての同義語辞典もないし、新しい日記を開けば、どこかに新しい表現が出てくる。テキストを検索して直接、一日の天気を評価し地図上に記号で表現したり、集計したりすることは出来ない。そこで日記の記載の内容をコード化する必要が生じ、天候範囲の考え方を提案した。(文献3)

 

 当時(MS/DOSないし Windows 3.1)時代のPC用のDBソフトでは多重インデックスの使用を考慮すると数十万件のデータを収録できたが、瞬時に検索し画像描画ソフトで天気図として表現することは不可能であった。画像表示を高速化するために複数のフィールドに対して多複インデックスをかけた本体のほかに、地点別のDBを作り、必要事項をテキストファイルに落しておく。西暦千年代は省略し年代の3層のディレクトリ構造に落し込んでおいた。今回はHDのアクセスが高速になっているので1層の250のディレクトリーに格納した。これが実際上は応用ソフトではDBの代理となる。

3 新システム

  3−1 天気地図表示システム

 先にふれたように今回は複数の処理を可能な統合ソフトにまとめ上げてある。この地図表示ソフトはベースマップのデータがあれば、範囲を異にした地図の表示も可能あるばかりでなく、他の統計資料についても記号を作成すれば利用可能である。そのために以下の実行プログラム(当然設定ファイル)とデータファイルから成り立っている。

Placemap.exe :地図設定 使用する地図の設定と天気情報の表示位置の地点毎の設定
Tenkidat.exe :データベースから天気情報の表示システムへの読み込み
Tenkiset/exe :天気関係のいくつかのプログラムの初期設定の標準値
Tenki.exe :天気地図の表示、印刷、画像作成
Mktable.exe :3種類の天気表の表示、印刷
 

このうち重要な最後の2つの実行プログラムの実行結果を示す。

 

  3−2  天気地図表示(tenkimap.exe)

 データを持つ地点数の制限から、西暦1650年から同1900年の範囲内で、西暦で年月日、天気の種類(一日の中で悪い天気、あるいは良い天気)を指定することにより、月の1/3の日数の天気分布図を書き上げる。
実際には6日が画面に表示され、残りはスクロールにより表示される。初期の32bit 機ではメモリー不足、遅いCPUとグラフィックアクセラレータボードのためスクロールにかなり時間を要し快適とはほど遠い状態であった。現在はCPU300MHZ,RAM96MBのDOS/V機で, それほど抵抗なく使用している。

組み込み時の設定をのぞけば、操作は画面のツールバーのボタンを説明をすれば十分であろう。 (図3) 左より終了、印刷(1/3月分)、印刷プレビュー、作図する年、月日の設定を呼ぶ(作業開始時はこれを使う)前年に、次年に飛ぶ、前月、次月に飛ぶ、月の前旬、中旬、後旬に飛ぶ(作業中の選択はこちらを使う)表示する天気コードの選択、天気記号の説明(図4)ヘルプには現在はデータ作成日が書かれている。天気記号は各左が画面表示右が印刷時である。ツールバーの表示の切り替えによりステータスバーは消える。また、表示画面を画像に圧縮保存が可能である。

 3−3 サンプル

 天気分布図の例として干ばつ年として有名な天保6年(1835)(図5)冷夏で有名な天保7年(1836)(図6)の8月上旬を見て頂きたい。その差は歴然としている。冬の例として、おそらく通常の冬から季節風が吹きすさび、日本海沿岸で降雪が続く寒冬への変化して,再び穏やかな冬に戻る、一連の季節風の吹き出しに伴う天気分布変化例(図7)(図8)として1843年を示しておく。このような日々の天気分布の特色は気候変化を示すものとして、別に類型化し集計中である。

 3−4 天気表作成(tenkitable.exe)

従来のMS/DOSのものをWINDOWS対応に変換。閏年に関わる処理のを追加し、異常な表示をなくした。また独自のデータを作っていたものを天気表示プログラムと同一のデータを使用することにした。作成可能な表は3種類、同一地点同月異年、同年同月異地点、同一地点時系列である。天気分布図が空間分布から天気系の変化を追跡するのに対し、それぞれ別の目的を持っている。

 3−5 サンプル  

同一地点同月異年 (図9)は指定地点の毎年の特定月の表示であり、当然複数地点で同一の解析が必要であるが、気候の流れを追跡可能である。例えば(図10)は日光について自然季節の開始あるいは終了の目安を設け、この種の表から自然季節の長期変化を追跡したものである。当然平滑化をしてあるが、天明・天保期の梅雨期間が異常に長いことが読みとれよう。多くの地点で共通する基準は設定しにくいが、それぞれの地点の基準でも、季節の進行の遅速は把握出来よう。
同年同月異地点は、天気地図にすれば3葉で表示する一ヶ月の日本の天気の癖を一目で読みとることを可能にしている。暖冬から寒冬に変化したと考える1月の例(図11)を示しておく。
同一地点毎月(図12)は研究目的の他に資料管理に役立つ。複数回データのチェックは行っているが、欠年欠月のほか,コードの付け間違い、例えば雪と雷など毛筆の読み間違えによる異常なコードのチェックにはDBに直接検索を掛けるより一覧表の方が分かりやすい。また出来上がった表を編集し、資料の無い地点は表から削除することが可能になった。

 4 付記  

以上主に機能面から天気地図等の表示システムについて説明を行ってきた。先にも述べたが、今回DBは多少ファイル構造を変更しLinux上のDBに移植する作業を行っている。完成時にどのような形でデータ検索、表示を行うか複数案があり検討中であるが、研究用の資料であるとの観点は変えない方針である。最後に、今回の改造は教育人間科学部ソフトサイエンス講座の武藤先生のご尽力によるものであること記して、謝意を表します。

参考文献
1)Yoshimura, M. (1991):A note on reconstruction of climate in
historical time. Climatological Notes, 40 127-141
2) 吉村 稔 (1993):古気候の復元と歴史データベース
  地学雑誌 Vol. 102, 132-143
3) Yoshimura, M. (1995):Climatic condition in the latter harf of
the Little Ice Age. A results of IGBP-PAGES. Dept. of Geography
Faculty of Education Yamanashi University. 179p.


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