第1章 電子オルガンの機能について


1 電子オルガンの概要

電子オルガンは基本的に2段の手鍵盤と足鍵盤を備えており、各鍵盤にはオルガンやピアノのような鍵盤楽器を始めオーケストラの楽器を模した多様な音色、もしくはユーザーと呼ばれるプリセットの音色のパラメータを自由に変化させて設定した音色を割り当てる事ができる。 更に後述するタッチトーンの機能により打鍵時に音量や音質の制御ができる。

また、演奏中に音量を増減するためのエクスプレッションペダルや(以下Exp. Ped.と表記)サステインの効果等のスイッチの役目を果たすニーレバー、オートリズムやリズムシーケンスプログラム(以下R.S.P.と表記)のスイッチの役目を果たすフットスイッチ、ピッチベンダー等の制御を司るセカンドエクスプレッションペダル(以下2nd. Exp. Ped.と表記)といったインターフェイスを搭載している事も大きな特徴である。

尚、現行の機種は シーケンサー(※1) の機能を備えているものがほとんどであり、電子オルガンと外部機器とで MIDI(※2) 情報を送受信する事が出来るので、近年では自動演奏機能を利用した楽曲も最近は数多く生まれている。


YAMAHA ELECTONE EL-900

各パラメータ等を設定するディスプレイ(写真中央上部)


2 基本的な機能の役割

以下はYAMAHA エレクトーンELX-1m、EL-900mに搭載されている個々の機能について列挙したものである。

・ タッチトーン(TOUCH TONE)

打鍵時、もしくは打鍵後に圧力を加える事で音量や音質に変化を持たせる事ができる。打鍵時の速度、打鍵後の垂直(下方)の圧力、打鍵後の水平(左右へ)の圧力をそれぞれイニシャルタッチ(INITIAL TOUCH)、アフタータッチ(AFTER TOUCH)、 ホリゾンタルタッチ(HORIZONTAL TOUCH)と呼ばれる機能が検出する。イニシャルタッチ、アフタータッチは圧力に比例して音量は大きくなり、音色が明るくなるのが一般的であり、その増減の度合いも予め設定しておく事ができる。ホリゾンタルタッチについては、ピッチベンダーの項目にて後述する。
基本的なパラメータの設定画面。タッチトーンやフィート、パン、リバーブ等の各パラメータを変更、設定できる。写真は上鍵盤の第1音色Stringsのパラメータ設定画面でイニシャルタッチ、アフタータッチの数値は両方とも中程度、ホリゾンタルタッチの度合いは4半音(長3度)、フィートは8、パンフットは中央、リバーブとボリュームは24(最高)に設定されている。

・ ピッチベンダー(PITCH BENDER)

音程の変化(ポルタメントの効果)を制御する事ができる。足で操作する2nd. Exp. Ped.、もしくは手鍵盤のホリゾンタルタッチ、グライド、リードスライド等による。

・ フィート(FEET)

その音をオクターブの単位で上下に移動させる事ができる。8フィートが実音で、4フィートで1オクターブ高く2フィートは2オクターブ高くなる。逆に16フィートは1オクターブ低くなる。

・ パンフット(PAN)

ステレオ出力による各チャンネル(手鍵盤、足鍵盤等)に割り当てられた音色毎の位置を決定できる。

・ リバーブ(REVERB)

残響の長さや深さを調節してホールや教会で演奏しているような効果をつける事ができる。

・ ディレイ(DELAY)

演奏した音に対する音声信号を遅らせ、エコーの効果を出す事ができる。ディレイされた音の音量、エコーの時間の間隔、フィードバックの比率、モノラルやステレオでの処理のされ方等を設定できる。
ディスプレイ上のDELAYのパラメータ設定画面。同様にしてトレモロ、フランジャー、ディストーション等の音色のエフェクトはこのような画面におけるパネル操作によりパラメータを自由に変更、設定できる。

・ トレモロ/コーラス(TREMOLO/CHORUS)

スピーカーが回転しているような効果を出す事ができる。これはハモンドオルガンの流れを汲んできているもので、電子オルガンの初期モデルより搭載されている。

・ フランジャー(FLANGER)

音にうねりを与えて回転しているような効果を出す。このうねりの速さや深さ、フィードバックの度合いをも調節できる。尚、同じストリングス等の音色を2種類以上重ねると自然発生的にこの効果が生まれる事が多い。

・ ディストーション(DISTOTION)

音色に歪みを与える。もともとエレキギター等に使われる効果である。

・ リード(LEAD)

その鍵盤で単音のみ発音させる事ができる。この主な活用法は、さらに手鍵盤のアッパー(上鍵盤)もしくはロワー(下鍵盤)ボイスを加えた状態で和音を演奏し、その和音のトップノート(最高音)を際立たせる事である。

・ サステイン(SUSTAIN)

離鍵時にその音の余韻を作る。また、この余韻の長さを調節できる。通常ニーレバーと呼ばれる下鍵盤の裏側にある金属製のバーを予め立てておき、右足のひざで右側へ倒して押すと押している間だけ効果が出る。また、パネル上で予め設定する事もできる。

右側のペダルがExp. Ped.。左側が2nd. Exp. Ped.。

Exp. Ped.の上部両側にフットスイッチが付属しており、右側がレジストレーションチェンジ、左側がオートリズムやグライドのスイッチ 、もしくはトレモロ/コーラスの切り替えを行うものである。

写真右上の鉄製のバーが二−レバー。
右膝でバーを右側に押す事でスイッチが入る。

・ スライド(SLIDE)

リードボイスにおいて、ある音と高さの異なる音との2音をレガートで奏した時にポルタメントの効果を出す事ができる。

・ グライド(GLIDE)

予め設定した状態でフットスイッチを押すと音が半音下がる。フットスイッチから足を離すと音程はポルタメントの効果がかかりながら元の音程に戻る。

・ トランスポーズ(TRANSPOSE)

楽器全体の音郡に対して移調をする。半音単位で1オクターブの範囲(上下6半音ずつ)で可能である。

・ ディチューン(DETUNE)

割り当てている音色毎にその音程を設定できる。二つの音色の内片方の音程を少しずらす事によってその音に広がりを与えるのが効果的であるとされている。

・ レジストレーション(REGISTLATION)

上記に示したような細かいパラメータの設定と各音色の組み合わせを記録しておく事ができる。EL-900では16種類の組み合わせを記録する事ができ、演奏に際して予め記録しておいたレジストレーションデータを切り替えていくのが一般的である。また、この切り替えは右フットスイッチによって行う事もできるのに加え、その切り替わり方を(順番)をプログラムしておく事ができる。


写真中央に横一列に並んでいるボタンによってレジストレーションの切り替えを行う事ができる。

・ キーボードパーカッション(KEYBOARD PERCUSSION)

手鍵盤(一般的には下鍵盤)や足鍵盤で打楽器音を演奏する事ができる。任意の楽器音を各鍵盤に割り当てられるアサインの機能も利用できる。

・ トゥロワー(To Lower)

リードボイスと足鍵盤にのみ付属している機能だが、これによりそれぞれの音色を下鍵盤に割り当てる事ができる。つまり、足鍵盤が単音しか鳴らない機種(EL-900以下)の場合はリードボイスのように扱う事ができる。尚、ELX-1(m)、EL-900mは足鍵盤において重音を鳴らす事ができるため、下鍵盤に更に2種類の音色を重ねる事ができる事になる。

・ ロワーメモリー(Lower Memory)

Lower Memoryは本来「オートベースコード( AUTO BASS CHORD(※3) )」機能の一つで、元は簡易伴奏機能としての役割を担っている。つまり下鍵盤で和音を押さえるだけでそのリズムに合わせた伴奏(BACKING)をつける事ができる。尚、足鍵盤にも同様の機能があり、Pedal Memoryという。この機能をONにした状態でオートリズムをスタートさせると下鍵盤(足鍵盤)で鳴らした音が離鍵した後も次に打鍵するまでかリズムをストップさせるまで鳴り続ける。これを応用した方法を第2章にて示した。

・シーケンサー(SEQUENCCER)について

電子オルガンに内蔵されているシーケンサー(MDR)によって予め録音しておいた演奏データを再生する事ができる。その録音には、電子オルガンを直接演奏して演奏する場合と、外部のシーケンサーを用いて予め作ったデータをMIDIによって電子オルガンを媒体にして音を鳴らす方法がある。また、現在のほとんどの機種では、電子オルガン単体で打楽器の音色等を用いてリズムのパターンを小節単位で作成し、そのパターンを並べたり反復させたりすることによってリズムセクションを作る事ができる。さらに、これまでに挙げてきた機能のいくつかのパラメータを制御する事も可能である。
実際の活用例としてはシーケンサーにオスティナートの役割を担わせたり、技術的に演奏が不可能な(例えば高速な)楽句を演奏させたりするといった作品があるが、これらの作品については第3章において詳しく述べたいと思う。

尚、 ポピュラー音楽(※4)等において、奏者はリズムセクションを中心としたデータの再生にあわせて演奏するというのが主流であり、市販されている楽譜にはその楽曲のレジストレーションを含めたデータを収めたフロッピーディスクが付属されているのが一般的である。


EL-900に内蔵されている MDR(※5)
フロッピーディスクでデータの移送が可能である。



3 RP法による機能の分類

現在市場に出ている電子オルガンには実に多彩な機能が組み込まれており、ヴァリエーションもますます豊富になってきているが、その「基本的」な機能の種類はほぼ出尽くしてきたのではないだろうか。ここで簡単ではあるが、現時点での電子オルガンの一般的な機能の役割を改めて確認してみたいと思う。

・ リアルタイム機能とプログラム機能

森松慶子(1995)の楽器分類法( RP法(※6)) に基づいて考えると、概観してきたこれらの機能はリアルタイム機能とプログラム機能の2つに分ける事ができると考えられる。この分類の基準は、鍵盤、フットスイッチ、二―レバー、エクスプレッションペダル(以下Exp. Ped.と表記)、 セカンドエクスプレッションペダル(以下2nd. Exp. Ped.と表記).等のインターフェイスを通じてリアルタイムに制御可能かどうかという事である。また、このプログラム機能に属する機能は後述するシーケンサーによって制御する事が可能である。

 

リアルタイム機能 プログラム機能
音色
  • イニシャルタッチ
  • アフタータッチ
  • レジストレーションの切り替え
  • トレモロ/コーラスの切り替え
  • 音色のエフェクト機能
    (フランジャー、ディストーション等)
音程
  • ホリゾンタルタッチ
  • グライド
  • タッチビブラート
  • 2nd. Exp. Ped.
  • リードスライド
  • トランスポーズ
  • ディチューン
  • フィート
音量
  • イニシャルタッチ
  • アフタータッチ
  • Exp.Ped.
-
その他
  • サスティン
  • リズムテンポコントロール
    (2nd. Exp. Ped.による)
  • シーケンサー(MDR)
  • Lower Memory
  • R.S.P.
  • To Lower
  • パンフット
  • リバーブ
  • ディレイ
図 1 RP法に基づいて、機能を制御する音の要素別に分類したもの
鍵盤 二ーレバー フットスイッチ 2nd. Exp. Ped.
  • イニシャルタッチ
  • アフタータッチ
  • ホリゾンタルタッチ
  • リードスライド
  • サスティンのON/OF
  • メロディオンコードのON/OFF
  • リードスライドのON/OFF
  • Solo/Upperモードの切り替え
  • リズムのストップ等
  • グライド
  • トレモロ/コーラスの切り替え
  • ピッチベンド
  • リズムのテンポコントロール
図 2 それぞれのインターフェイスが制御する機能
(第2章へ続く)

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