多入力早押し判定器及び周辺回路

 

浅田 啓太(山梨大学大学院教育学研究科)

 藤田 孝夫(山梨大学教育人間科学部)

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1.     序論

現代社会において、私たちの身の回りには、様々な形でコンピュータが利用されている。コンピュータの代名詞でもあるパソコンに限らず、今では当然のように利用されている家電製品の中にも、コンピュータは組み込まれ、与えられた機能によって機械を制御している。機械の操作自体は普段特に意識をしなくとも、ボタンひとつで行えるため、ボタンが押されてからどのような仕組みを持って製品が機能を果たしているのかを知らなくても、私たちはその製品の持つ機能を利用することができる。

コンピュータは特定の機能を持つ電子回路の組み合わせによって成り立っている。その一つ一つは、電気信号のON/OFFによって動作をしている。例えば自転車の様な機械の場合、動作の仕組みについて知る為に自転車を分解し、それぞれの要素を直接見たり触れたりすることができる。ところが、電子回路の場合、回路が組み込まれている製品を機械的に分解してもその動作の仕組みについては知ることができない。つまり、機械と電子回路では「動作」の持つ意味が変わってくるといえる。コンピュータにおける「動作」とは物体の移動といった物理的なものではなく、データのやり取りによる論理的な制御機能のことを指すことになる。

コンピュータにおけるデータのやり取りは、現状の技術では電気信号のやり取りを意味しており、多くのコンピュータは電気信号によって機械を制御し、その機能を果たしている。私たちは普段それを特に意識してはいないが、コンピュータ上での制御の仕組みを理解する上で電気信号のやり取りを理解することは必要であると考える。そこで、コンピュータの構造において最も基本となる論理回路を取り上げ、制御分野における教材としての可能性を検討した。本研究においては、論理回路を用いた制御教材の一例として、組み合わせ論理回路及び記憶素子であるフリップフロップを利用した回路である早押し判定回路の製作を行った。製作を通して制御回路の基礎に対する理解を深めるとともに、製作した回路の機能を効果的に提示するための手段について検討した。

 

 

2.     論理回路を利用した回路の製作について

 

2.1早押し判定回路の製作

先に示したように高性能なコンピュータの制御を考えた場合、多くの電気信号によって機械を制御し、その機能を果たしている。これを人が視覚的に捕らえることのできる事柄に置き換えると、「複数の入力に対し特定の条件を満たす信号のみを受け取り、その信号の持つ情報を実行する。」と考えることが出来る。つまり、入力される情報をひとつに絞り、追加入力を受け付けない仕組みである早押し判定回路は、制御の仕組みを表した代表的な回路といえる。また早押し判定回路においては、ゲート素子や記憶論理素子であるFFの特性を端的に表した回路の一例としてあげることができる。

そこで、今回は与えられた信号の制御・保持を行う回路の製作として、早押し判定機能を持つ回路の製作を行った。なお、個別の機能をより理解しやすくするため、スイッチ回路・早押し判定回路・出力回路の要素に分けて考え、それぞれの回路ごとに別の基板上で製作した。

 

2.2スイッチ回路について

早押し判定において、入力される信号がより正確である必要は十分に考えられる事柄である。製作の過程において、図1のような単純なスイッチ回路を構成した場合、図2のようにスイッチの接点部分で微細な信号重複が生じる。つまり、一度に複数回入力が行われてしまうために正確な入力ができないという問題が起こる。スイッチ回路を構成する上ではこのチャタリングの防止機能を加える必要がある。図3に示すようにコンデンサを回路に付加することで入力信号の応答速度を落とすことにより、複数回生じる入力信号を1回の入力として認識させることが出来る。しかし、図4ではHL判別の閾値付近での動作不良を解消する必要があり、シュミットトリガ素子を用いることで、チャタリングを除去することが出来る。シュミットトリガにより、図5に示すようにスイッチ入力による誤作動を起こさないスイッチ回路を構成することができる。

 

  

図1スイッチ回路A           図2チャタリング現象

        

 図3スイッチ回路B                図4チャタリング除去後の信号

 

図5シュミットトリガ付加後のスイッチ回路

 

2.3早押し判定回路について

早押し回路の機能について、「二つ以上の入力装置が存在し、そのうちで最も早く入力が行われた装置の情報を出力する。その後に他の入力が入ったとしても、出力として受け付けない回路」とみなすことが出来る。そこから、入力装置が1つであった場合「一回目の入力は受け付けるが、2回目以降の入力は受け付けない回路」と解釈した。今回、D-FF素子を用いて回路の構成・製作を行い、回路を複数個組み合わせることで、多入力による早押し判定回路とした。

上記の考えを基に、2入力の早押し回路を考える。図6にその回路図、図7に回路のタイミング図を示す。

6 2入力早押し判定基本回路

図7 2入力早押し判定回路タイミング図

なお、出力回路としてはLED点灯回路を用い、スイッチに対応したLEDが点灯するものとした。

 

2.4動作結果について

 今回、図6で示した2入力による早押し判定をさらに発展させ、図8に示す4入力による早押し判定を可能とした回路の構成を試みた。また、回路にリセット機能を加えることで、何回でも試行できるようにした。なお、図8ではチャタリング防止の処理を施したスイッチ回路も含まれている。図8より実際に構成した回路を図9に示す。構成回路の結果としては図10,11のようにスイッチ入力があった場合、そのスイッチに対応したLEDが点灯する。

図8 4入力早押し判定器回路図

R1kΩ,C10μF

図9早押し判定機概観図

      

10スイッチ入力前              図11スイッチ入力後

 

 

3.     早押し判定回路における周辺回路

 

3.1早押し判定機における修正点

早押し判定回路の製作を通して、改善及び修正が必要だと判断した点として以下の内容が挙げられる。

     入出力機能の強化

1では、入力としてスイッチを、出力としてLEDの点灯箇所または色によって入力情報判断を行った。入出力をより利用しやすいものにする。

     扱う情報許容量の増大

今回、スイッチによる入力数は4つであった。それ以上の入力を持つ回路へと拡張する。

     取得した情報の記録,保存

入力された情報を出力する際に、その結果を別の場所へと記録・保存し、取得した情報を表示する機能が考えられる。

この中から対策の一例として入出力機能の強化を検討し、対応する回路の製作を行った。

 

3.2 7セグメントLEDによる出力情報の具体化

今回、早押し回路における出力機能として求めているものは、「4つの入力のうち、どのスイッチが早く入力されているか」という部分である。解決法として、入力部分であるスイッチに番号を振り、出力箇所において入力されたスイッチの番号を表示させる方法とした。そのため、出力機能として7セグメントLEDを利用し、論理回路と組み合わせることでディジタル数字によって入力されたスイッチの番号を表示させる回路を構成した。出力形式を視覚的に伝わりやすいものへとすることで、回路の機能を向上させることを試みた。7セグメントLEDによりスイッチに対応したデジタル数字を表示させるための7セグメントLEDの入力を、4入力早押し判定機の出力AAを用いた論理式で表すと次のようになる。

12の出力ag7セグメントLEDの入力agに対応しているため、7セグメントLEDには上記のagの信号が入力される。(図13

 

出力

入力

 

出力

入力

a

A+A

 

e

A+A+A

b

0

 

f

A+A+A

c

A

 

g

A’A’A

d

A+A

 

 

 

表1 7セグメントLED入出力対応表

上記における「」はnotを意味しており、たとえばAであればnotAのことを指している。

ここで、出力gの論理式はA’A’Aであるが、論理関数の性質を利用してg=(A+A+Aと式変形することで、回路の簡略化を行っている。

 

     

12 ディジタル数字表示回路    図13 7セグメントLED回路図

 

3.3      動作結果

前述した早押し判定回路において、その表示回路部分を7セグメントLEDに変更し、改めて早押し判定機の構成を行った。構成した回路の概観を図14に示す。

電源をいれ、入力待ちの状態にすると、図15のようにLED0を表示する。この状態から、スイッチ1〜4のいずれかが入力されると、次に示す図16の状態になる。スイッチに記された数字と、表示されているディジタル数字とが一致していることで、正しく表示されていることが確認できる。

14 7セグメントLED導入後の早押し判定器概観図

 

15入力待機状態

 

16 スイッチ入力後の表示状態

 

 

4.     考察

本研究では、論理回路における制御教材を目標として、早押し判定回路の製作に取り組んだ。また、製作した回路をより利用しやすいものへとするために、出力部分をLEDの点灯による表示装置から、7セグメントLEDによるディジタル数字を表示するものへと改善した。これにより、表示部分においてLEDの単なる点灯から、「ディジタル数字」という人間にとって視覚的にわかりやすい表示をもつ回路へとすることが出来た。今後の課題として、早押し判定器の性能を向上し、より使いやすくすることや、判定結果を新たな入力として、別の回路を制御することが可能と考えられる。また、論理回路の基礎部分を教材化し、現行の指導要領の内容に準じた中学校段階における指導計画・指導案の作成も検討する予定である。

 

 

<参考文献>

(1)   門脇 信夫 「論理回路入門」 工学社 2003 .

(2)   藤井 信生 ,「なっとくするディジタル電子回路」,講談社, 2004.

(3)   渡波 ,「CPUの創りかた」 MYCOM毎日コミュニケーションズ 2006 .

(4)   デイビット・A・パターソン/ジョン・L・ヘネシー ,「コンピュータの構成と設計 第3版(上)」 ,日経BP社 2006 .

(5)   電気技術研究会 ,「よくわかる電気のしくみ」 ,ナツメ社 2007 .

(6)   猪飼 國夫 1979年版最新TTLIC規格表」 CQ出版社 1979 .

 

参考URL

     電子工作の実験室 URL: http://www.picfun.com/

     東芝 セミコンダクター社 URL: http://www.semicon.toshiba.co.jp/