「山梨大学公開講座−第
7回教員リフレッシュ研修」における教育機器活用に関する検討
山梨大学教育人間科学部
林 尚 示
【要旨】
本稿は、山梨大学公開講座として現職の小学校教員、中学校教員、高等学校教員等を対象として
公開講座での
6人の講師の講義を分析した結果、結論に示す3点の傾向が浮上してきた。1つ目は、パソコン、プレゼンテーションソフト、液晶プロジェクターという組み合わせが多用されている点である。2つ目は、テレビ会議システムの導入やパソコンによるライブ配信の実験が工学系以外の分野でも実施され始めている点である。3つ目は、山梨県立科学館など博物館を有効に活用することによって学校教育はさらなる発展を遂げることができる点である。この分析を通して、教育内容によって多様な教育機器の中から何を選定すると効果的であるかということを研究していくことが教育実践研究の立場からは今後の重要な課題となることに言及した。
【キーワード】公開講座、教員研修、教育機器、教育方法研究、社会教育
本稿の目的は、大学が主催する公開講座の中での教育機器の活用状況を検討することにより、教育機器の選定、配置等に関する研究の必要性と課題とを明らかにすることである。
その際、筆者が企画した公開講座の経緯を紹介し、公開講座の際の記録画像を活用して今後の公開講座の方向性を考えたい。
山梨大学教育人間科学部附属教育実践研究指導センターでは、年
今回の「教員リフレッシュ研修」のテーマは、「『総合的な学習の時間』による特色ある学校づくり」とした。この公開講座の主催は先述したように山梨大学であり、後援は山梨県教育委員会と甲府市教育委員会である。公開講座の会場は
1日目が山梨県立科学館であり、2日目が山梨大学教育人間科学部附属教育実践研究指導センター内の授業研究演習室(4階)と多目的教室(5階)である。募集定員は先着順で
20名としたが、年々このような公開講座の参加者は減少傾向にあり、本年度は1名の参加者とアシスタント数名であった。受講対象者としたのは、現職教員、学生、市民一般であり、今回は現職教員が参加した。受講者の減少は、2日間の受講料が5,500円と、地方公共団体等が実施する生涯学習関連の講座と比較しても、比較的高価であることが理由なのではないだろうか。しかし、受講料は大学の都合で設定しているのではなく、文部科学省の基準によるものである。今回の公開講座の募集期間は
2000年10月1日〜11月9日(土・日曜日を除く)とした。また、受付時間は大学事務の対応可能な時間で9:00から16:30までとなっている。申し込みに関する問い合わせ先は山梨大学学生課公開講座担当とし、内容・教材に関する問い合わせ先は山梨大学教育人間科学部附属教育実践研究指導センターとした。
ここでは、公開講座の募集要項に沿って、公開講座の目的を紹介する。募集要項では、次のように記載し、チラシとして配布し、かつ、ホームページ上で公開した。
今日、さまざまな問題をかかえるなかで,日々教育改善,教育改革に取り組む教師を対象に、本講座は開設された。この講座は
1994年度から、教師が自分の授業を見直して気づくための、内省的な力量形成の研修プログラムを組んでいる。昨年度は筑波大学から山口満教授を迎え、総合的学習の成立の経緯や留意点などについてご指導していただいた。また、山梨県甲府市立朝日小学校や山梨大学教育人間科学部附属中学校の「総合的な学習の時間」に関連する授業実践事例の報告を、それぞれの学校で実際に運営に携わった教諭からしていただいた。これまでの具体的な実践事例報告が好評なので、今年度もその手法を導入したい。
総合的学習といえば、教科書があるわけでもないため、教師の自主性が発揮できる反面、どのような教材を用いて何を学習者に指導したらよいのか不安であるという悩みを聞く。また、読書算などの基礎的・基本的能力の低下が懸念されるという批判を受けやすい。このような状況下では、教師は「総合的な学習の時間」を有効活用して学習者の興味を誘発し、教科学習との相乗効果を引き起こさせるような授業展開をする力量が要求されている。そこで、
2日間ではあるが各学校や教師集団の特色をつくりやすい「総合的な学習の時間」について検討し、それに基づいて教師の力量形成を図る教員リフレッシュ研修を企画した。第1日目には、科学館において天体望遠鏡や科学的実験素材に直に接して最先端の技術に触れていただく実習を予定している。第2日目は山梨大学教育人間科学部附属小学校と附属中学校で、「総合的な学習の時間」に関連して今年度実施されている授業実践の事例報告を予定している。
本講座は、このように山梨県の所有する教育資源を積極的に利用し、学校外に教材を求めて科学的方法を学ぶものも含まれる。参加者自身の主体的取組みを通して,リフレッシュの契機を求めてほしい。父母や一般社会人の参加も歓迎するが、授業改善や力量形成を希求する中堅教員(現職経験約3年以上が望ましい)を主対象とする現職教育講座である。
公開講座の講師を依頼したのは山梨県立科学館の職員
2名、山梨県総合教育センターの職員1名、山梨大学教育人間科学部附属中学校の教員1名、山梨大学教育人間科学部附属小学校の教員1名、そして筆者も企画運営のみではなく講師として加わった。具体的には次の6名の講師で公開講座「教員リフレッシュ研修」を実施した。
表
1 公開講座講師一覧
氏名(敬称略) |
所属 |
職名 |
市川直貴 |
山梨県立科学館 |
職員 |
平井実 |
山梨県立科学館 |
職員 |
望月勝 |
山梨県総合教育センター |
職員 |
今村淳一 |
山梨大学教育人間科学部附属中学校 |
教諭 |
奥山賢一 |
山梨大学教育人間科学部附属小学校 |
教諭 |
林尚示 |
山梨大学教育人間科学部附属教育実践研究指導センター |
講師 |
4-1
全体の日程・プログラム公開講座は
2日間で開催され、各日の日程やプログラムの内容は次の通りである。
図
2 日程・プログラム第1日目 2000年11月11日(土)(山梨県立科学館)
14:00〜14:15 開講式・諸連絡(林)
14:15〜15:30 「総合的な学習の時間」の学習素材としての科学館(市川)
15:45〜17:00 科学館内での教育資源の紹介(平井)
第2日目
2000年11月12日(日)(山梨大学)9:30 〜10:50 「総合的な学習の時間」のカリキュラム開発(林)
11:00〜12:00 山梨大学教育人間科学部附属小学校での実践事例(奥山)
13:30〜15:00 山梨大学教育人間科学部附属中学校での実践事例(今村)
15:10〜16:40 山梨県高等学校の総合学習の分析(望月)
16:40〜17:00 閉講式(林)
第
1日目の会場は山梨県立科学館(Yamanashi Prefectural Science Center)である。山梨県立科学館は1998年3月に「山梨県立科学館設置及び管理条例」が制定され、1998年7月21に開館した施設である。管理運営は財団法人山梨県青少年協会が担当している。施設の概要については山梨県立科学館編集発行のパンフレット『
SCIENCE SHIP』をもとに説明する。建築構造は鉄筋コンクリート造りで一部鉄骨の部分があり、また、一部木造の部分もある。地下1階地上3階の建築物である。建築面積は4,785uであり、延床面積は6,498uである。建物の内容は
4つの部分によって構成されている。1つ目は展示部門であり、展示室、多目的ホールが含まれる。展示部門の面積は2,451uである。2つ目はスペースシアター部門であり、180席ある直径20mドームのことである。スペースシアター部門の面積は741uである。3つ目は学習部門であり、実験・工作室、天体観測室が含まれる。学習部門の面積は359uである。4つ目はサービス・管理部門であり、事務室、機械室、倉庫等が含まれる。サービス・管理部門の面積は2,947uと他の部門より広い。次に、地下1階から屋上までの各階別に山梨県立科学館の施設を説明してみよう。
地下1階には、サブエントランス、フーコーの振り子、機械室、コインロッカーがある。地下1階の面積は
963uである。1階には、展示室、多目的ホール、あそびの部屋、マルチメディアコーナーがある。1階の面積は3,093uと最も広い。2階には、メインエントランス、実験・工作室、スペースシアターがある。2階の面積は2,365uである。屋上には、天体観測室、展望テラスがある。屋上の面積は77uである。なお、今回の公開講座で使用したのは
2階の実験・工作室と屋上の天体観測室である。1日目の14時から14時15分まで開講式を開催し、筆者が公開講座に係わる諸連絡をした。続いて、14時15分から15時30分頃まで、市川直貴氏によって「『総合的な学習の時間』の学習素材としての科学館」と題する講義と実習とを実施した。市川氏は山梨県立科学館の実験・工作室で
2種類の科学実験を実施した。第1番目は、液体窒素を用いた瞬間冷凍の実験である。写真1の容器の中には液体窒素が入っている。写真2は液体窒素の中にゴムボールをいれて急冷凍しているところである。写真3は急冷凍されたゴムボールを1m上方から落下させるとどうなるかという実験であり、ゴムボールは陶器のように割れた。写真4は空気の入った風船を急冷凍して萎んだ状態である。写真5は萎んだ風船が徐々に常温に近づき、膨らんだ状態である。写真6は膨らましたポリ袋を急冷凍しているところである。写真7は急冷凍されてポリ袋の中の空気が液化した状態である。写真8はスナック菓子を急冷凍しているところである。写真
8までは講師による実験であるが、写真9は参加者がスナック菓子を急冷凍している場面であり、急冷凍されたスナック菓子も食べることができるという説明であったので筆者はそれを食べてみた。写真10は急冷凍したバナナをティッシュで包んで釘を打っている場面である。写真11は実験で使用した釘とバナナである。写真12のように、急冷凍すればバナナも硬直化し、板に釘を打つことができる。写真13は草花を急冷凍しているところである。この状態となると少し触れるだけでガラスのようにばらばらになる。ここまでの液体窒素の実験は温度変化による物質の性質変化を具体的な体験を通して学ぶ実験である。第
2番目は直流電流を使用してパンを作る「電気パン」という実験である。写真14は牛乳パックを加工した容器など必要な道具を用意しているところである。写真15はビーカーから小麦粉を容器に移し替えているところである。写真16は小麦粉と水とを混合しているところである。写真18は容器に鉄板の電極を入れているところである。写真19は出来上がったパンの味見をしているところである。この実験は、身の回りの具体的な道具や身近な材料でパンを作るという実験であった。15
時45分頃から17時までは、平井実氏によって天文学に関する学習と科学館内での教育資源の紹介が行われた。第
1番目に、平井氏は山梨県立科学館の実験・工作室で秋の星座の様子を紹介し、あらかじめ用意してあった星座図に蛍光塗料付の星型シールを添付して最後にラミネートシールを貼る作業をした。写真20の青いシートが星座図であり、その左側の容器の中が星型の蛍光シールである。写真21は秋の星座についての作業の様子である。第
2番目に、平山氏がコンピュータを使用して作成した星座の説明教材をご紹介いただいた。写真22はパソコンで作成した星座教材を実際に使用している様子である。第
3番目に、山梨県立科学館の天体望遠鏡を拝見し、星座や太陽の黒点などの説明を受けた。天体観測については天気状況の影響により、実際の観測は残念ながら不可能であった。その時の様子は写真23から写真26までの写真の通りである。写真27は山梨県立科学館内部の様子で、この写真からは館内の施設が広々と感じられる設計になっていることが確認できる。山梨県立科学館では、公開講座で使用した実験・工作室や天体観測室以外にも教育設備としては「スペースシアター」というプラネタリウム、展示室、あそびの部屋などがある。展示室は、自然、科学技術、宇宙、地球などの体験型展示場である。あそびの部屋は、幼児や小学校低学年児童向けのクラフト作業のできる部屋である。山梨県立科学館の場合、建物自体が具体的体験を通した学習の施設となっている点が、学校の一般的な教室との大きな差異である。
公開講座第
2日目の会場は山梨大学である。午前中は山梨大学教育人間科学部附属教育実践研究指導センター授業研究演習室(4階)で実施し、午後は山梨大学教育人間科学部附属教育実践研究指導センター多目的教室(5階)で実施した。9
時30から10時50分までは筆者が「『総合的な学習の時間』のカリキュラム開発」という題で講義を実施した。ここでは,はじめに総合学習の歴史に関してヨーロッパ、アメリカ、日本の場合の説明をし、次に総合学習についての理論に言及した。最後に「総合的な学習の時間」の解説をし,「総合的な学習の時間」のカリキュラム開発法について紹介した。その様子は写真28から写真30の通りである。ここでは、ノートパソコンでプレゼンテーションソフトによって資料を作成し、ノートパソコンと液晶プロジェクターを接続し、ホワイトスクリーンに投影するという教育機器の利用法を採った。
11
時から12時までは、山梨大学教育人間科学部附属小学校教諭の奥山賢一氏によって「山梨大学教育人間科学部附属小学校での実践事例」というテーマで公開講座が実施された。ここでは、写真31のように、テレビ会議システムを使用して山梨大学教育人間科学部附属小学校から講義をしていただいた。テレビ会議システムを使用する場合、写真32から写真35までのように、講師の映像だけではなくプロジェクターを2台使用してウェブ上にアップロードされた提示資料も投影した。提示資料はプレゼンテーションソフトによって作成されたものをHTMLに変換したものであった。写真36で右側に確認できるデスクトップパソコンが山梨大学教育人間科学部附属教育実践研究指導センター授業研究演習室(4階)と山梨大学教育人間科学部附属附属小学校を結んでいるテレビ会議システムである。なお、このシステムは、2001年4月以降山梨大学教育人間科学部附属教育実践研究指導センター多目的教室(5階)に設置場所を移動する予定となっている。この部分は、山梨大学教育人間科学部附属小学校での近年の情報教育の成果を紹介する内容であった。また、山梨大学教育人間科学部附属小学校の教育実践で、上海の日本人学校とのテレビ会議での交流の事例などの紹介もあり、初等教育においてもすでに遠隔教育の実験が実施されていることが分かった。写真
37は山梨大学教育人間科学部附属小学校で実施された総合学習「パソコンタイム」の指導項目配当表である。また、投影されたテレビ会議画像を写真
38のノートパソコンで撮影し、他のパソコンに送信する実験を筆者は試みた。写真39はノートパソコンに取り込んだ状態である。マイクロソフトメディアエンコーダーを使用して取り込んだ映像をライブ配信した。そして、写真40と写真41がデスクトップパソコンでマイクロソフトメディアプレーヤーを利用して受信した状態である。写真42は映像取り込みようにノートパソコンにUSBカメラを取り付けた状態である。また、写真43の受信映像からは、講師が送信する映像も背景に資料映像を写すように工夫されていることを確認することができる。13
時30分から15時までは、山梨大学教育人間科学部附属中学校教諭の今村淳一氏によって「山梨大学教育人間科学部附属中学校での実践事例」の紹介があった。ここでは、山梨大学教育人間科学部附属中学校での「『自分づくり』を支援する総合的な学習SELF」が紹介された。ここでは、教育課程(行事等)の時間配分や,SELF-B環境領域の「私たちのエコ・プラン」の説明などがあった。写真
44は、パソコンとプロジェクターを使用して講師によって公開講座が実施されている様子である。写真44から写真49までの写真でも分かるように、パソコンソフトによるプレゼンテーションは一般化しつつある。15
時10分から16時40分までは、山梨県総合教育センターの職員である望月勝氏が公開講座を担当した。その際のテーマは「地域の農業の実態から農業について考える−活動計画」である。まず、はじめに、新学習指導要領と「総合的な学習の時間」の関係について講義を実施した。続いて、「新農業基本法」による環境保全型の農業政策の推進についての説明があった。そして、講師自身による無農薬有機農法の実践を紹介し、ご自身で収穫したゴボウ、サツマイモなどの収穫物を持参していただいた。
写真
50と写真51は望月氏の講義風景である。写真50の左側にスライド投影機があり、望月氏は教育機器としてスライド投影機を使用している。そして、教育情報はスライドとして保存している。写真52はスライド投影機で投影された地図である。また、写真53と写真54は実際にスライドを使用している様子であり、写真55は望月氏の講義で使用していただいた机の配置である。机の配置で工夫は、講師と受講者との関係を対面形式からラウンドテーブル形式に変更した点である。16
時40分から17時までの時間を使って閉講式を開催した。閉校式の司会は筆者が担当し、受講生への修了証書授与は山梨大学教育人間科学部附属教育実践研究指導センター長の金子修一氏が執り行った。
5
おわりに
本稿では筆者が企画実施責任者をした「山梨大学公開講座―第7回教員リフレッシュ研修」の内容を説明し、その中で、教育機器がどのように活用されているかを考察することに主眼をおいた。従来、公開講座を企画してもその中での教育機器の利用に関しては、それを採り上げて検討するようなことは一般的には行われておらず、本稿において教育機器に注目した点が本稿の特徴である。その結果、現在の県立施設の職員、小中学校の教員、県総合教育センターの職員の具体的な講義内容を事例として検討することによって、現段階での教育機器利用に関する以下の3点の傾向を抽出することができた。
第1番目に、パソコン、プレゼンテーションソフト、液晶プロジェクターという組み合わせが多用されている点を指摘できる。今回の公開講座では
6名の講師中、附属小学校教諭、附属中学校教諭、筆者の3名がこの組み合わせを利用した。それゆえ、この組み合わせの効果的な使用法を研究していくことは教育方法学研究上重要な研究分野となりえるであろう。第2番目に、テレビ会議システムの導入やパソコンによるライブ配信の実験が工学系以外の分野でも実施され始めていることを指摘できる。この分野は大学間では
SCS(スペース・コラボレーション・システム)として実施され、生涯教育の分野ではel-Net(エデュケーション・アンド・ラーニング・ネットワーク)として実施されている。このようなテレビ会議がいよいよ初等教育機関にも普及し始めている点が注目されよう。第
3番目に、山梨県立科学館などの博物館を有効に活用することによって学校教育はさらなる発展を遂げることができる点を指摘することができる。具体的には、学校という限られた環境に限定して教育活動を実施することに加えて、例えば巨大な天体観測装置など各学校で維持できない施設が県立機関には存在する。地域社会と学校教育が連携していく形態についても、今後研究していくに値する内容となるであろう。また、結論の
3項目からは割愛したが、望月氏のようにスライド写真を教材として活用するという方法は、映写機が揃っていけば講師の準備は他の多くの方法と同様に利便性は高いということも付け加えておく。教育内容によって多様な教育機器の中から何を選定すると効果的であるかを研究していくことは教育実践研究の立場からは今後の重要な課題となるであろう。
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参考文献