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「PC 組み立て運用実習」の試み

企画、教材作成、実習実施

山梨大学 コンピュータ・メディア工学科
石田 朗
石原 誠
大渕 竜太郎
郷 健太郎
鈴木 良弥
服部 元信
美濃 英俊
森澤 正之

報告執筆
山梨大学 コンピュータ・メディア工学科
美濃 英俊


はじめに

共通一次試験、大学入試センター試験による大学入学者 の「点数による輪切り」が問題にされて久しい。確かに受験生にとって センター試験の点数は大学選択の最大のファクターであるようだ。 しかしいくら試験の点数で決めるとは言っても「学部/学科はどこでもよい」 という学生はそんなにいないだろう。 たとえそれが「なんとなく」であっても、学部、学科の選択にはそれなりの興味、 関心が伴っているはずである。 筆者が所属する山梨大学コンピュータ・メディア工学科に入学する学生の 興味、関心の対象として「コンピュータ」は当然外せない。「コンピュータの事を 勉強したい」あるいは「コンピュータを使って何かしたい」、 そのどちらも思っていないという学生はかなり特殊である。

上に挙げたような、漠然とはしているが健全な学生の興味、関心、 これを我々教育する側は十分大事にしているだろうか。 コンピュータ・メディア工学科の1年生前期の時間割表を眺めてみると、 コンピュータ、情報関連のコマは思いのほか 少ない。大学に於いて「広く学ぶ」ことは当然重要だが、低学年、特に初年度において 「どの学科でも同じように」学ばせているとしたら、せっかくの学生の興味、関心を萎 ませてしまうだろう。

新入生の関心に応え、かつ4年間の学科教育の下地となる授業の試みとして、 コンピュータ・メディア工学科では2000年度前期に「PC 組み立て運用実習」 を実施した。本稿ではその実施方法、内容を紹介する。残念なことに現時点では この試みに対する「評価」はまだ十分に行われていない。 にも拘らず敢えてこの小文を寄せるのは、 他の同様な試みの参考にしていただけることを期待してのことである。


実習の目的

教官有志の意見交換を経て、実習の目的は以下のように設定した。

コンピュータシステムを作る経験を通じて学生の興味を増進させ、 またコンピュータシステムに対する具体的なイメージを持たせることで その後の学習の助けとする。


企画、準備

2000年4月の授業開始に向けて、企画、準備は5ヵ月前の1999年11月から開始した。 シラバス原稿〆切が12月であったから時間的にはギリギリのスタートである。 以下におおまかな進行過程を示す。

11月中旬 学科に発議、実施のための有志を募る
12/03 シラバス原案
02/18 学生、院生からのアイディア収集
02/21 教案具体化、教材作成分担
プロトタイプ用物品(2セット)の調達とテスト
03/16,17 リハーサル、アンケート
本番用物品の調達、教材、教案の詰め
04/24 本番第1回目

特徴的な点として

が挙げられる。学生、院生から出されたアイディア、感想の中には貴重なものが少なく ない。例えば組み立てに関して
分解されたものを組み立てるのではなく、 完成しているものを分解し、そして組み立てる。組み立てプランは分解する過程 で考えさせる。組み立てマニュアルはほとんど用意しない。
という秀逸なアイディアを出してくれたのは学生諸君であった。

企画段階で学生、院生から出されたアイディア、意見には以下のようなものがある。


実習内容

学生、院生からのアイディアを採り入れつつ、実習の骨子は以下の通りとした。

  1. コンピュータ入門(主に座学)
  2. PC 分解、組み立て(主に実習)
  3. OS 入門
  4. ネットワーク入門
実施コマ数は5コマ(5週間)とした。コンピュータ・メディア工学科 には2つのクラス (コンピュータサイエンスクラス:Fクラスとメディア工学クラス:Gクラス)が あり、両者の特色を活かして若干構成が違っている。

Fクラス Gクラス
第1週 コンピュータ入門 コンピュータ入門
第2週 コンピュータの分解、組み立て コンピュータの分解、組み立て
第3週 OS、ネットワーク概論 Linux インストール
第4週 Linux インストール ネットワーク設定、利用
第5週 ネットワーク設定、利用 C プログラミング入門

より詳しい内容については、実際に授業で用いられた教材、資料をここに収録する。 なお、以下の教材、資料の利用、再配布の許可等については個々の作者に 問い合わせていだだきたい。

項目、内容 作者
コンピュータ入門 大渕 竜太郎 ohbuchi@cs.yamanashi.ac.jp
石原 誠 evakichi@bigfoot.com
分解、組み立て(PDF形式) 鈴木 良弥 ysuzuki@alps1.esi.yamanashi.ac.jp
OS、ネットワーク 概論 美濃 英俊 mino@cs.yamanashi.ac.jp
Linux インストール(PDF形式) 服部 元信 hattori@media.yamanashi.ac.jp
ネットワークの設定、利用 石田 朗 ishida@esi.yamanashi.ac.jp


実施

実施形態
実施スタッフ
機材、物品
ネットワークアクセス
費用
コンピュータ・メディア工学科の学年定員は 95人であり、各クラス定員は その半数の 50人弱となる。実習の性格上、PC を多人数で共有したのでは 教育効果が薄れる。2人に1台の PC を確保するため、各クラスを2つに分け、 4グループで実習を行った。

2つのグループ(各クラスから1グループづつ)が並行して(ただし違う曜日に) 実習を行い、5週間ののち、残りの2グループが実習を行うこととした。 PC 組み立て運用 実習をしていない半分の学生は「研究室訪問」を中心とする従来通りの 「学部入門ゼミ」を行う。

曜日が違うとはいえ、2つのグループが PC を共有するためには工夫が必要で あった。これができなければ PC が倍必要になって、費用も倍になってしまう。 ハードディスクを脱着可能なものとし、これを PC 本体の2倍用意することで、 PC 本体を共有しつつ、設定状態は個別にすることができる。ただし、本体の 分解組み立て時はどうしても共有はできないので、この作業だけは1日で やってしまう必要がある。

脱着可能ハードディスクケース
脱着可能ハードディスクケースを装着した本体


評価と反省

残念ながら今回の試みについて、十分な評価は未だ行えていない。ここでは、 スタッフ、TA、受講生から挙げられた反省点、感想などを列挙することで、 極めて不十分ながら評価の代わりとさせていただきたい。
実施上の反省点

受講生の感想、意見 [( ) 内は同類の感想、意見の数]
コンピュータ入門について
  • ゲーム機、携帯電話などを見る目が変わった
PC 分解組み立てについて
  • 自作パソコンを作ってみたくなった、改造してみたくなった(8)
  • 時間が足りなかった(4)
  • 分解して組み立てるより、バラバラの状態から組み立てた方が新鮮だったのでは ないか(2)
  • 一人一台でやりたかった(2)
  • いろいろ失敗を経験したのが良かった(2)
  • コンピュータの仕組みをもっと詳しく知りたくなった
  • PC に対する近親感が湧いた
  • 説明はもっと簡単で良い
OS, OS インストールについて
  • これを機会にさらに知識を身に付けたい、分からなかったことを調べたい(20)
  • インストールはできたが、何をしたのか良く分からなかった(9)
  • OSとPCのことが分かってきた(7)
  • 複数の OS をインストールしたのが興味深かった(6)
  • Linux に触れることができて良かった、もっとlinux について知りたい(5)
  • とても良い経験だった(5)
  • 思った程難しくなかった(5)
  • 難しかった(4)
  • 英語についても勉強しなければならないと思った(3)
  • 待ち時間が長かった(3)
  • マニュアルがなくてもインストールできるようになりたい(2)
  • OS の種類や特徴についてもっと詳しく解説してほしかった
  • 何度も失敗したのでもうインストールはやりたくない
  • 面倒で疲れた
ネットワークについて
  • 勉強になった(9)
  • 良く分からなかった(6)
  • 思ったよりも簡単だった(6)
  • 大変な作業だということが分かった(5)
  • 少しずつ専門用語が分かってきた(5)
  • ダイアルアップ接続の実験ができなかったのは残念(4)
  • 自分のパソコンでもやってみたい(4)
  • これを機会にさらに知識を身に付けたい、分からなかったことを調べたい(4)
  • インターネットの仕組みを実感できた(3)
  • 時間が足りなかった
  • PPP接続は面倒
  • 英語についても勉強しなければならないと思った
  • 自分で勉強しているのでかなり知識が増えてきた
  • Linuxが良く分からない
実習全体について
  • 時間が足りなかった。一つのことをもっとゆっくりやった方が良い(7)
  • 時間がかかりすぎる、時間の使い方に非効率な面があった(5)
  • 実習時の説明が長過ぎる(2)
  • 一人一台でやりたかった(2)
  • 説明と実習をもっと細かく区切ってやったほうがよい
  • Linux の使い方についてもっと勉強したかった
  • スライドによる説明では手元にも印刷した資料が欲しかった
  • 用語説明が欲しい


まとめ

十分な評価を行っていないのは何とも片手落ちではあるが、 アンケートの結果と実習中の学生の反応だけから見ても、学生の興味、 関心を増進させるというこの実習の目的は少なからず達成されたと思われる。 この実習は 2001年度も継続して行われる。次回は初年度の反省を採り入れる工夫は もちろんのこと、突っ込んだ分析、評価を行えるよう努力したい。 また、実習を経験した直後の受講生の意見、感想だけでなく、彼ら/彼女らが 2年後、3年後にふりかえってこの授業をどう評価するのか、是非とも調査して ゆく必要がある。


謝辞

山梨大学大学院電子情報工学専攻の古屋利光君と長坂好恭君 (ともに当時修士1年生)、 コンピュータ・メディア工学科の光林 真君(当時1年生) には企画段階において学生の視点からのアイディアを頂いた。ここに感謝 申し上げる。また「モルモット」としてリハーサルに協力して頂いた 山梨大学工学部コンピュータ・メディア工学科の小川純一君(当時2年生)、 物質生命工学科の竹内かほりさん(当時1年生)、法政大学機械工学科の 石原健君(当時入学前)に感謝申し上げる。


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