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統合的情報システムの構築

寺田信幸、嶋宮民安、岩戸 忠、 原 哲夫**、浅川辰仁**、山本洋一**

山梨医科大学実験実習機器センター
**山梨医科大学庶務課情報処理係

nterada@res.yamanashi-med.ac.jp
tamiyasu@res.yamanashi-med.ac.jp
tiwato@res.yamanashi-med.ac.jp
thara@res.yamanashi-med.ac.jp
tasakawa@res.yamanashi-med.ac.jp
yooichi@res.yamanashi-med.ac.jp

要旨

知的生産基盤、情報交換基盤、情報蓄積基盤を確立し、教育、研究、診療、事務が効率的かつ効果的に行える環境を構築することを目的として、平成6年から取り組んできた本学の情報システム化について報告する。統合的に情報システム化を推進するには、情報通信基盤の整備、情報処理端末の充足、システムソフトウェアの統一、運用組織の構築、コンテンツ開発が必要である。それぞれの要因を、全学的な協力を得て段階的に推進した。その過程において、他大学に類を見ない処理システムやマネージメント手法が創出された。現在も情報システム化は順調に進められ着実に成果を上げている。情報システム化を推進する事により得られる成果は、利便性の向上や省力化、省資源化だけではなく、組織や業務形態を見直す機会となり、より機能的で協調性のある組織への変革につながる。

キーワード:統合的情報システム、知的生産、情報交換、情報蓄積、分散型データベースシステム

1. はじめに

情報は元来、人の五感を通して伝えられる。五感とは視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚であり、さらには第六感まである。遠い昔、人は直接出会い、情報交換を行った。情報は記憶としては残ったが、時間ともに変質し、やがて喪失。そして、文字が出現し、その文字を伝える媒体も石、皮、紙など、と文明の進歩に応じて変化して行った。情報は蓄積され、文明は加速度的に発展して行った。その間に音の伝達による情報交換も可能になり、そのスピードは飛躍的に増大した。そして、この世紀の変わり目に、情報通信技術は急激な発展を遂げ、文明自体大きく変化しようとしている。

本学においては、この情報通信技術を積極的に活用し、人的、経済的制約を受ける中、教育、研究、診療、事務が効率的かつ効果的に行えるよう、情報システム化を統合的に推進してきた。これまで取り組んできた情報システム化について報告する。

2. 情報システム化の目的

山梨医科大学における研究活動、教育活動、診療活動、事務業務における知的生産基盤、情報交換基盤、情報蓄積基盤を確立し、教育、研究、診療、事務が効率的かつ効果的に行える環境を構築する。

3. 情報通信基盤と情報処理端末の整備

情報通信基盤であるネットワーク整備は、平成5年度補正予算によるキャンパス情報ネットワークの導入から開始された。平成6年3月にFDDIを中心としたネットワークの敷設が完了し、その後ネットワーク試験、端末接続、試行期間をへて、9月より本運用が開始された。ネットは各研究室、附属施設、事務局各課すべてに敷設し、パソコン端末も配布した。教官、技官、事務官の区別なく職員であれば誰でも同じ条件で利用できる環境を整備した。当初よりインターネットに接続し、電子メール、電子掲示板、ホームページ開設、文献検索システムなどのサービスを提供した。

平成7年度末には図書館がこれまでのオフコンによる蔵書管理システムからワークステーションによる新システムに更新され、IP接続が可能となった。また、事務電算化も積極的に推進され、事務汎用コンピュータをIP接続し、各課・係の端末もすべてネットワーク接続された。平成8年度には、各講座に事務処理用としてパソコン端末が配付されネットワークに接続された。附属病院も看護部、救急部、検査部、輸血部、手術部、放射線部、薬剤部などを接続するためのLAN敷設工事を平成8年3月に行い、5月より講座同様インターネット、イントラネットが利用できるようになった。

平成10年度に情報処理センターとして機器設置予算が認められ、FDDI幹線も活かしつつ現在稼動しているATM高速ネットワークを構築した。また、モバイル環境としてPHS-無線LAN網を整備し、データ通信、音声通信ともに学内外とシームレスに接続されている。端末整備も行い、全講座、附属施設にWindows端末、Mac端末、モバイル端末、ネットワークプリンタを整備した。このように、情報通信基盤の整備を経年的に行うと共に、機会ある毎に端末整備を行ったことにより、情報システム化を統合的に行うことのできる環境が整備された。図1にネットワークに接続された端末の推移を示した。利用者の身近に常に使える端末があることの意義は大きく、リテラシーの向上にも繋がり、システム化を順調に推進する大きな力となった。

4. 基本的システム構成の統一

次に統合的に情報システム化を推進するためには、システムソフトウェアの統一、分散型データベースの構築、セキュリティ確保、個人認証、発生源入力などを実現する必要がある。そこで、ネットワーク導入当初より、基本的システムソフトウェア構成を統一した。システムの導入および開発を行う際は、Oracleシステムでデータベースを構築し、端末側はWebブラウザで入出力できるシステムを基本とした。図2にシステムソフトウェアの基本構成を示した。これにより、端末となるパソコンのOSはWindowsでもMacでも自由に選択でき、端末側に特別な業務ソフトを用意する必要がなくなった。ただし、このWebサーバを利用するシステムでは、事務業務で必要となる閲覧・保存用の最終出力書類の印刷には不向きであることから、印刷専用サーバを別に構築した。図3にシステムの概念を示した。これを基本として、平成10年度、事務局各課にワークサーバを設置しクライアントサーバシステムを構築した。さらに、平成11年度には、図書館のシステムがすべてクライアントサーバシステムに更新され、事務局も汎用システムの更新に伴い、ワークサーバが増設強化された。

この基本的システム構成の統一は、分散型データベースを構築した際、蓄積された情報の共有を可能とし、統合的な情報システム化の要となる。また、基本的システムソフトウェア構成のみの統一としたことにより、サーバなどハード面での仕様やメーカの制約は受けない。従って、導入する部署の業務内容や予算の都合で、自由にハードを選択でき、この点が段階的な整備を可能とした。

5. 総合的マネージメント可能な運用組織

情報通信環境の整備や基本的システム構成の統一は、機器センター、図書館、事務電算、医療情報部など関連部署それぞれが、常に連絡を取り合い相互に協力しながら、無駄の無いシステム構築を進めてきたことにより可能となった。しかしながら、実質的に情報システム化を統合的に進めるには、個々の作業フローの見直し、セクショナリズムからの脱却、横の連携、相互補完、前向き思考への誘導などが必要であり、総合的にマネージメント可能な運用組織が必要不可欠である。そこで、平成10年4月、ネットワークを活用した統合的な情報システム化を推進するため、情報処理センターが学内措置された。事務部門においても庶務課に情報処理係が新設された。新臨床研究棟3階ネットワーク管理室に情報処理センターと庶務課情報処理係が同居し、一体となって大学全体の情報システム化を統合的に推進することになった。組織としては命令系統も予算も別で互いに独立しているが、実質は一体化して大学全体のネットワーク管理から運用、保守、利用者サポート、システム開発まで、教育、研究、事務の区別なく対応している。このような教官組織と事務組織が独立性を保ちつつ、機能的に融合して運営する形態を採るマネージメント手法は、国立大学としては新しい。

6. 情報システム化の現況

現在稼動中および準備中のイントラネットシステムを図4に示した。システム化を推進するに当っては、逐次展開を基本とし、1)デモ環境の構築、2)関連部署への提示、3)実験的運用、4)全学への展開、と言う手順で進めてきた。また、基本となる業務システムは、まずパソコン上で市販のアプリケーションにより構築し、実務担当者と共に基本機能の検討を行った。このパソコンレベルのシステムを、必要最小限の範囲で実際の業務に試用し、問題点等の抽出を行った。このパイロット試験的な検討を十分に行うことにより、効果的なシステム設計が可能となった。また、拡張性を考慮したシステムとすることで、類似する業務の段階的システム化を可能とした。

予約システムは、まず機器センターの実験室・測定機器予約のシステム開発を行い、鍵管理システムとの連携など運用実績を確認した後、会議室予約、講義室予約と順次拡張してきた。現在、鴻臚館の予約システムを作成している。これら予約システムの稼動により利用者側は、担当者への問い合わせや調整の必要がなくなり、随時必要な予約が可能となった。担当者側も予約表の作成や利用者との対応が無くなり業務が軽減された。またペーパレス化を目指し、機器センター研究支援の依頼システム、各講座等からの物品発注・予算管理システム、図書購入依頼システム、電子掲示板をイントラネットにより構築した。現在、研究業績を随時収録する業績収録システム、会議などの予定を調整するスケジュール管理システムを構築中である。物品発注・予算管理システムは、利用者、会計担当者ともに業務が大きく軽減された上、会計処理作業の効率化が図られた。大学組織においてこのようなシムテムが有効に機能している所は、著者の知る限り今の所無い。その他、事務汎用システムの人事データベースと連携させた、入退室管理システム、身分証明書発行システムも稼動している。

7. 教育環境の整備

教育に関しても、先進的な情報システムを積極的に取り入れ、次世紀に対応できる医学教育を目指し、環境整備を行っている。学生が自主的に学習できる環境を提供するため、講義棟1階にネットワークに接続されたパソコンやプリンターなどを設置した教室を準備し、24時間学生に解放している。管理は学生会・学生ネットワーク管理委員会が行い、学生の自主管理で運営されている。この自主学習室を整備するにあたって、機器の搬入からネットワークへの接続、端末のセットアップに至るまで、すべての準備は、学生の手によってなされた。利用状況を図5に示した。夏休み等の休暇期間を除くと1ヶ月に延べ約4000人もの利用がある。利用時間もほぼ24時間に渡り、学生の積極的な利用がなされている。また、主な講義室には液晶プロジェクターとVOD(ビデオ オン デマンド)端末を設置し、講義棟3階にはマルチメディア教材を活用した講義ができる教室も整備した。

一方、インターネットをはじめとする情報化の波は日常の学生生活にも及んでいる。そこで、平成11年度より、学生全員にメールアドレスおよびネットワークアカウントを付与し、学内はもちろん学外からでもPHS、ISDN、公衆回線を通じて大学のネットワーク環境が利用できる体制を整えた。これにより、学生も教職員同様、いつでも、どこでも、インターネット接続ができる上、大学が用意する学生用電子掲示板やWWWサーバを利用することができる。

このメールアドレスおよびネットワークアカウントの発行は職員も含め、人事データベースからのデータ抽出、各サーバへの登録、個人認証、身分証明書の発行、附属施設への入退室管理などと連動して行われ、統合的な情報システム化が効果的に機能している好例である。

8. おわりに

平成6年から取り組んできた本学の情報システム化は、学生も含め全学的な協力により、順調に進められ着実に成果を上げつつある。情報システム化を推進する事により得られる成果は、利便性の向上や省力化、省資源化だけではない。システム化を行う際に、これまで人が行っていた同じ手順や形式にとらわれていると良いシステムはできない。思い切った割切り方も必要となる。また、係や部署にこだわっていると良いシステムはできない。これまでの慣習や組織にとらわれず仕事の流れを作り上げることが必要となる。すなわち、情報システム化を上手く推進することは、組織や業務形態を見直す機会となり、より機能的で協調性のある組織への変革につながる。

参考文献

  1. 1) Terri Quinn-Andry and Kitty Haller (1998) Designing Campus Networks. Macmillan Technical Publishing, USA

[構成図等]

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