『総合情報処理センター研究報告』の創刊に寄せて
総合情報処理センター長伊藤 洋(itoyo@pine.ese.yamanashi.ac.jp)
学術研究は、常に革新的であることが求められます。それでいて、それが学問であるためには一定の領域を限定的に有していること、加えてそれが社会通念として認知されていることが必要なように思われます。こういう革新性と伝統性とのマージナルな境界こそが学問の成立する場所にほかなりません。私たちは、改めてここに『山梨大学総合情報処理センター研究報告』を世に問うことを決意しました。しかし、果たして「情報センター学」なるものが存在し得るのかどうかということには大いに疑問の余地が有ります。まして、山梨大学「総合情報処理センター」の課せられている学術的範囲が一体どのように定義され、限定されているのかが判然としません。その日常的に課せられている役割としての学術情報基盤の構築やコンピュータ資源・ネットワーク機能の提供ということであれば、既存の「情報処理学」や「情報通信工学」の範疇に含まれますから、殊更に学問を開くことには当たりません。それでいて、センターが求められている役割は刻一刻変化していますし、その社会的広がりや技術的革新性はここに身を置くものとっても目眩を感ずるほどのものが有ります。そこにこそ新しい知の枠組みの創造が有るはずだと確かな手応えを感じてもいるのです。
いまありとあらゆる意味で「近代」が問い直されようとしています。そこでは私たちの想像を絶するような学術の革新性が求められ、かつ展開されていくであろうと予感されます。それゆえ、近代を通じて十分に確立されオーソライズされた学問領域を換骨奪胎していくことがとりもなおさず重要なはずです。もしそうであれば、大学における学術研究や教育のありようもおおきに革新されていかなくてはならないはずです。
以上のような試行錯誤の末に、本『研究報告』を、新しい知の創造への試みの場として提供することに致しました。「創刊号」が、上述の意味でどれほどに成功しているかについては、もとより何の成算も有りません。ただ、私たちの意気込みと挑戦をご理解頂けることを念ずるのみです。
本『研究報告』の体裁については、ハイパーテキストを用いて表現すること、それゆえにコンピュータとCDを媒体とし、インターネットにリンケージすることで論文の広がりを確保すること、加えて学術情報の公開の立場からWWW上でも同一の内容を掲載することとして、広く学外にもこれを問うこととしました。このような形式がどの程度成功するものかも、創刊の試みの中に込めたつもりであります。
最後に、本出版に絶大な協力を惜しまれなかった著者の皆さんに心から感謝申し上げますと共に、読者の皆さんの忌憚のない御批判とご叱正を切にお願い申し上げ、本テキストの今後の成長に御助言をいただけますことをも併せてお願い申し上げます。