活断層調査/トレンチ調査/断層変位地形


トレンチ調査によるイベント解読

 トレンチ調査では,壁面の地質の観察から,断層が動く前に堆積した地層と
動いた後に堆積した地層を識別することによって断層活動の時期(イベント)
を解明するものである.イベント解読の鍵になる地層(その構造)はどのよう
なことでわかるのか? 下の図はこれまでに各地で行われたトレンチ調査でイ
ベント識別に用いられた成果の要約である.断層活動でそれまでに堆積した地
層が曲がったり,ずれたり,壊れたりするが,その後に堆積する地層は,それ
らの変形・変位を保存するように,(削りながら)埋めたてていく.従って,
イベントが繰り返し起こっても,イベントを経験した回数に応じて地層が受け
た変形・変位(その程度と量)は異なるはずである.これが基本的な考えであ
る.しかし,実際のトレンチ壁面では,イベント後の堆積環境が大きく変化し
たりするので,必ずしもイベント後の地層の識別は容易ではない.
 トレンチ調査を行う場所の選定は,イベントを精度よく解読するために最も
慎重に行わなければならないが,調査用地の制約は避けられない.1つの場所
の結果だけで,その活断層の全体の活動時期を評価するのは大変危険である.
最新の活動時期を特定するには,最後に断層が動いて変位を受けた地形・地層
のうち最も新しい場所と,変位を受けていない地形・地層の最も古い場所を見
いだし,その両方を調べることが必要であろう.このようにして解読し得た例
はまだ少ない.断層の露出にこだわるがために,断層崖の基部を掘削対象とし
て断層崖斜面の堆積物からイベントを識別する調査が多いが,これは必ずしも
イベントの時期の解読にはすぐれていない.なぜならば斜面(離水した場所)
の堆積物は,断層活動以外でも様々に動くこともあり,年代値の評価に疑問が
残る.
 活断層のトレンチ調査は,現在のところ地震危険度の長期予測を行う上で,
最も優れた方法であるが,調査には多くの色々な経験が必要であることも確か
である.


Allen(1986),岡田(1980),渡辺(1996)による