PICを用いた単相誘導モータ制御の教材化に向けて
石黒 擁(山梨大学大学院教育学研究科)
杉浦 修(山梨大学教育人間科学部)
藤田 孝夫(山梨大学教育人間科学部)
1.序論
全18時間で製作した教材用制御回路を用いた、「制御」を指導する内容の授業計画を提案する。対象は中学2年生である。全18時間としたのは年間35時間の半分程度という設定であり、この指導計画にモータの学習やエネルギー変換の学習を取り入れて35時間という予定での時間設定である。
表1 指導計画
時間配分 |
指導内容 |
2時間 |
コンピュータについて |
2時間 |
制御に関する知識 |
7時間 |
回路製作 |
6時間 |
プログラムの作成と制御 |
1時間 |
確認テスト |
(全18時間)
本授業計画は、学習指導要領の「技術とものづくり」の部分と、「情報とコンピュータ」の部分を複合している。PICを使用する電子回路製作と、実際に製作した回路を用いて、「制御」について学ぶという授業内容である。授業の流れとしては、まずコンピュータの基本的構成や機能を理解し、プログラムや制御ということに着目させる。次に、身近な電化製品を例に挙げ、制御に関する知識を身につける。ここでは、これからの制御技術にも触れ、生徒の興味を引くような内容も取り上げる。それからPICを用いた回路製作に移り、7時間の製作に入る。製作では主にはんだ付けを行い、はんだごて・ドリルの使用方法、事故防止教育なども重視して行う。ここでは、本研究で作成した教材の、PICを用いた制御回路部分の作成のみ行う。次に、PICのプログラムについて学習し、プログラムを実際に作成する。ここでは6時間をかけ、プログラムを作成して制御するまでの工程を行う。簡単なプログラムについて学習し、指定したプログラムを生徒が入力し、プログラムを作成する。このプログラムを使って、生徒が製作した回路の中のPICに作成したプログラムを書き込み、「制御」ということを体験する。指定したプログラムの他に、指定したプログラムを少し変えた、オリジナルプログラムも作成させる。
授業のねらいは、ものづくりの授業として行うPICを使用する電子回路の製作を通して、工具や機器を適切に使えるようになること、また、機器の保守と事故防止ができるようになることを目的とする。プログラムの作成と制御の授業では、プログラムの機能について理解し、PICにおけるプログラムを作成できるようになることを目的とする。また、プログラムの作成にはコンピュータを使用することが必須となるので、コンピュータの基本的な構成と機能を知り、操作が出来ることも目的である。
この授業では、技術科学習指導要領(3)の内容のうち、次の項目を学習できる。
「A 技術とものづくり」 ・技術が生活の向上や産業の発展に果たしている役割について考えること。(1)ア ・工具や機器を適切に使い、製作品の部品加工、組み立て及び仕上げが出来ること。(3)イ ・機器の保守と事故防止ができること。(4)イ 「B 情報とコンピュータ」 ・コンピュータの基本的な構成と機能を知り、操作ができること。(2)ア ・プログラムの機能を知り、簡単なプログラムの作成ができること。(6)ア |
4.2 各小単元別授業計画
表1の各小単元別に、詳しい授業計画を説明する。
表2 小単元別授業計画
指導内容 |
授業計画 |
コンピュータについて (2時間) |
コンピュータの基本的な構成要素である、入力・記憶・演算・制御・出力の5大装置について理解する。この5大装置を理解した上で、コンピュータはプログラムによって動作していることに着目し、機械はプログラムによって「制御」されていることを理解する。 |
制御に関する知識 (2時間) |
制御されている身近な電化製品を例に挙げ、どのような制御がされているかを考える。そして、制御は、生活の向上や産業の発展に役に立っていることを理解する。また、携帯電話を用いた家電の制御などを取り上げることで、これからの制御技術における課題などを意識し、技術の発展に興味を持たせたい。 |
回路製作 (7時間) |
PICを用いた電子回路製作を行う。ドリルで基盤に穴をあけ、はんだ付けで部品を接続する作業が主となる。基盤のどこに部品を接続するかをわかりやすく表示したプリントを配布し、作業を行う。部品の説明は簡単に行うが、細かい回路図を示すことはしない。全て生徒の手で作らせたいが、十分な時間が確保できないため、ここでは、ドリルやはんだごてなどの工具や機器の使い方、安全な作業をするための知識を身に付けることを重視し、電子回路に関してはあまり深入りしない。モータやリレーを用いている部分の回路は教師側で用意し、その回路に生徒が製作した回路を接続して動作確認することになる。 |
プログラムの作成と制御 (6時間) |
PICに書き込むためのプログラムを作成する。PICのプログラムについて簡単に理解させ、最初はあらかじめ教師側で指定したプログラムをパソコンに入力する。プログラムを作成し、PICに書き込んで動作確認した後、そのプログラムを生徒が部分的にプログラムを変えて、もう一つのプログラムを作成させる。生徒各々のオリジナルプログラムを作成させることによって、プログラムの理解を深め、応用力を養うのが目的である。ここでも時間の制限があり、プログラムの一つ一つを理解させるのは難しいので、細かくは指導しないことにする。 |
確認テスト (1時間) |
コンピュータの構造、制御に関する知識、製作の際に使った工具や機器の使い方、プログラムについて出題し、理解度を確認する。 |
本研究では、技術教育の情報分野における、「制御」の学習のための教材を作成し、その教材を用いた授業を考えた。コンピュータの操作方法を学ぶだけの情報教育ではなく、生活や産業の基礎となっている技術を学び、体験する授業を行うことによって、身近な生活概念に照らし合わせ、応用が利く学力の形成ができると考えたからである。知識と技能のどちらかしか学べない授業では、十分な理解には結びつかないため、実践的・体験的な学習を通して知識と技能を両方身に付けることが重要である。今の技術教育における情報教育は、コンピュータの操作方法の習得という技能しか身に付かない内容になっている。技能だけでなく、知識を身に付けるためには、コンピュータの構造や制御に関する知識を学習することが必要である。しかし、知識、技能も身に付けるためには授業時間が少なく、効率的な授業展開が必要となってくる。そこで、授業計画を考えるにあたり、少ない授業時間の中で、総合的な内容を学習できるような教材を製作し、技能も知識も身に付けられるような授業を行える工夫をした。授業時間を考慮し、あまり詳しい内容までは扱うことはできないが、「制御」についての知識は十分理解出来る内容となったと考える。
本研究を通して、PICは制御を学習するためにはとても適したものであると感じた。コンピュータの構造を学習して「制御」を理解するよりも、PICを用いて学習することは、身近な電化製品や産業技術の関連付けがし易く、幅広い学習に応用できると考える。プログラムを全て理解するのは中学校の技術教育では難しいと思うが、PICを用いて様々な教材を製作することができ、様々な分野の学習と関連付けされることができる。また、本研究で製作した教材に関しては、今回製作した教材で単相誘導モータの仕組みやエネルギー変換の概念にも触れることができ、制御の学習の前、または後にモータの仕組みやエネルギー変換についての学習を行うことができるようになっている。本研究での授業計画例は「制御」分野しか扱っていないため18時間の設定だが、年間を通した指導計画を立てる際には、エネルギー変換などの領域を学習する計画を立てることは可能である。本教材を制御の学習のみで終わらせるのではなく、さらに活用すべきだと考える。今後の課題として、本研究で立案した指導計画に単相誘導モータの仕組みやエネルギー変換の仕組みを学習する内容を加え、さらに多分野の学習が出来る効率的な指導計画を立案することが挙げられる。また、中学生にはPICに用いるプログラムを作成することは少し難しいと思われるので、中学生にも簡単に少ない時間でプログラムが作成できるようにプログラム作成を支援するソフトがあればさらに効果的に学習が行えると感じた。プログラムが簡単に作成でき、簡単な操作でコンパイルやPICへの書き込みができるようなものが望ましい。このことから、PICのプログラム作成支援ソフトの開発も今後の課題である。
本研究で製作した教材、および授業計画や授業内容はまだまだ改善すべき課題点は残されており、現場において模擬授業を実践し、問題点を見つけ出す必要がある。中学校の技術科教育のレベルに適した教材、生徒の興味・関心を引き出す教材、制御の概念が理解しやすい授業展開、指導方法の充実など、細かく検討するためにも、今後も研究を継続していく必要性がある。
<参考文献>
(1) 河野義顕,大谷良光,田中喜美編:「技術科の授業を創る‐学力への挑戦‐」,学文社,1999
(2) 梶原将司,寺沢郁夫,渡辺武:「中学校技術科のものづくり教育について」,山梨大学教育人間科学部紀要第5巻1号(2003)
(3)「中学校学習指導要領(平成10年12月)解説‐技術・家庭科編‐」,文部科学省
(4) 株式会社トップマン教具部 http://www.topman.co.jp/ky/home.html
(5) 鈴木美朗志:「たのしくできるC&PIC制御実験」東京電機大学出版局,2003
(6) 鈴木美朗志:「たのしくできるPICプログラミングと制御実験」,東京電機大学出版局,2002
−全般的に参考にした文献−
・後閑哲也:「たのしくできるPIC電子工作」,東京電機大学出版局,1999
・趣味の電子回路工作 http://www.hobby-elec.org/
・電子工作の実験室 http://www.picfun.com/