PICを用いた単相誘導モータ制御の教材化に向けて

 

  石黒 擁(山梨大学大学院教育学研究科)

杉浦 修(山梨大学教育人間科学部)

 藤田 孝夫(山梨大学教育人間科学部)

 

 

 

1.序論

 

現代の情報化の進展における社会の変化に対応するため、情報教育が注目を浴びている。中学校の技術科教育は、「技術とものづくり」と「情報とコンピュータ」という2つの分野で構成されており、情報分野の内容を学習する割合が増加している。しかし、技術科教育における情報教育は、ワープロソフトや表計算ソフトなどのアプリケーションソフトウェアの操作技能を修得させる場合が多く、技術科教育の目的である「技術の科学的認識の形成」に繋がらない指導内容となっている(1)。技術科教育では、情報教育というよりも、プログラム制御の基礎や、通信技術の発展におけるコンピュータの役割を学習する「情報“技術”教育」という視点が重要であると考える。これまで、この「情報“技術”教育」が行われていなかった背景として、この内容を指導することが難しいことや、適した教材が少ないこと、また授業時間が少なくこの分野の内容を扱う時間がないことなどが挙げられる。このような現状を踏まえ、本研究では、「制御」をメインの題材として取り上げ、「技術とものづくり」と「情報とコンピュータ」の両分野を統合した授業が行える、PICを用いて単相誘導モータを制御する教材の製作、その教材を用いた授業例について考えていく。

 

2.中学校技術科における情報教育の現状

 

技術科教育における情報教育の現状を挙げると、次のようなことが言える。

1つは、「ものづくり分野に比べ、情報分野の内容が占める割合は少ない」ということである。2002年に山梨県内の中学校を対象に行った調査(2)では、技術科の「技術とものづくり」の内容と「情報とコンピュータ」の内容の実施割合は6:4であったことがわかっている。これは、これまでの技術科の流れにより、「ものづくり」が主体であった授業内容が抜けきっていないということが、1つの理由として考えられる。もう1つ考えられるのは、現場教師は、製作体験を通して製作の楽しさや喜びを学ばせたいと思っており、製作を重視する傾向にあるからだと思われる。確かに、製作の楽しさや喜びを学ばせることは重要であり、木材加工や金属加工の学習も大切だが、今の時代背景を考えるとこれまで以上に情報教育に力を入れる必要がある。ただ、最近では徐々に情報分野の割合が増えている傾向にあり、少しずつ改善され始めている。

次に「『情報教育=コンピュータの操作技能の修得となっている」ということである。技術科で実際に行われている情報教育というのは、ワープロソフトや表計算ソフトの操作技能の習得やコンピュータのキーボードでの入力に慣れるといったものである。これは技術科で身につけさせる学力の形成とは少しずれたものであり、技術科で行う内容ではないと考える。操作技能に関しては総合的学習の時間などで行い、技術科で行う情報教育は、「情報“技術”教育」である、制御や通信の技術の学習のような、科学的認識や技術・労働観を身に付けさせる内容を学習するべきである。

そして3つ目に、「コンピュータを操作できても構造は理解していない」ということである。現在、大半の家庭では1台以上コンピュータを所有しており、コンピュータは生活の中の身近な機器だという認識がある。家庭にコンピュータがある時代であり、学校以外でコンピュータに触れる機会はたくさんある。家庭でコンピュータを使うことにより、学校で学習しなくてもコンピュータの操作技能を習得している子どもも珍しくない。しかし、コンピュータの操作が出来る子どもはいても、コンピュータの構造を理解している子どもはあまりいない。この、コンピュータの構造や通信技術を用いた簡単な計測制御などを学習するのが技術科の内容であり、それを学習することによって身近な生活の中だけでなく、産業技術も取り上げることができ、労働観を養うことに繋がる。

 これらの現状より、現在の技術科教育における情報教育では、科学的認識の形成に繋がらない指導内容となっているということが言え、この科学的認識の形成に力を入れた指導をする必要があると考える。情報教育での技術の科学的認識を養うためには、コンピュータの構造や、プログラム制御の基礎を学ぶ学習が効果的であり、本研究では「制御」の学習を取り上げ、効果的な制御の学習が行える教材の制作を行うことにした。

 

3.「制御」の学習用教材の製作

 

3.1 PICを用いた制御回路の製作

教材を製作するにあたり、「中学校の技術科に与えられている授業時間は少ない」ということと「中学校技術科で指導する内容が多い」という点を考慮し、限られた授業時間の中で時間を有効活用出来る教材を考えた。時間を有効に活用出来る教材というのは、言い換えれば1つの教材で複数分野の学習が行える教材である。制御の学習と、さらに他の内容も併せて学習できる教材が良いと考え、この条件を満たすものとしてPICを用いた教材を作成することにした。制御する対象は「単相誘導モータ」を用いたが、このモータは身近な家電(ミシン、扇風機、空気圧縮機、ポンプなど)に用いられているモータである。また、単相誘導モータは通常の家庭用コンセントから供給されている単相交流電力で動作するので利用が容易であること、モータの仕組みが複雑ではないので理解しやすいということも、このモータを利用する理由である。本研究では、単相誘導モータとして、単相誘導モータの学習用教材である「パネル式単相誘導電動機(4)」を用いた。外観を図1に示す。回転子が大きく、回転していることが確認しやすくなっており、正転と逆転が視覚的にわかりやすくなっているものである。

 

図1 単相誘導モータの概観

 

図2に本研究で作成した「PICを用いた制御回路」(5) (6)の外観、図3に回路図を示す。この回路の主な構成部品は、PICPIC16F84A)、SSR(無接点リレー)、押しボタンスイッチ、ON/OFFスイッチ、LED、セラロック、三端子レギュレータなどである。PICを用いることにより、PICからの信号でSSRを制御する回路である。電源に9Vの電池“006P”型を使用しており、三端子レギュレータを用いて5Vの一定電圧をPICにかけることでPICを動作させている。PICICソケットに装着されているので、このPICを取り外し、プログラムを書き換えることで様々な動作をさせることが可能である。

 

図2 PICを用いた制御回路の外観

 

図3 PICを用いた制御回路の外観

 

3.2 モータの回転制御回路の製作

図4に単相誘導モータの正転・停止・逆転回路の外観、図5に回路図を示す。この回路の主な構成部品は、リレー、押しボタンスイッチ、フューズなどである。この回路はPICで制御されたSSRからの出力電流により、リレーがONOFFする仕組みになっている。どちらのリレーが動作するかによって正転・逆転の切り替えが行われる。正転・逆転を切り替えるリレーの回路図を図5に示している。また、この回路は2つのリレーを用いた自己保持回路になっている。

 

図4 単相誘導モータの正転・停止・逆転回路の外観

 

 

図5 単相誘導モータの正転・逆転回路図

 

3.3 プログラムの作成

製作した教材に用いるプログラムは、PICを開発しているマイクロチップ・テクノロジー社が無償で提供している統合開発環境ソフトMPLAB(エムピーラブ)と、CCS社のCコンパイラ(有償)を用いて作成した。CCS社のCコンパイラにはタイマが組み込まれているため、タイマプログラムを作成する手間が省けるという利点がある。これを自作したPICライタとフリーソフトのライタソフトを用いてPICに書き込みを行った。今回作成したプログラムは、一例であるが、モータの正転・逆転・停止を繰り返すプログラムである。押しボタンスイッチ1(図3、4に示すPBS1)を押すと「モータが5秒間正転→5秒間停止→3秒間正転→3秒間停止」を5回繰り返し、押しボタンスイッチ2を押すと「モータが5秒間正転→30秒間停止→5秒間逆転→30秒間停止」を5回繰り返すプログラムである。このプログラムのフローチャートを図6に示す。

 

図6 フローチャート

 

4.「制御」の学習用教材を用いた指導計画

 

4.1 指導計画

18時間で製作した教材用制御回路を用いた、「制御」を指導する内容の授業計画を提案する。対象は中学2年生である。全18時間としたのは年間35時間の半分程度という設定であり、この指導計画にモータの学習やエネルギー変換の学習を取り入れて35時間という予定での時間設定である。

 

表1 指導計画

時間配分

指導内容

2時間

コンピュータについて

2時間

制御に関する知識

7時間

回路製作

6時間

プログラムの作成と制御

1時間

確認テスト

(全18時間)

 

本授業計画は、学習指導要領の「技術とものづくり」の部分と、「情報とコンピュータ」の部分を複合している。PICを使用する電子回路製作と、実際に製作した回路を用いて、「制御」について学ぶという授業内容である。授業の流れとしては、まずコンピュータの基本的構成や機能を理解し、プログラムや制御ということに着目させる。次に、身近な電化製品を例に挙げ、制御に関する知識を身につける。ここでは、これからの制御技術にも触れ、生徒の興味を引くような内容も取り上げる。それからPICを用いた回路製作に移り、7時間の製作に入る。製作では主にはんだ付けを行い、はんだごて・ドリルの使用方法、事故防止教育なども重視して行う。ここでは、本研究で作成した教材の、PICを用いた制御回路部分の作成のみ行う。次に、PICのプログラムについて学習し、プログラムを実際に作成する。ここでは6時間をかけ、プログラムを作成して制御するまでの工程を行う。簡単なプログラムについて学習し、指定したプログラムを生徒が入力し、プログラムを作成する。このプログラムを使って、生徒が製作した回路の中のPICに作成したプログラムを書き込み、「制御」ということを体験する。指定したプログラムの他に、指定したプログラムを少し変えた、オリジナルプログラムも作成させる。

授業のねらいは、ものづくりの授業として行うPICを使用する電子回路の製作を通して、工具や機器を適切に使えるようになること、また、機器の保守と事故防止ができるようになることを目的とする。プログラムの作成と制御の授業では、プログラムの機能について理解し、PICにおけるプログラムを作成できるようになることを目的とする。また、プログラムの作成にはコンピュータを使用することが必須となるので、コンピュータの基本的な構成と機能を知り、操作が出来ることも目的である。

 

この授業では、技術科学習指導要領(3)の内容のうち、次の項目を学習できる。

 

 

A 技術とものづくり」

・技術が生活の向上や産業の発展に果たしている役割について考えること。(1)

・工具や機器を適切に使い、製作品の部品加工、組み立て及び仕上げが出来ること。(3)

・機器の保守と事故防止ができること。(4)

 

B 情報とコンピュータ」

・コンピュータの基本的な構成と機能を知り、操作ができること。(2)

・プログラムの機能を知り、簡単なプログラムの作成ができること。(6)

 

 

 

4.2 各小単元別授業計画

表1の各小単元別に、詳しい授業計画を説明する。

 

表2 小単元別授業計画

指導内容

授業計画

コンピュータについて

2時間)

コンピュータの基本的な構成要素である、入力・記憶・演算・制御・出力の5大装置について理解する。この5大装置を理解した上で、コンピュータはプログラムによって動作していることに着目し、機械はプログラムによって「制御」されていることを理解する。

制御に関する知識

2時間)

制御されている身近な電化製品を例に挙げ、どのような制御がされているかを考える。そして、制御は、生活の向上や産業の発展に役に立っていることを理解する。また、携帯電話を用いた家電の制御などを取り上げることで、これからの制御技術における課題などを意識し、技術の発展に興味を持たせたい。

回路製作

7時間)

PICを用いた電子回路製作を行う。ドリルで基盤に穴をあけ、はんだ付けで部品を接続する作業が主となる。基盤のどこに部品を接続するかをわかりやすく表示したプリントを配布し、作業を行う。部品の説明は簡単に行うが、細かい回路図を示すことはしない。全て生徒の手で作らせたいが、十分な時間が確保できないため、ここでは、ドリルやはんだごてなどの工具や機器の使い方、安全な作業をするための知識を身に付けることを重視し、電子回路に関してはあまり深入りしない。モータやリレーを用いている部分の回路は教師側で用意し、その回路に生徒が製作した回路を接続して動作確認することになる。

プログラムの作成と制御

6時間)

PICに書き込むためのプログラムを作成する。PICのプログラムについて簡単に理解させ、最初はあらかじめ教師側で指定したプログラムをパソコンに入力する。プログラムを作成し、PICに書き込んで動作確認した後、そのプログラムを生徒が部分的にプログラムを変えて、もう一つのプログラムを作成させる。生徒各々のオリジナルプログラムを作成させることによって、プログラムの理解を深め、応用力を養うのが目的である。ここでも時間の制限があり、プログラムの一つ一つを理解させるのは難しいので、細かくは指導しないことにする。

確認テスト

1時間)

コンピュータの構造、制御に関する知識、製作の際に使った工具や機器の使い方、プログラムについて出題し、理解度を確認する。

 

5.結論

本研究では、技術教育の情報分野における、「制御」の学習のための教材を作成し、その教材を用いた授業を考えた。コンピュータの操作方法を学ぶだけの情報教育ではなく、生活や産業の基礎となっている技術を学び、体験する授業を行うことによって、身近な生活概念に照らし合わせ、応用が利く学力の形成ができると考えたからである。知識と技能のどちらかしか学べない授業では、十分な理解には結びつかないため、実践的・体験的な学習を通して知識と技能を両方身に付けることが重要である。今の技術教育における情報教育は、コンピュータの操作方法の習得という技能しか身に付かない内容になっている。技能だけでなく、知識を身に付けるためには、コンピュータの構造や制御に関する知識を学習することが必要である。しかし、知識、技能も身に付けるためには授業時間が少なく、効率的な授業展開が必要となってくる。そこで、授業計画を考えるにあたり、少ない授業時間の中で、総合的な内容を学習できるような教材を製作し、技能も知識も身に付けられるような授業を行える工夫をした。授業時間を考慮し、あまり詳しい内容までは扱うことはできないが、「制御」についての知識は十分理解出来る内容となったと考える。

本研究を通して、PICは制御を学習するためにはとても適したものであると感じた。コンピュータの構造を学習して「制御」を理解するよりも、PICを用いて学習することは、身近な電化製品や産業技術の関連付けがし易く、幅広い学習に応用できると考える。プログラムを全て理解するのは中学校の技術教育では難しいと思うが、PICを用いて様々な教材を製作することができ、様々な分野の学習と関連付けされることができる。また、本研究で製作した教材に関しては、今回製作した教材で単相誘導モータの仕組みやエネルギー変換の概念にも触れることができ、制御の学習の前、または後にモータの仕組みやエネルギー変換についての学習を行うことができるようになっている。本研究での授業計画例は「制御」分野しか扱っていないため18時間の設定だが、年間を通した指導計画を立てる際には、エネルギー変換などの領域を学習する計画を立てることは可能である。本教材を制御の学習のみで終わらせるのではなく、さらに活用すべきだと考える。今後の課題として、本研究で立案した指導計画に単相誘導モータの仕組みやエネルギー変換の仕組みを学習する内容を加え、さらに多分野の学習が出来る効率的な指導計画を立案することが挙げられる。また、中学生にはPICに用いるプログラムを作成することは少し難しいと思われるので、中学生にも簡単に少ない時間でプログラムが作成できるようにプログラム作成を支援するソフトがあればさらに効果的に学習が行えると感じた。プログラムが簡単に作成でき、簡単な操作でコンパイルやPICへの書き込みができるようなものが望ましい。このことから、PICのプログラム作成支援ソフトの開発も今後の課題である。

本研究で製作した教材、および授業計画や授業内容はまだまだ改善すべき課題点は残されており、現場において模擬授業を実践し、問題点を見つけ出す必要がある。中学校の技術科教育のレベルに適した教材、生徒の興味・関心を引き出す教材、制御の概念が理解しやすい授業展開、指導方法の充実など、細かく検討するためにも、今後も研究を継続していく必要性がある。

 

 

 

 

 

<参考文献>

 

(1) 河野義顕,大谷良光,田中喜美編:「技術科の授業を創る‐学力への挑戦‐」,学文社,1999

(2) 梶原将司,寺沢郁夫,渡辺武:「中学校技術科のものづくり教育について」,山梨大学教育人間科学部紀要第51号(2003

(3)「中学校学習指導要領(平成1012月)解説‐技術・家庭科編‐」,文部科学省

(4) 株式会社トップマン教具部 http://www.topman.co.jp/ky/home.html

(5) 鈴木美朗志:「たのしくできるCPIC制御実験」東京電機大学出版局,2003

(6) 鈴木美朗志:「たのしくできるPICプログラミングと制御実験」,東京電機大学出版局,2002

 

−全般的に参考にした文献−

・後閑哲也:「たのしくできるPIC電子工作」,東京電機大学出版局,1999

・趣味の電子回路工作         http://www.hobby-elec.org/

・電子工作の実験室            http://www.picfun.com/