[研究報告の目次へ戻る]

学部入門ゼミ利用

 

寺戸節郎

 

            1 目的と情報教育組織

            2 利用環境、利用 Soft

            3 実施内容

            4 効果と問題点

            5 今後の方針

            注

 

 

1 目的と情報教育組

 「学部入門ゼミ1」(前期・2単位・必修)は教育人間科学部の各コース、専修別に開講され、全課程の1年次生が履修する。このうち国際共生社会課程・共生社会コースのクラス(060001Q)は、本年度は「マルチメディア情報処理教室(J216)」を利用して開講され、22名が履修した。

 他のコース、専修と同様に本コースの学生にとっても、専門科目を履修し、卒業論文を作成するうえで情報リテラシーの向上がますます必要になっている。そこで、本クラスの授業計画2では、情報リテラシーの向上を動機づけることに資するために若干の演習の時間がもうけられている。この演習の時間では、一般に利用頻度の高いソフトウェアの社会科学の分野、とくに経済学分野における初歩的な活用を紹介し、受講者に体験してもらった。

 本年度は2名の教官で「学部入門ゼミ」の全般的な運営にあたった。筆者は、社会科学の研究方法などについての講義とともにこの演習の時間を担当した。また、他のいくつかのクラスと同様に講義も上記の情報処理教室の設備を利用した。

 

2 利用環境、利用Soft

 マルチメディア情報処理教室のシステム(YINS-EDU/3)の概要3は次のとおりである。

  ハードウェア:

o     端末(NECEXPRESS 5800/53)       31台

o     イメージスキャナ(multiReader600s)      1台

o     液晶プロジェクタ1台と60型偏向スクリーン   1台

o     ページプリンター(Multi Writer2000X)      3台

o     カラーページプリンター(Multi Writer7000PS) 1台

o     卓上テレビカメラ(Axis NET EYE 200)      1台

  ソフトウェア:

o     OS:WindowsNT Workstation 4.0

o     Microsoft Office97Professional Edition

o     Microsoftvisual BASIC 4.0 Standard Edition

o     Netscape Navigator4.0, winbiff, Microsoft Explore 3.0、Premiere

 授業で主に利用したソフトウェアは、MicrosoftOffice97(Excel、PowerPoint)、Netscape Navigator 4.0、Mathematica 3.0である。

 

3 実施内容

 本年度において受講者に体験してもらったソフトウェアの初歩的活用の主な項目は、

·      データの検索とダウンロード

·      グラフの作成とカスタマイズ

·      経済学の初歩的な問題演習

·      プレゼンテーションと資料検索

である。4回の授業がこの演習に割り当てられた。

 

 データの検索とダウンロード

 グラフを作成するための準備としてブラウザを用いてネット上で経済統計データを検索し、ダウンロードした。時間の制約があったので、検索するサイトはあらかじめ指定した。

  検索サイト:日本経済新聞社 NIKKEI NeT4

  検索データ:株式・円相場5

 

 グラフの作成とカスタマイズ

 並行して履修された「情報科学入門及び実習」の復習をかねて、ダウンロードした株式・円相場のデータを用いて表計算ソフトで日経平均株価と対ドル円相場の時系列グラフを作成した。その際、textファイルで保存したデータを取り込み、形式を整えた。また、次のようにグラフを社会科学分野における一般的形式にカスタマイズ6した。

 

 

 経済学の初歩的な問題演習

 表計算ソフトを用い、毎期の均等積立額や産業別の産出量を求める問題を解いた。すなわち、下記のツールや関数を用い、前者では元利合計の目標額を達成するのに必要な毎期の均等積立額を、後者では産業間の投入産出係数と産業別の最終需要量を所与として産業別の総産出量7を、それぞれ求めた。

  均等積立問題 :ゴールシーク

  産業別産出問題:MINVERSE、MMULTI

 また、数式演算ソフトを用い、上記の産業別の総算出量を求めるとともに、最適生産量を求める問題を解いた。すなわち、下記のコマンドを用い、所与の収入関数と費用関数などをグラフにし、演算によって最適生産量を求めた8

  主な使用コマンド:Solve、Plot、D(∂)

 

  プレゼンテーションと資料検索

 プレゼンテーション作成ソフトを用い、特定のテーマについてプレゼンテーションを作成し、スライド使って発表を行った。手がかりとなる文献を示し、必要な資料のインターネットによる検索・収集とあわせ、テーマについてのプレゼンテーションの作成を夏季休業中の課題とした。

·      テーマ:MBAについて(各自の視点から)

·      ウィザード:インスタントウィザード

·      発表者の抽選:乱数(表計算ソフトで生成)による

 また、筆者の担当した時間では、同じソフトで作成したプレゼンテーションを用いて授業を行った。たとえば、前記の産業別産出問題の産業間の投入・産出関係を次のスライドを用いて説明した。

 

 

4 効果と問題点

 期待される効果

 演習に割り当てられた時間数からしも、この授業を受講した学生が直ちに情報処理に習熟することは期待できない。しかし、今後の専門科目9の履修、とりわけデータの収集と処理や若干の数式による展開を必要とする専門科目の履修では、適応がより容易になることが期待される。また、経済学専攻の学生のほとんど全員が卒業論文を執筆する過程で統計データの収集と処理を行っていることからも、上記の専門科目への導入を通じて間接的に卒業論文の作成に必要な情報リテラシーの向上に資することが期待される。  

 さらに、プレゼンテーションの作成10で観察されたように、簡単な説明を受けた後にソフトウェアのガイドにしたがって自学自習することにより、ソフトウェアの基本的な使用方法を短時間でマスターする基礎的能力の函養に資することも期待できる。

 

 問題点

 受講した学生の情報処理スキルには、この段階で既にかなりのばらつきが見られた。また、指示どおりの操作をしない場合も見られた。これは、とくにデータの検索とダウンロードにおいてブラウザとデータ保存形式を選択する際に目立った。その結果、グラフの作成とカスタマイズにおいては、意図したグラフを作成することができない場合があった。当初取り上げることを予定していた演習の題材が多かったことともに、情報処理のスキルのばらつきと指示と異なる操作による進行の遅れは、予定していた題材11のいくつかを割愛せざるを得ない一因となった。

 本来の科目の目的から、学部入門ゼミは前期に開講され、1年次生が履修する。しかし、この段階では高校までの地歴・公民の科目と大学における社会科学分野の科目の違いが認識されている可能性は高くない。したがって、表計算ソフトや数式演算ソフトを活用する意味が十分に理解されているとは言いがたく、経済学の初歩的な問題演習においてはそれらのソフトを研究ツールとして活用するという意味での演習についての興味関心は高くないように見受けられた。

 また、備え付けのスクリーンが小型であり、端末の位置によっては見づらい場合があったこともあり、英数字や演算記号などの入力ミスも散見され、解の値が正しい値と一致しない場合があった。

 プレゼンテーションと資料検索については、先のような理由からプレゼンテーション作成ソフトの基本的な機能の説明に時間を十分とることができなかった。そのこともあり、活用されている基本的機能にかなりばらつきが見られた。また、すべてのプレゼンテーションの内容が手がかりとして示した文献の抜粋のみであり、その他の資料は参照されておらず、データ検索とダウンロードの成果がいかされていなかった。

 さらに、この科目に限らず、板書をしないとノートをとらない場合が目につく。この科目では、プレゼンテーション作成ソフトで作成したスライドを用いて説明を行ったが、ただスライドをながめているだけでノートをとらない場合が大半であった。

 最後に授業全般の受講態度については、端末の起動と同時に着信メールのチェックやメールの送信を始める場合が目についた。なかには処理が授業開始後にずれ込む場合、授業中も断続的にメールの処理を行う場合が見られた。遅刻とともに、これも授業開始が遅れたり、授業中の指示が徹底せず進行が遅れる一因であった。

 

5 今後の方針等

 今回取り上げた演習の題材は、分野としてはやや特殊であり、内容も応用的かつ多岐にわたっていた。内容、使用するソフトの種類もやや多かった。そこで、次回以降は、人文・社会科学の各分野に共通し、かつ基礎的な内容の題材を精選して取り上げる予定である。

 具体的には、むしろ今回は割愛せざるを得なかった、もっぱらブラウザとワープロソフトによる文献・資料の検索とリストの作成、論文・レポートのスタイル、書き方の演習が考えられる。

 また、所定の時間内にできるだけ円滑に演習を進行できるように、開講時に受講上の注意事項を周知させるとともに、開講後も随時その徹底をはかることが肝要である。

 

 

 

1授業では「新入生に対して、大学での生活・学習の基本的なオリエンテーションを行い、一般教養を含めた大学でのより高度な専門知識を修得するために必要な基本的知識および基礎的な技能を教授する」[’00授業科目要覧教育人間科学部・専攻科、2000、3−12頁]。

2クラス毎に授業計画には特色があるが、ほぼ共通して時間がもうけられているのが、授業担当教官と組織の紹介、大学での学び方、分野別の研究の紹介などである。

3詳細は「総合情報処理センター主要システム・マルチメディア情報処理教室(YINS-EDU/3)」を参照。

4URLはhttp://www.nikkei.co.jp/である。

5URLはhttp://rank.nikkei.co.jp/keiki/market.cfmである。

6既定の形式で作成したグラフは次のようになる。

 

 

7産業間の投入・産出関係、産業別の最終需要量、産業別の総産出量の計算過程は下記のとおりである。A-1の算出にMINVERSEを、Xの算出にMMULTIを用いた。

 

 

8入出力の詳細を参照。その場合、TCが費用関数、TRが収入関数を表す。

9国際共生社会課程共通専門科目および共生社会コース専門科目のうち、いわゆる情報処理教室(教育人間科学部附属教育実践研究指導センター・マルチメディア教材作成室(J322)(http://www.kjb.yamanashi.ac.jp/fac/facilities.html参照)を含む)で授業が行われている科目は、

 前期:英語CALLI、ドイツ語CALL I、ドイツ語CALL II、フランス語CALL I

 後期:英語CALLII、フランス語CALL II、共生社会と統計、地域経済論基礎演習

である。

 データの収集・処理や数式による展開が必要となるコース専門科目としては、その他に

 前期:現代社会の経済分析、地域経済の変貌、マネジメントの国際比較、

    経済調査及び隣地研究、地域経済論応用演習、生活科学論応用演習

 後期:地域活性化と中小企業、経済の理論と実際、会計と社会的共生、

    生活科学論基礎演習

などが考えられる。

10作成されたプレゼンテーション(総数20)の概要は次のとおりであった。

  スライド枚数 : 5〜6枚 4、 7枚〜9枚 8、 10枚〜12枚 7、 13枚〜17枚 2

  デ ザ イ ン: 既定のデザイン 2、選択したデザイン 18

  動作設定ボタン: あり 10、     なし 10

  レベルの区別 : あり  6、     なし 14

  表    現 : 文章のみ  7、  箇条書きのみ 1、   混 在 12

  その他の工夫 : クリップアート、グラフの挿入 各 1

11割愛した題材には、次のものが含まれる。

  ワープロソフト:論文・レポートのスタイル、論文・レポートの作成

  表計算ソフト :データベース、統計解析、文献リスト作成

  ブラウザその他:文献・資料情報ソース、文献・資料検索

 

[研究報告の目次へ戻る ]