ネットワークを利用した遠隔計測・制御教材
星山 昌洙(山梨大学大学院教育学研究科)
藤田 孝夫(山梨大学教育人間科学部)
1. はじめに
今日、社会では高度情報化社会へと急速に発展してきていることに伴い、産業技術、医療技術,電子商取引,情報検索等、私たちの生活を含む様々な分野で情報技術が活用されている。また、情報通信ネットワーク技術の活用を通して、あらゆる境界を越えたコミュニケーションも可能になり、社会のグローバル化はより一層進んできたと言える。このように社会の発展に情報技術が深く浸透している背景を鑑み、情報技術社会として、より高度な情報技術・情報通信ネットワーク社会の発展を目指すために、高度情報・通信ネットワーク社会の形成とそれを担う情報活用能力の高い有望な人材の育成を目的とした政策が検討されている。そこには、「e-Japan戦略」を中心としたIT(Information Technology)革命の推進が進められ、それを通して現在では「u-Japan戦略」を中心とした次世代の情報技術・通信ネットワーク社会の要となるICT(Information & Communication Technology)社会の推進の計画,実施が大きく関わっている。ここで新たに「コミュニケーション」という用語が加えられたことからも、「u-Japan戦略」において重要となるのはユビキタス・ネットワーク社会の実現・発展による「人と人」,「人とコンピュータ」といった関係であり、情報技術を用いて「いつでも」,「どこでも」,「何でも」,「誰でも」かかわりを持てるという社会を築くことにある。
このような背景から、現代社会の情報化において、教育の分野で求められる学力として「情報活用能力」が重視されるようになった。子どもたちの情報活用能力を育成していくことは、情報を主体的に選択し活用できる能力や情報社会に参画する態度等、現代の情報社会に臨み、次代をより高みへと創造していく情報社会の形成者を育成していくことにつながる。そしてこれは、学習指導要領で定められている、豊かで活力ある社会を築くために自ら学び,自ら考える力等、生涯学習社会を形成していく力:「生きる力」を育成していくための重要な要素にも繋がる。これらのことから、教育現場では「教育の情報化」が進められ、小学校,中学校,高等学校の教育過程を通して「情報活用能力の育成」の充実化が図られている。これらを踏まえて、教育現場では各教育段階において全ての教科活動・教科外活動における情報機器等の活用や、情報教育環境の整備が行われている。
中学校段階においては、各教科で情報の活用が用いられている中、情報活用能力を育成する教科の筆頭に技術科教育を挙げることができる。情報活用能力の観点として挙げられる「情報活用の実践力」,「情報の科学的見方」,「情報社会に参画する態度」を、技術科教育における情報教育で学習する各学習領域と対比して捉えたとき、全ての学習内容が情報活用能力を育成するために必要となり、それらが能力を構成する重要な要素の習得に関わっていることがわかっている。
本研究では、技術科教育における情報教育を扱う重要な学習分野である「B 情報とコンピュータ」分野において、技術科教育から得られる基礎的・基本的な学力と情報教育が期待する学力を合わせて考察し、技術科教育を学習する過程で選択領域として扱われる「プログラムと計測・制御」領域に焦点を当て、この領域が非常に重要な位置にあることを認識し、本領域の教材について検討した。本領域の主教材として「PICNIC(PIC Network Interface Card-kit)」の各種機能に着目し、プログラムや計測・制御に用いられる各種回路・機器等をより効率的・効果的に活用して授業を展開していけるように教材案について考察した。先行研究として、「ネットワークを利用した遠隔制御教材(星山 昌洙:平成16年度山梨大学教育人間科学部技術科卒業論文)」にてPICNICの機能を活用した動作機器やプログラムを作成した上で各種制御動作の確認を行っているため、本論文では教材としての観点をより深く捉えていけるように取り組んだ。これにより、計測技術を教授するための計測用機器(センサの活用等)と計測用プログラム,制御技術を教授するための制御用機器(アクチュエータの活用等)と制御用プログラム,複数のPICNICを同時に利用するプログラム等を作成し、ネットワーク環境を利用した遠隔計測、制御実験を行い、本領域におけるPICNICの教材としての有効性について検討した。
2. 技術科教育における情報教育について
普通教育としての技術科教育の教育目的は、「技術及び労働の世界への手ほどき」であることから、すべての子どもに現実の技術および労働の世界をわがものとさせることを図ることにある。この目的を達成するために、学習を通して習得する学力として「技術的素養」が必要不可欠となる。「技術的素養」は、「技術に関する科学的認識」,「技能」,「技術・労働観」という3つの学力要素で構成され、これらを三位一体として捉え技術に関する知識・技能を活用することで、合理的・創造的に問題を解決し適切かつ積極的に判断・活用していき、自身で利用,管理,評価,理解することができる総合的な能力の習得をねらいとしている。また、技術は自然的物質的側面と社会的経済的側面を持つため、普通教育としての技術科教育では理科や数学科の学習内容と密接にかかわる一方、社会科や家庭科等の学習内容とも密接にかかわる面もあり、各々の学習による成果を相互に規定しあうことが知られている。これは技術科の授業の在り方を考える際、常に大切にするべき点である。
これらを考えた上で、技術科教育の学習分野である「情報とコンピュータ」から得られる学力を捉えると、「情報活用能力」,「コンピュータの操作技能」,「コンピュータと産業,生活,社会とのかかわり」という3つの学力要素を中心に構成された技術的素養の習得を基に、情報技術に対して生徒自ら課題を持って解決していく能力の習得が情報分野の教育目的であると考えることができる。
3. プログラムを利用した遠隔計測・制御
「プログラムと計測・制御」領域の学習教材を考察していく上で、多機能インターフェースとしてのPICNICを用いて電子機器や各種動作回路等を制御するためのプログラムを作成し、遠隔計測・制御を行っていった。以下に作成した各種プログラムや機器について述べてる。
・
計測用プログラム
PICNICを常備している部屋の室温を時間経過の形で測定するための計測用プログラムを作成した。この計測用プログラムによって教室(コンピュータ室等)で授業をしながら異なる場所の情報を記録していくことができ、その情報をもとに表計算ソフトを利用したグラフの編集,グラフから読み取れる情報の考察,プログラムを利用したグループワーク等が可能になる。
図1 プログラムの動作画面
計測プログラムを動作させると図のようになる
図2 室温観測グラフ
計測プログラムで取得した情報をもとに編集した終日の室温観測グラフ
また、アナログ入力ポート(RA0~3)に各種センサを接続・利用することによって温度以外の観測も可能であるため、活用範囲が広がると考えられる。ただし、センサから取得できる値はそのままでは使えないため、数値を導き出す計算式をセンサの種類や規格を考慮してプログラムソース中に書き加える必要がある。
・
遠隔制御スイッチプログラム
遠隔制御の基本となる制御プログラムを作成した。この制御プログラムを用いて実際にPICNICのディジタル出力ポート(RB4〜7)を制御し、遠隔スイッチとしてPICNICを活用することで電子機器を制御する。また、ディジタル出力による制御範囲は限られているため、ソリッドステートリレー(半導体リレー)のような電子部品を用いた回路を中継して利用するとAC電源機器の制御化可能になるなど活用の幅が広がる。
図3 遠隔制御スイッチプログラムの動作画面
PICNICのディジタル出力ポート(RB4~7)と連動したスイッチプログラム
このプログラムを利用することでリレーを組み込んだ回路によるOn/Off回路や反転回路等の基本となる動作をさせることができる。これらを用いれば、授業でプログラムについての学習内容を展開しつつ、回路の内容から電気分野も教授内容に含むことができ、制御の過程を説明する糸口になる基礎的な学習内容だと考えられる。このプログラムではスイッチのOn/Offのみを扱っているが、計測プログラム関係の授業への伏線として「現在の状況」項目を追加してある。このプログラムに追加機能として計測プログラムの作成も可能だと考えているため、応用できるプログラムとして基本的要素のみのプログラムとなっている。
・
2台以上のPICNICを利用する制御プログラム
遠隔スイッチとしての制御プログラムを用いる方法で、前述した方法のほかに2台以上のPICNICを用いる方法を示す。1台を信号検出用とし,残りのPICNICを遠隔制御用として用いることで検出(計測)地点と反応(制御)地点とをわけて扱うことができる。このような2台以上のPICNIC制御を行う制御用プログラムを作成した。
図4 一括制御プログラムの動作画面
PICNICを2台以上連動させるプログラム
このプログラムでは、検出側のPICNIC1が接続したセンサから約2V以上相当の信号を検出すると制御側のPICNIC2の任意のディジタル出力ポートが動作(High)するように設定してある。これによって離れた位置にある複数台のPICNICを連動させることができる。
今回はPICNIC1に太陽電池を接続し、約2Vの発電を検出するとPICNIC2のディジタル出力ポート(RB4)をHighにするようになっている。太陽電池の使用以外にも、様々なセンサの活用,アナログ入力・ディジタル入出力ポートを動作スイッチに設定して他のPICNICを動作させること,動作条件の調整等、プログラムによる制御が基本となるので製作者の意図する任意の設定が可能になる。
図5 PICNICの動作状況:LED点灯
信号発信機器(太陽電池等)から信号受信用PICNICが受け取る信号の値が条件を満たした際、ネットワークを介して動作制御用PICNICに接続しているLEDが点灯
図6 LED消灯動作
信号の数値が条件を満たさなければ、ネットワークを介してLEDが消灯
・
ロボットアーム制御プログラム
基本的な制御教材として利用されるロボットアームMR-999(開発:(株)イーケイジャパン)をPICNICのディジタル出力ポートの組み合わせを利用して制御する。使用するロボットアームは可動箇所が5箇所(指,手首,肘,肩,胴)あり、一つの可動箇所で2種類の動きを行うようになっているため、計10通りの動きを制御する必要がある。また、別途で販売されている3種類のインターフェース(USB,シリアル,LAN)と通信ソフト(ハイパーターミナル等)でパソコンと接続することもでき、遠隔操作を扱う際に用いやすい教材の一つといえる。本節ではPICNICを用い、ロボットアームを制御することを検討した。
図7 制御用ロボットアーム(MR-999)
(株)イーケイジャパン製
図7のロボットアームの各動作を個別に制御するためのプログラムを作成し、PICNICからのディジタル信号に志向性を持たせて制御するために中継器(デマルチプレクサ回路)を作成した。
図8 ロボットアーム制御プログラム
PICNICの出力の組み合わせで各動作を個別に制御するためのプログラム
このプログラムでは操作パネル(コマンド)に記してある各動作をロボットアームに動作させるように作成した。この操作を行うためにPICNICの持つディジタル出力ポートRB4~7の4出力の組み合わせ(16通り)を利用する(表1)。
表1 ロボットアーム動作の出力制御設定
出力を4bitsと考えて、16通りの出力パターンのうち10通りの組み合わせを用いる
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4bits |
出力先 |
出力先 |
4bit 入力 | 1 /16出力 対応表 |
0000 |
|
0 |
0001 |
手首右 |
1 |
|
0010 |
手首左 |
2 |
|
0011 |
肩上 |
3 |
|
0100 |
肩下 |
4 |
|
0101 |
胴左 |
5 |
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0110 |
胴右 |
6 |
|
0111 |
肘下 |
7 |
|
1000 |
肘上 |
8 |
|
1001 |
指閉 |
9 |
|
1010 |
指開 |
10 |
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1011 |
|
11 |
|
1100 |
12 |
||
1101 |
13 |
||
1110 |
14 |
||
1111 |
15 |
PICNICとロボットアーム間で、上記のように設定したディジタル出力信号の組み合わせを有効にするために中継器(4bits制御)を作成した。中継器にデマルチプレクサ(HD74154)を組み込むことで、各パターン(4bits)に対応した出力先を動作させる(Output0~15)。デマルチプレクサには、一つの入力信号やいくつかの選択制御入力信号を複数の出力端子へ入力信号の分配をする働きを持っている
図9 中継器(4bits制御)
作成した中継器(4bits制御)の概観
図10 中継器(4bits制御)回路図
DemultiplexerによるActive Lowを考慮した回路
・
携帯端末を利用した遠隔制御
ここではプログラムは作成しないが、PICNICは内蔵されたファームウェア(PIC16F877内)を書き換えることで、ネットワーク接続が可能な携帯端末から直接制御することができる。更新用ファームウェアは製造元である(有)トライステート社にて取得することができる。このとき、PICNICに独立して与えてあるIPアドレスは初期IPアドレスになるので再度の設定が必要になるが、これらの手間を行えば携帯端末からPICNICを遠隔制御できることになる。
最近では、ネットワーク接続が可能である携帯電話は広く普及され、早ければ小学生でも利用できるものになっている。そのことから、現代の中学生にとって最も身近な携帯端末として挙げることができ、機器の操作も一から教える必要が無い最も有効な機器であると考えられる。この携帯電話のネットワーク接続機能を活用してPICNICから遠隔制御を行う教材の一つとして考えた。
本来、携帯電話を授業で用いることは集中力を欠く等の理由で教育現場では避けられることがほとんどだが、現代社会に生きる生徒たちにとって生活に最も密接に関係している携帯電話を情報教材として用いる利点は多い。「使えて当たり前」という考え方を「何故使えるのか」という問題を解決するための考え方に指導していくことができるだろう。目では見ることができない部分を捉えられる授業の展開を行ううえで、携帯電話の利用は必要であると考えられる。
PICNICには独立したIPアドレスが割り当ててあるため、ネットワーク接続機能を持つ携帯電話から以下のアドレスを入力することで接続状態になる。
http://[ IPアドレス
]or[ PICNIC固有名].[ドメイン先]/
表示されたリモートI/O画面から任意のディジタル出力ポート(RB4~7)の操作を行える。この操作によって遠隔スイッチとしてのOn/Offが可能になり、PICNICに接続された機器で意図する動作をさせることができるようになる。
また、同じPICNICに対して同時接続は可能であるが、同じ出力ポートを同時に制御しても一番目の信号で条件が満たされているため影響は無い。加えて複数の携帯電話から違う出力ポートの制御を行っても、PICNICは情報を受け取った順で対応して制御を開始するので混線はしない。
図11 携帯電話による遠隔制御
ディジタル出力ポート(RB7)を遠隔操作
4. 「プログラムと計測・制御」における学習指導計画
中学校段階における技術科教育の授業時数は、1,2年次では「技術・家庭科」として70時間,3年次では35時間以内と定められている。よって、技術科,家庭科共に授業時間を偏ることなく配当していくため、1,2年次は35時間,3年次では17.5時間という配当時間を学習で扱うことになる。この条件において技術科教育の学習内容を扱う際、2分野「A 技術とものづくり」及び「B 情報とコンピュータ」におけるそれぞれの必修学習領域である(1)〜(4)項目を全ての生徒に履修させ、各分野の選択履修となる(5)〜(6)項目については1又は2項目を履修させるように3年間の学習指導計画を考えていく必要がある。また、各項目及び各項目に示す事項については、相互に有機的な関連を図り、総合的に展開されるように適切な題材を設定して学習指導計画を作成する必要がある。
以上を踏まえ、対象学年を3年生と考えた「プログラムと計測・制御」領域における学習指導計画の試案を検討し、以下の表2にまとめる。また、前述した学習指導計画試案における評価規準を表3に示す。
ここで提案している学習指導計画の試案及び評価規準を基にした授業は残念ながら行っていないため、これらの修正,検討を進めることはできないが、今後の課題として検討していくために実践を行い、これらの内容を実施するための環境条件(指導力,教材,題材,時間等)を再構築していくことが重要であると言える。
表2 「プログラムと計測・制御」学習指導計画試案
全15時間の指導計画となる
「プログラムと計測・制御」指導計画試案 |
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題材名 |
時数 |
学習項目 |
ねらい |
主な学習活動 |
指導上の留意点・関連 |
計測・ 制御の基本 |
1.5 |
1.「計測」,「制御」について知ろう |
「計測」,「制御」について抱く生徒のイメージと比較して、本来の概念・定義を理解する。 |
○「計測」,「制御」に対するイメージを確認する。 |
・生徒が持つ学習前のイメージ・知識が、学習後ではどのように再構築されたか確認できるように、必ず学習ノート等で記録しておく。 |
○「計測」・「制御」の定義を知り、身近な活用例を基に概念を捉える。 |
・定義を捉えやすいように、活用例に生徒の生活概念と結び付けやすいものを用いること。 |
||||
身近な生活に利用された計測,制御技術に気づき、これらの技術を構成する部分について考えることができる。 |
○制御の種類を知り、各々の動作の特徴について、活用例を通して捉える。 |
・制御の種類として「手動制御」,「自動制御」を扱い、自動制御は「シーケンス制御」,「フィードバック制御」の2つの用語を扱う。 |
|||
1.5 |
2.計測・制御技術に必要な機器,部品を考えよう |
計測・制御に必要となるセンサ,アクチュエータ,インターフェース,コンピュータの関係(役割)を捉え、それぞれの働きについて理解する。 |
○「人間の五感」と「機械で五感を表現する場合」とを対比して捉え、センサがどのような役割を持つか理解する。 |
・センサ,アクチュエータ,インターフェース,コンピュータについて扱う際は役割と種類に留め、機械的・電気的構造等の内容に深入りしないように注意する。 |
|
計測・制御技術が担う役割について知る。 |
○人間の感覚を補助・幇助する要素としての技術を捉えるために、人間の動作に例えたメカトロニクス(センサ,アクチュエータ,インターフェース,コンピュータ)による一連の動作を知る。 |
・「物を掴む」等の一連の動作を、センサ,アクチュエータ,コンピュータによるメカトロニクスの動作で例え、人間の補助・幇助という役割を認識できるように図等を用いる。 |
|||
コンピュータによる計測・制御 |
2.0 |
3.コンピュータを使って計測や制御をする方法を知ろう |
「コンピュータ」と呼べる機器とは何か理解する。 |
○身近にあるコンピュータとして何が挙げられるか考える。 |
・身近にある「コンピュータ」としてパソコン以外に何があるか認識するために、コンピュータの基本的な機能(入力,出力,演算,制御,記憶)を示しながら教授していく。 |
コンピュータ制御に必要となる要素(情報の検知,処理・判断,仕事(計測・制御)の命令)について理解する。 |
○コンピュータ制御に必要なこととは何か考える。 |
・コンピュータ制御の条件を単純化して考えられるように「情報の検知」,「処理・判断」,「仕事(命令)」の3つを中心に扱っていく。 |
|||
コンピュータ制御の種類・方法について知る。 |
○コンピュータを利用して計測・制御する具体的な方法について考える。 |
・自動制御の種類を例にしながら、各動作を決定するための「プログラムの利用」を扱う。 |
|||
2.0 |
4.コンピュータを使って計測・制御をしよう@(計測) |
必要な情報をプログラム(コンピュータ)で取得することができる。 |
○センサを利用した計測用プログラムを起動して室温を計測する。 |
・コンピュータとセンサを繋ぐインターフェースとしてPICNICを用いる。 |
|
取得した情報から環境状況を推測することができる。 |
○取得した情報を基に数値の整理や考察をする。 |
・計測用プログラムは教師が準備する。プログラムの働きについて説明をし始めるときに計測を開始しておく。 |
|||
1.5 |
5.コンピュータを使って計測・制御をしようA(制御) |
外部機器をプログラム(コンピュータ)で制御できる。 |
○インターフェース(デマルチプレクサ)とPICNICを利用してロボットアームを制御する。 |
・制御用プログラムは教師が準備する。プログラムの働きについて簡単に説明しておく。 |
|
プログラムで機器を制御する過程を理解できる。 |
○ロボットアームで課題を解決する。 |
・動作の課題を与えて、目的に応じた制御をさせる。 |
|||
制御に必要な各部位(視点,頭脳,手足)とを切り離して捉えることができる。 |
○制御過程を分担(視点役,頭脳役,手足役)して課題を解決する。 |
・視点役が状況を報告,頭脳役が制御過程を考えて指示を出す,手足役がプログラムを動かして目的に応じた動きを試す。 |
|||
プログラムの基本 |
1.5 |
6.プログラム言語について考えよう |
プログラムを作成するために必要となる言語の意味,役割について理解できる。 |
○プログラムを構成する「プログラム言語」の種類や働きを調べる。 |
・あまり深入りしないように言語の数と基本的な言語「C言語」,「Basic言語」,「Perl言語」等の名称だけ教授し、共通した働きを教える。 |
プログラム言語による作成のルール(命令文)について理解する。 |
○プログラムを作成するための命令文について知る。 |
・あまり深入りしないように主な命令文を扱う。 |
|||
プログラムによる仕事の流れを考えられる。 |
○ストーブと温度計を利用して室温を自動制御する過程を考える。 |
・仕事の流れを扱えるようにフローチャート図を利用して「順序処理型」,「条件繰り返し型」,「条件分岐型」を扱う。 |
|||
2.0 |
7.プログラムを作成しよう@(制御スイッチ) |
目的に合ったプログラムを作成できる。 |
○PICNICを利用した遠隔スイッチプログラムを作成する。 |
・設定が難しい部分は教師があらかじめ準備しておく。プログラムソースの書き方はプリント等で示しておく。 |
|
○作成したプログラムで機器を制御する。 |
・制御する対象として、モータ,ブザー,LED等の反応がすぐ分かるものを用いる。 |
||||
2.0 |
8.プログラムを作成しようA(数合わせゲームプログラム) |
プログラムを工夫して作ることができる。 |
○プログラムで簡単なゲームを作成する。 |
・教科書の参考ソースを基に、工夫して作れるようにする。扱う命令文の候補はプリント等で示しておく。 |
|
○作成したゲームで遊んでみる。 |
・生徒がお互いに作ったプログラム(プログラムに基本構成は同じ)で遊べるようにする。 |
||||
私たちの生活と計測・制御とのかかわりについて |
1.0 |
9.計測・制御の発達のようすを知ろう |
社会で利用されている計測・制御技術について知る。 |
○コンピュータの小型化など、現代の技術について考える。 |
・技術の発展の歴史を一つの機器(カメラ,携帯電話等)から考え、小型化等の機器の機能や利便性等の変化に気がつくように配慮する。 |
計測・制御技術の発展について理解する。 |
○計測・制御技術がなぜ発展してきたか考える。 |
・本領域の序盤に学んだ「人間の補助・幇助」という概念を基に考えられるようにする。 |
|||
ユビキタス・ネットワーク社会を意識して考えられる。 |
○身近なコンピュータ:携帯電話から考えられる「どこでもコンピュータ」とは何か考える。 |
・PICNICを携帯電話から遠隔操作して、コンピュータという意識を持ち、将来的な情報社会の発展(ユビキタス・ネットワーク社会)について考えられるように配慮する。 |
|||
合計 |
15.0 |
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|
|
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表3 各学習内容における評価規準
「プログラムと計測制御」学習指導計画試案の評価規準(案)
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生活や技術への 関心・意欲・態度 |
生活を工夫し創造する能力 |
生活の技能 |
生活や技術についての 知識・理解 |
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1 |
計測・制御技術を用いた身近な機器に関心を持ち、意欲的に調べ考えている。 |
各種メディア(雑誌,インターネット等)を利用して、計測・制御機器について調べられる。 |
|
計測・制御の定義,概念理解し、簡単に説明できる。 |
|
制御の種類について理解し、簡単に説明できる。 |
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2 |
計測・制御技術と人間の五感とのかかわりに対して関心を持ち、進んでセンサの機能を調べ考えている。 |
メカトロニクス要素の活用方法を理解して、動作のアイディアを工夫し創造できる。 |
|
人間と計測・制御技術を結び付けて捉え、五感に当たるセンサの働きを簡単に説明できる。 |
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計測・制御技術のメカトロニクス要素(アクチュエータ等)に対して関心を持ち、意欲的に調べ考えている。 |
メカトロニクス要素の各働きを理解し、各要素について簡単に説明できる。 |
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3 |
コンピュータに興味を持ち、進んで特徴を考え理解しようとしている。 |
|
コンピュータの基本的な機能を基に操作することができる。 |
コンピュータの基本的な機能を理解し、それについて簡単に説明できる。 |
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コンピュータによる制御に関心を持ち、その具体的な方法について意欲的に考えている。 |
コンピュータが計測・制御技術を行う条件について理解し、プログラムの利用等を簡単に説明できる。 |
||||
4 |
プログラムによる計測・編集・考察等に積極的に参加している。 |
計測プログラムを活用して、他の要素(照度,湿度等)を計測するアイディアの工夫を考えられる。 |
計測プログラムと表計算・文書処理プログラムの基本的な操作を理解し、操作できる。 |
実験の流れを理解し、仕組み・手順を簡単に説明できる。 |
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5 |
プログラムによる制御に積極的に参加している。 |
人間による擬似的操作の制御過程を工夫して考え、実行することができる。 |
制御プログラムの基本的な操作を知り、ロボットアームを操作できる。 |
実験の流れを理解し、仕組み・手順を簡単に説明できる。 |
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制御に必要な3要素(視点,頭脳,手足)に関心を持ち、積極的に参加している。 |
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制御過程の各立場の役割を理解して、人間による擬似的操作ができる。 |
制御に必要な各過程の役割について理解し、簡単に説明できる。 |
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6 |
プログラム言語に興味を持ち、意欲的に調べ考えている。 |
問題解決の為に、目的に合ったプログラム過程を工夫し、考案することができる。 |
プログラムの基本的な構成方法を理解し、目的に合った仕事の流れを考案することができる。 |
プログラム言語の役目や働きについて理解し、簡単に説明できる。 |
|
プログラムの作成方法・手順に関心を持ち、意欲的に考え取り組もうとしている。 |
プログラムの作成方法・手順について理解し、簡単に説明できる。 |
||||
7 |
プログラムの作成に意欲的に取り組み、進んで実験・参加している。 |
制御プログラムの機能を追加するアイディアを考え、工夫することができる。 |
目的に合ったプログラムを作成のためにソフトウェアを用いて基本的な操作ができる。 |
制御プログラムの基本的な構成を理解して、簡単に説明できる。 |
|
8 |
プログラムの作成に意欲的に取り組み、進んで実験参加している。 |
目的に合うようにプログラムを工夫して作成できる。 |
基本的な情報処理手順を理解し、目的に応じたプログラムを作成できる。 |
プログラムの作成方法・要素等を理解し、簡単に説明できる。 |
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9 |
発展する情報技術に興味を持ち、情報技術がもたらす現状・将来的発展状況について意欲的に考えている。 |
遠隔操作等の制御技術の発展を基に、生活に工夫して用いるアイディアを考えることができる。 |
携帯電話のネットワーク接続機能を活用してPICNICを遠隔操作できる。 |
情報技術の発展について理解し、コンピュータの小型化等による生活の向上について簡単に説明できる。 |
|
携帯電話が小型化されたコンピュータであることに関心を持っている。 |
情報技術の発展がもたらす将来的な展望について理解し、ユビキタス・ネットワーク社会について考察できる。 |
5. まとめ
今日の情報化社会において、それに伴う技術の発展は著しいものがある。加えて、情報化社会に生きる子どもたちにとって、情報技術は非常に身近な範囲で生活に浸透し、それが情報技術であることを意識せずとも使用し,応用している。特に、コンピュータが生活に与えている影響は非常に大きく、情報の管理から経済活動,医療技術,娯楽に至るまであらゆる場面で活用されている。反面、目に見えない範囲で利用されている情報技術に関しては「コンピュータを利用している」という生活概念を抱きにくいのが現状であろう。例えば、子どもたちの最も身近な機器の一つとして携帯電話が挙げられるが、この「携帯電話」を「コンピュータ」として認識して使用している子どもはどれだけ存在するだろうか。子どもたちにとって、携帯電話は「持ち運びが便利な電話」であって「ネットワーク(インターネット)接続が可能な便利な電話」となる。コンピュータを定義付ける5つの機能:「入力」,「出力」,「演算」,「制御」,「記憶」を考えると、携帯電話は立派なコンピュータとして挙げることができるが、そのことを意識しなくても生活に支障は起こらず、知らなくても使えるという意識があることは否定できない。しかしながら、世界の中で情報技術社会におけるIT先進国を目指す必要がある以上、高度情報化社会を生きる上で情報技術を意識して捉えなければ、高度情報・通信ネットワーク社会を形成し,それを担う情報活用能力の高い有望な人材を育成することはできない。その様な経緯から、平成2年に文部省が作成した「情報教育に関する手引」を基に「教育の情報化」が推進され、文部科学省によってIT革命によるIT社会の形成や情報社会の基盤整備を目指した「e-Japan戦略」,「e-Japan戦略U」が組込まれた。最近では新たに情報通信ネットワーク社会を見据えた「u-Japan戦略」が組込まれてきた。これらを基に、ICT活用を進んでできる次世代の人材を育成する教育が検討されている。その中で挙げられている「情報活用能力の育成」が重要な観点として捉えられ、小学校,中学校,高等学校という学習・発達段階を連続的に捉えて情報教育を行っていくことで、能力を育成していくことをねらいとしている。この能力を育成するに当たり、基本的には全教科,教育活動を想定して情報技術を活用する機会を作り出しているが、中学校段階において情報を専門的に扱い、情報活用能力の育成にとって重視される3要素:「情報活用の実践力」,「情報の科学的な理解」,「情報社会に参画する態度」を等しく学習できる重要な教科として技術科教育が挙げられる。
本研究では、技術科教育における情報教育を扱う重要な学習分野である「情報とコンピュータ」分野において、選択領域として扱われる「プログラムと計測・制御」が持つ学力を基に、本領域の重要性を考察し、学習教材としてPICNICを主に扱ったプログラム,計測・制御機器について研究した。情報活用能力の育成を目的とした中学校段階における情報教育を教授していくために、技術科教育が担う情報教育分野は重視されるべき分野になっている。その中で、選択領域である「プログラムと計測・制御」領域から得られる情報活用能力の要素は他領域では得難いものであるが、現状では本領域を履修するために必要となる環境条件(指導力,教材,題材,時間等)の整備が十分に行われていないため、必然的に「コンピュータを利用したマルチメディアの活用」領域が選択されてしまっていることが多い。その状況を改善し、生徒の興味・関心に応じて選択履修していけるように、本領域を学習するための教材案としてPICNICを中心とした各種プログラムや情報技術を活用した各種機器,回路の活用方法を示してきた。これにより、計測・制御教材の一つとして、PICNICが非常に有効であることを示した。
今後の研究課題として、本領域の学習内容を実際に展開して学習指導計画や評価規準を改善し、より充実した指導状況を考察・検討していきたい。
[ 参考文献、資料 ]
1「中学校学習指導要領(平成10年12月) 解説−技術・家庭編−」,文部省,1999.
2「技術・家庭[技術分野]」,開隆堂出版,2006.
3「新編 新しい技術・家庭 技術分野」,東京書籍,2006.
4 河野 義顕、大谷 良光、田中 喜美 編:「技術科の授業を創る―学力への挑戦―」,学文社,1999.
5 国際技術教育学会著,宮川秀俊,桜井宏,都築千絵編訳:「国際競争力を高めるアメリカの教育戦略 技術教育からの改革」,教育開発研究所,2002.
6 青木 一,大槻 健,小川 利夫,柿沼 肇,斉藤 浩志,鈴木 秀一,山住 正己 編:「現代教育学辞典」,労働旬報社,1988.
7 吉田 典之著:「トロンが拓くユビキタスの世界」,(株)電波新聞社,2004.
8 川西 真史,鶴見 惠一,山本 健一:「PICマイコンによるメカトロニクス入門」,CQ出版社,2005.
9 遠藤 敏夫:「16F84プログラミングの世界へ わかるPICマイコン制御」,誠文堂新光社,2001.
10 松下電器産業(株)製造・技術研修所編著:「プログラム学習によるディジタル制御」,廣済堂出版,1983.
11 宇佐 美晶:「100例にみるセンサ応用技術」,工業調査会,1993.
12 松井 邦彦:「センサ活用141の実践ノウハウ」,CQ出版社,2001.
13 山崎 弘郎:「トコトンやさしいセンサの本」,日刊工業新聞社,2002.
14 川村 貞夫,野方 誠,田所 諭,早川 恭弘,松浦 貞裕:「制御用アクチュエータの基礎」,コロナ社,2006.
15 岩上 篤行:「自作ファンのための電子パーツ物知り百科」,(株)電波新聞社,2002.
16 山岸 正人, 藤田 孝夫:「USBインターフェースを利用した制御学習教材の研究」、山梨大学総合情報処理センター研究報告, CDROM版、2004.
17 星山 昌洙、藤田 孝夫:「PICNICを用いた遠隔計測,制御教材」、山梨大学総合情報処理センター研究報告, CDROM版、2005.
18 落合正弘:「第7章 VB, VC++,LinuxでPICNICコントロールとDLLを使う PICNICVer.2の概要と付属ライブラリの使い方」,CQ出版社,トランジスタ技術,9月号, pp.220-229, 2001.
19 文部科学省ホームページ http://www.mext.go.jp/
20 有限会社トライステート http://www.tristate.ne.jp/index.html
21 IT技術演習(学部)(PICNIC) http://cai.cs.shinshu-u.ac.jp/susi/Lecture/picnic-b/
22 電子工作の実験室 http://www.picfun.com/
23 IT用語辞典 e-Words
http://e-words.jp/