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「情報科学入門及び実習」(教育人間科学部)の現状

教育人間科学部ソフトサイエンス講座

入山 裕

 標記授業は、今日の情報ネットワーク社会に不可欠なネットワークリテラシーおよびコンピュータリテラシーを身につけることを目的に、実際にコンピュータを使いながら行う実習形式の授業である。4年前から1年生の必修になったが、私はそれ以前から選択科目であったその授業を担当しており、また2年前からは教育人間科学部全5クラスのまとめ役を任されており、その授業に関する多くの問題に直面してきた。本稿ではそれら種々の問題点をいろいろな側面から捉え、この授業の非常に恵まれていない現状を報告する。

1.大学の問題

 教育人間科学部の「情報科学入門及び実習」が数々の問題を抱えるようになったのは、4年前の学部改組の際に必修扱いになった時からだと思われる。当時としては、学内に学生用の端末は相当数確保されていたが、1年生全員(本学部では約200名)が履修することを考えると、情報処理実習室のキャパシティーは十分とは言えなかった。とりわけ本学部では、小さい講座がたくさんあり、ある程度の人数が揃う時間枠は限られており、結局前期火曜IV限と木曜IV限の2つの時間帯に集中してその授業を開講せざるを得なかった。1クラス平均約40名で火曜日は2クラス(約80名)、木曜日は3クラス(約120名)である。

 ところが定員40名以上の情報処理教室は、工学部の授業との兼合いで、火曜日は1つ、木曜日は2つしか使用できなかった。従って、火曜・木曜の各1クラスは、本学部教育実践センターのマルチメディア教室(MM室)で行うことになった。ただし、そこにあるのはWindowsではなくMacintoshであった。それも当時でもそれほど新しくないLC520という機種であった。4年前の教室の配分の詳細については私は知らないが、工学部に取られたという意識はあまりなく、Macでもいいという感じであったと思う。

 しかし現実には、学内にある端末のほとんどはWindowsであるにも拘わらず、本学部の40%の学生はWindowsによる授業が受けられず、学生のために設置してある学内の端末が実質使えないという状況が生じることになった。もちろんMacの基本的な機能・ソフトがWindowsより劣るということはないが、MM室しかその端末がなく、また使用できる時間の制約もあり、Windows利用者に比べれば非常に大きな不便を強いてきた。表だって不満を述べる学生はごく少数であったが、アンケートをとってみると、Windowsが使えない学生の不満が数多く聞かれた。

 マシンの不具合も悩みの種であった。これはMM室に限ったことではないが、特にMM室の古いMacはトラブルに悩まされ続けた。当初はなんとか40台を使える状態にして、かろうじて学生一人に1台を割当てることができたが、故障して使えなくなるマシンが続出した。そこでまず教師用の端末を学生に開放し、それでも足りなくなってくると2人で1台を共有することになった。結局、次の年からはMM室のクラスの学生の一部を他の大きい教室に移すなどの措置でしのいできたが、その結果、クラス間の人数のアンバランスが大きくなるという別の問題も発生した。

 またこのLC520ではパスワードの変更に関して、原因不明のトラブルが発生した。毎年34名だが、適正にパスワードを変更したにも拘わらず、受け付けてもらえないことがあった。情報処理センターに事情を説明して、初期パスワードに戻すように要請しても、週明けまで対応してもらえず、その学生は別メニューで授業時間を過ごさなければならなかった。

 Macクラスを抱えていることは、この4年間、我々担当者および情報教育委員会の学生に対する一種の負い目でもあった。そしてやっと、来年度(平成14年度)に向けてそれを解消するチャンスがやってきた。平成14年度から情報処理教室が一つ増えるということで、火曜と木曜に1クラスずつあったMacクラスをWindowsで行うことにした。同時に、上で述べたクラス間の人数のアンバランスも解消できるものと期待していた。

 我々は、この授業が総合情報処理センターから内容や期限について一部指示が来るような”お墨付き” の必修の授業であることから、来年度から1つ増える教室は確実に使用できると踏んでいた。ところが教室の割り振りを決定する合同教務委員会では、これまでの既得権は認めず、必修・選択も考慮しない、などといったルールで、この授業も他の授業と”平等に”教室の争奪戦に加わることになった。結局、火曜も木曜も希望した教室は使用できず、最終的には小さめの教室が割当てられ、期待していたクラス間の人数のアンバランスは来年度は解消できそうにない。必修でなければわざわざ工学部の専門の授業と争う必要は全くなく、最初から小さい教室を受け入れるか非開講にすればいいだけの話である。必修であるのに希望する広さの教室が使用できないのであれば、まだ情報処理教室が十分に整備されていないと言わざるを得ない。

2.教官の問題

 担当教官の確保も本学部にとっては大きな問題である。4年前の学部改組の時、本授業を担当していた先生、あるいは情報教育に詳しい先生がかなり工学部に移っていかれた。しかし授業の内容はそれほど高度ではないので、担当できる先生は本学部にも大勢いらっしゃるはずである。できれば各講座から平等に担当者を出してもらいたいのだが、主題別科目免除という特典をちらつかせても進んで引き受けていただける先生はほとんど皆無で、一人探すのにもかなりの労力を要する。結局、比較的コンピューター操作に慣れた方が多い理科系の講座の担当者が多数を占めることになる。この授業は専門ではないが、やはり学生の指導は同じ講座の教官が行うほうが好ましいと思う。そうすることで、後々、専門の授業等でもこの授業で学んだことを活用しようという雰囲気が講座の教官の中にも生まれると思われるからである。もしこの授業が必修でなければクラス数も減り、担当教官の数も少なくてすむのであろうが、この教官確保には今後も頭を悩ますことになりそうだ。

 次に、あとでまた詳しく述べるが、学生はこの授業期間が終了した後、ここで学んだことをあまり活用していない。例えばメールにしても、大学がすべての学生にアカウントを準備し、この授業でメールが使えるようになっても、その後、多くの学生が使わなくなる。それは本学部の教官にも原因があると思われる。つまり、学生相手にメールで連絡する教官が非常に少ないことが学生のメール離れにつながっていると考えらる。学籍番号がアドレスになっているのは、ある意味では危険かもしれないが、教官にとってはすべての学生のアドレスが把握できており、容易にメールで交信が可能である。たとえば授業での課題の提示やレポート提出、呼び出し、休講などの連絡は、もはやプリント配布や掲示の必要はなく、メールで簡単に可能である。教官側がメールの使用を授業で積極的に働きかければ、学生も真剣にメールを使いこなそうと努力するはずである。しかし現実には、学生にメールで連絡しても反応がないことが多く、読んでもらっているのか不安になる。従って、成績にも関係するような重要な事柄の連絡には、一人でも読まない学生がいると不公平になるので、メールは使えない状況となっている。つまりそういう悪循環で学生はメールを使わなくなっている。

3.学生の問題

 4年前に必修となったことで、教室での大きな変化が2つある。一つは当然ながらクラスの学生数が増えたことだが、もう一つは学生の意欲の低下である。必修の授業はどれも多少はそのような傾向があるのだろうが、特にこの授業では選択科目であった時との差が大きく感じられる。選択制の時は学生は皆興味を持って受講し、早く上達したいという明確な目標があり、時間外にも熱心に取り組んでいた。しかし必修になってからは、人数が増えたこともあるが、居眠りする学生、話を聞かない学生、指示に従わない学生が多く、進度はこれまでの半分に落ちてしまった。以前から毎回、正規の授業時間が終わった後、もっとコンピュータに慣れるために居残りを勧めるのだが、以前はすぐ退室する学生の方が珍しかったが、今は皆涼しい顔でそそくさと足早に教室をあとにし、私とTAだけが取り残されてあっけにとられるのが日常の光景である。

 この授業で学んだことが、後々役に立っているかと言うと、とりあえずは半年出席して単位はもらったものの、その後ほとんどコンピュータを使う機会も意欲もなく、操作を忘れてしまう学生も大勢いるようである。(特にMacクラス。)また,上級生にその授業に関するアンケートをとったところ、『当時はコンピュータを使う必要性がわからなかったので、授業も真剣に受けなかったし、授業のあとは使う必要もなかったので、忘れてしまったが、その後、必要だと思ったので、独学で努力して使えるようになった。』といった回答がいくつかあった。ほかも、授業に対して否定的な回答がほとんどで、多くの学生にとってはその授業は無駄だったようである。1年生の時に、まだ受け入れる準備ができてない状況で強制的にたたき込まれても効果はないけれど、学年が上がってやる気になれば授業でなくても一人で努力して何とかなるようである。

4.社会の問題

 4年前にこの授業が必修となった理由の一つには、IT(情報技術)の発達に伴い、ITリテラシーを求める社会の要請が強くなったことがあると思う。しかし大学生(若者)の社会では、別のアプローチでITが過剰なまでに活用されている。携帯電話でのメールである。最近はほとんどの学生が携帯電話を所持し、キャンパスのあちこちで携帯でメールの受送信をしている光景を見かける。字数の制限などあるが、たいていの通信は携帯で事足りており、いつでもどこでも容易に使えて便利なので、携帯を持っていればわざわざ端末のあるところまで行って大学のアカウントを使おうとは思わなくなるであろう。そして大学のアカウントは使われることなく次第に忘れ去られてしまう。これほどまでに携帯のメールが普及するといった社会の変化は4、5年前には予測できなかったのではないだろうか。もちろん、添付書類を送受信するなど、携帯にはできないこともあるが、携帯メールに熟練した学生相手にわざわざ授業で時間をかけてメールの使い方を教える必要はもはやなさそうである。将来やる気になった時、キーボードを前にすれば親指以外の指も自然に動くことであろう。

5.総括

 以上のことを総合すると、1年生必修の「情報科学入門及び実習」は多くの1年生にとってそれほど魅力ある授業ではなく、学習したこともすぐに忘れられ、活用されることもあまりなく、かなり無駄な授業であると言えそうである。学生全員に入学時にアカウントを用意してあるのは非常にいいことだとは思うが、実際にメールが利用されることは少なく、大学側の努力の割には学生にはあまり喜ばれていないのが現状で、無駄な努力と言えそうである。今更逆戻りすることは不可能であろうが、以前のような選択制に戻せば、ここで述べた多くの問題は解決するとは思うのだが、皆さんはいかがお考えであろうか。

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