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家庭科住居領域の授業におけるパソコン利用

田 中  勝

山梨大学教育人間科学部 共生社会講座

tanaka@edu.yamanashi.ac.jp

概要


  山梨大学教育人間科学部では現在、主として家庭科の教員免許状を取得しようとする学生を対象に住居学に関する5つの授業科目を開講している。このうち授業にパソコンやインターネットを取り入れているのは「住居学演習」で、住居・住生活・住環境をテーマにしたWWWの作成やMicrosoft PowerPointを用いたプレゼンテーションなどを行っている。
  ここでは、本学における情報教育の一端として、家庭科住居領域におけるパソコン及びインターネットを活用した授業展開について紹介する。

  キーワード:住居学演習、WWW作成、プレゼンテーション

 

 1.住居学関連科目(専門科目)の開設状況

 (1) 住居学関連科目

  学部改組(平成10年度)やその後の教員免許法改正に伴い、学校教育課程家政教育・住居学分野の授業科目の見直しを行った。改組前(平成9年度)と改組後(平成10年度以降)の授業科目を比較したのが表−1である。各科目の履修年次には幅を持たせているため、ここ数年の状況を見ていると、学生は1〜2年次に「住居学概論」「住環境論」などの基礎科目を履修し、2〜3年次に「住居設計・製図」「住居学演習」などの実習・演習系科目を履修するパターンが定着しつつある。
  なお、このほかの住居学関連科目としては共通科目の「住宅の地方性」がある。

表−1 住居学関連科目(専門科目)の開講状況
〈平成9年度以前〉 〈平成10年度以降(現在)〉
□住居学概論(2)
□住居学各論(2)
□住居史(2)
□住居環境学(2)
■住居学実験(1)
■設計製図基礎第一(1)
■設計製図基礎第二(1)
■設計製図応用第一(1)
■設計製図応用第二(1)
□住居学概論(製図を含む。)(2)
□住環境論(2)
□住生活論(2)
■住居学演習(2)
■住居設計・製図(2)



注)■印は実習・演習系科目。( )内の数字は単位数。

 (2) 「設計製図」におけるパソコン利用

  平成9年度は「住居学実験」「設計製図基礎/応用」などの実験・演習系科目の開講時間数がある程度確保されていたことから、設備の状況や学生の希望などを考慮しながら、パソコンを利用した課題を設定した。具体的には、「設計製図応用第一/第二」において、MS-DOS版のCADソフトであるJW-CADを用いて分譲マンション住戸の平面図作成を行った。学生は、この授業の前までに「設計製図基礎第一/第二」の授業を履修し、製図記号や線の種類、配置平面図・立面図・断面図などの建築図面及び製図法の基本を理解するとともに、木造戸建て住宅の配置平面図や立面図などのトレースを経験していることから、CADによる図面作成にスムーズに移行することができた。製図板・T定規・三角定規・鉛筆などを使った従来の製図法に比べると、CADは作業時間の短縮や図面の修正・追加が容易であり、学生は楽しそうにパソコンに向かっていた。
  CADを用いた設計製図はすでに社会においては一般的であり、工学部建築学科や家政系学部住居学科などの教育分野においても導入が進んでいる。情報化社会の進展とともに教員養成系学部の家庭科住居領域においてもCADの導入を考えていく必要があるが、現実的には製図室のスペースや設備機器(パソコンの台数、能力など)、使用ソフトの選択、維持管理など検討すべき課題は多い。いくつかの制約がある中で、平成9年度は試行的にCADの利用に踏み切ったが、平成10年度以降は住居学関連授業時間数の減少などカリキュラムの移行に伴って、住居設計・製図の授業ではパソコン及びCADの利用を見合わせている。

 2.「住居学演習」におけるパソコン利用

 (1) 「住居学演習」の授業内容

  平成12年度教育人間科学部『授業要覧』では、「住居学演習」(後期、2単位、選択科目)の講義内容を以下のように紹介している。「住居学概論」「住環境論」などの基礎的科目で身につけた知識をもとに、〈地域〉を題材に山梨県の住まいや住生活の実態を把握・分析する方法を身につけさせることを目標の一つとしている。              

 住居の計画・設計に必要な情報収集及びデータ処理の様々な手法について理解するために、山梨県や甲府市内を対象として、地域の住宅事情の統計分析、住み方調査やフィールドサーベイによる住み手の住要求・住様式の把握、アンケート調査による住意識の計量、住宅の耐震診断などをテーマにグループ別演習を行う。

  住居学演習の授業は、教育人間科学部への改組後の学年進行に伴い平成11年度から開講し、履修学生は平成11年度3人(2年生)、平成12年度2人(3年生1名及び科目等履修生1名)であった。当初見込みよりも受講学生数が少なかったことから、グループ別演習という授業形態を個人別テーマ研究という形にアレンジしながら進めてきている。

 (2) 住まい・住生活・住環境に関するWWWの作成−平成11年度課題−

  平成11年度の演習課題は「住まい・住生活・住環境に関するWWWの作成」とした。教室は教育人間科学部J号館2階のマルチメディア教室で、Microsoft Wordに付属のWWW作成機能を用いてホームページの作成を行った。
  ホームページの内容・テーマは、「住居学概論」や「住居設計・製図」で学習した内容や各自の興味・関心にしたがって学生が自由に決めてよいこととした。最終的に3名の学生が選んだテーマは、「畳」「リビング」「騒音」であった。

 1)ホームページとは何か。

  学生は1年次に「情報処理入門及び実習」の授業を受けており、パソコンの基本操作やインターネット(電子メールやWWWなど)についての学習経験を持つ。休憩時間に友人とメールのやりとりをしたり、WWWのブラウジングを楽しむなどインターネットは学生にとって生活の一部になりつつあるが、実際にあるテーマを決めて、それに関連する素材を収集し、実際にホームページを作成したことのある学生は一人もいなかった。したがって、「住居学演習」の授業では、「情報処理入門及び実習」の復習の意味も兼ねてインターネットの仕組みやhtml、WWWサーバー、ftpなどホームページの作成・公開に必要な知識を解説することから授業を始めていった。

 2)テーマ設定及びコンテンツの検討

  先に述べたように、WWWのテーマは基本的には学生の意見を尊重したが、関連資料の調査検討や素材収集の難易度などを考慮し、さらに15回の授業の中でWWW作成から公開までたどり着けるように適宜アドバイスを行った。
  テーマが決定した学生は、まず、検索エンジンを用いてインターネット上の類似のページを調査し、自分のテーマに関連の深いものは最終的にリンク集として整理させた。自分の選んだテーマに沿った素材や調査データがWWW上では得られない場合には、現地調査(見学やヒアリングなど)を行うこととした。たとえば「畳」をテーマにした学生は実際に「畳屋」へ出かけて畳の材料やつくり方についてヒアリング調査を行い、「騒音」をテーマにした学生は甲府市役所の担当課係で騒音調査法等についての資料を集めてきた。
 テーマ設定から素材収集までの作業経過については毎回、授業時間内で報告を受ける形を取ったが、授業時間以外にも随時、電子メールで作業状況を報告してもらうようにした。 

 3)WWWの作成

  集めたデータや素材をもとにホームページの作成を行った。文字や図表等の挿入、大きさ・色などの設定で試行錯誤を繰り返しながら、最終的には受講学生全員がユニークなWWWを完成した。
  たとえば、「畳」をテーマにしたページでは、自分が住んでいるアパートの間取りと家具配置をWindows付属のペイントソフトを使ってラフに描き、畳の長所や短所を比較しながら「畳のある暮らし」について考えようとしている(下図左)。また、「畳屋さんへゴー!!(1)」のページでは、実際に甲府市内の畳屋へ取材に出かけ、畳の製作過程や工夫、消費者ニーズの傾向などの聞き取り調査を行い、これにデジカメで撮った写真を加えて分かりやすく紹介している(下図右)。 

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「私の畳生活」のページ

「畳屋さんへゴー!!(1)」のページ

  

 (3) PowerPointを用いた住情報の公開−平成12年度課題−

  平成12年度はMicrosoft PowerPointを用いてプレゼンテーション能力の育成に重点を置いた。単にPowerPointの使い方を学ぶだけではなくて、住居学に関連のあるテーマを設定し、そのテーマに沿って必要な調査等を行い、一定のストーリー性を持ったプレゼンテーションができるように考えた。ただし、共通テーマは「住情報」とした。

 1)テーマ設定と基礎資料の収集

  平成12年度の履修学生は2人(社会人及び3年生)であったことから、テーマは、それぞれ「甲府市に転入してきた人が市内で住宅を探す場合の住情報(一般向け)」と「山梨大学の学生がアパートを探す場合の住情報(学生向け)」とした。 

 2)作品1『ようこそ甲府へ−甲府市へ転入する皆さんへ−』(作成:佐野和子)

  甲府市内に転入してきた世帯を想定し、見知らぬ土地で住居を選択する場合に役立つ住情報やアドバイスを分かりやすく伝えることを目的としたものである。ここでは、資料として、甲府市が平成10年3月に策定した『住宅マスタープラン報告書』の調査データや山梨中央銀行による民間賃貸住宅の動向調査結果、住宅金融公庫南関東支店発行の『甲州すまいづくり読本』などの資料を活用し、甲府市内の地域別住環境特性や家賃・住宅規模水準について紹介している。また、近年の住宅情報源の多様化を受けて、住宅情報誌や行政窓口、インターネットなどの活用方法についても説明している。ユニークなのは、住居を選ぶ際には、こうした情報源を活用する前に、住宅選択の場面において「何を重視するのか」「どのような生活をしたいのか」を住み手に問いかけるシーンを設定していることである。さらに山梨県民の特性や地域コミュニティにも触れている。生活情報を加えた住情報としてプレゼンテーションを組み立てている点がとても興味深い。以下は、プレゼンテーションの一部である。

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表紙 住まい選びのポイント 民間賃貸住宅の規模 地域別にみた家賃水準

 3)作品2『学生のアパート探し』(作成:八幡郁美)

  この作品は、山梨大学の学生が大学周辺でアパートを探す場合を想定し、本学学生に対するアンケート調査(学生の住まいに関するアンケート調査、平成8年11月実施)の結果や自らのアパート生活体験、及び友人・知人の意見などを資料として、よりよいアパート選びのための住情報を提供することを目的としている。
  まず、アンケート調査結果から、学生の居住実態(住居の種類、設備、家賃、情報源、居住性評価など)を明らかにするとともに、山梨大学学生のアパート7軒を訪問し、デジカメで撮った外観や間取りの写真を紹介しながら、居住者の生活体験に基づく分析を行っている。さらに、アパートの居住性を大きく左右する「収納」「キッチン」「浴室・トイレ」について詳細な検討を行うとともに、アパート周辺の住環境についても観察し、「交通」「ゴミ」「外灯」などの問題点を引き出している。以下は、プレゼンテーションの一部である。

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表紙 一人暮らしの長所・短所 収納スペースの問題点 身近な住環境の点検

 

 3.まとめ

  以上が「住居学演習」において実施したパソコン及びインターネットを利用した授業の概要である。インターネットの普及や、卒論・学会発表などでパソコンを利用したプレゼンテーション能力が求められている状況を踏まえ、学生自身が住居・住生活・住環境に関するテーマを設定し、〈資料の収集〉〈問題の構造的把握〉〈目標設定及び解決方法の提案〉へと筋道を立てて展開していけるように、WWW作成やプレゼンテーションに関する課題設定を試みた。演習内容は学生に概ね好評であり、パソコンは学生の情報処理・分析能力や表現力、想像力、説得力などの育成を支援するツールとして有効だったと考えられる。今後、授業効果をさらに高めていくため、授業時間配分や設備機器の充実などについて改善していく必要があると考えている。

■謝辞
 本稿は、平成11年度及び12年度の「住居学演習」を受講した下記の学生作品をもとに、筆者が全体を構成したものである。ここに記して感謝の意を表したい。

 教育人間科学部・学校教育課程・家政教育専修 平成10年度入学生 田崎真佐子・向山美貴子・八幡郁美・横山直樹
 教育人間科学部・平成12年度科目等履修生 佐野和子
                 

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