インターネットを活用した教員研修としての公開講座実践に関する研究




成田 雅博

narita@kkb.yamanashi.ac.jp

山梨大学 教育学部
附属教育実践研究指導センター

<概要>
 校種を問わず,一般の方も参加するインターネットの教育利用に関する公開講座を実施した。受講者には,ダイアルアップPPP,電子メール,Webページ公開のためのアカウントを提供し,8か月の長期にわたり,受講者と講師の間のやりとりが電子メール,メーリングリストによって行われた。本稿では,講座の環境設定とカリキュラム,および,講座に関わって起こった事象を記述,分析することにより,長期にわたって実施する分散型講座がうまく運営されるための条件を抽出した。

<キーワード>インターネット,教員研修,教師教育,教育プロジェクト,メーリングリスト


1.はじめに
インターネットを活用した教育実践をすすめ,広めていくためには,日本語で書かれたWebページや,日本語により電子メール,メーリングリスト等でコミュニケートできる人など,教育リソースの充実,学校内LAN,インターネット接続およびコンピュータの分散配置等の教育環境の整備,カリキュラムの整備などが課題になっている。しかし,もっとも重要な課題は,教師のコンピュータ・リテラシー,ネットワーク・リテラシーを身につけることや,ネットワークを活用したカリキュラム開発,教育実践を設計・実施できる実践力をつけるための研修の充実である。
教員の研修としては,(1)校内の情報または視聴覚分掌等が主催する校内研修,(2)市町村あるいは県レベルで教育委員会または教育センターが主催する研修,(3)市町村あるいは県レベルの情報または視聴覚関係の教員が主体の研究会,(4)文部省関係の研修,(5)全国規模の学会,協議会,協会,研究会等の研修,(6)コンピュータ・メーカ,ソフトウェア会社等が主催するセミナー,(7)大学,高等学校,中学校,小学校等でおこなう公開講座,開放講座等がある。
上記の研修のほとんどは,比較的短期間に集中して実施されるものである。期間も限定されるため,とおりいっぺんのWebページ作成だけで終わったりしがちである。一方,大学が教員研修に寄与できることとしてはこの他に,比較的長期にわたり,教育実践そのものを研究対象にする文脈のもと,内地留学,現職の大学院生といった形がある。しかし,このような研修は,教師が一定期間学校を離れなければならず,教師全体の数から見ると非常に少数の者しか受講することができない。教師が学校を長く離れることなく,比較的まとまった期間研修を受けることのできる体制が望まれている。
本研究では,教師が学校を長く離れることなく,まとまった期間研修を行うことのできるモデルを提供し,そのような研修の観察から,そのような研修がうまくいくための条件を抽出することを目的とする。


2.具体的な公開講座の設計
具体的には,インターネットを活用し受講者=受講者間,受講者=講師間の連絡は,電子メール,メーリングリストを利用する公開講座を計画した。電子メールを使うにあたって必要なネットワークの設定方法,Webページの作成方法,教育実践へのネットワークの活かし方などは,土曜日等を利用して教師が大学にきて通常の方法により行うこととした。また,インターネットのコネクティビティの確保できない受講者がいることも考慮し,講座受講者すべてに対し,以下の環境を提供することとした。
(1)総合情報処理センターの教職員,学生向けダイアルアップPPPサーバを,講座受講者が利用できる。
(2)教育実践研究指導センターのサーバに,講座受講者のアカウントを作り,電子メールが利用できる。
(3)上のアカウントのホームディレクトリ内にWeb公開領域を作成し,受講者がWebページを作成,公開できる。
(4)講座受講者,講師等がメーリングリストを使って情報交換できる。
(5)受講者のネットワーク等の技術的な面をアルバイト学生が支援する。


3.講座のカリキュラム
公開講座の目的は,教師がインターネットの教育への活用の具体的方法を身につけることのほかに,一般の方が教育利用されることをねらったWebページを作成したり,電子メール等で教師や子どもからの疑問,質問に回答したりし,そのような活動が生涯学習の一環としても機能することをねらってもいる。また,異なる校種の教師同士の交流や,教員とそれ以外の職の方との交流により,教師が自らの活動を別の視点から見ることができるようになることもねらっている。第1節でリストアップした教員研修の多くが,学校の教師のみ,それも,同一の校種の教師だけを対象とすることが多いのに対して,本研究対象の講座はこのような特長をもっている。
講座のカリキュラムは,募集要項(http://www.cer.yamanashi.ac.jp/seminar/ei97/ei97announce.html)に掲載されている。国立大学の公開講座は,講座の時間数により一律に受講料が定められているため,時間不足を覚悟で,少な目に設定した。最初の2回は,受講者がインターネット接続し,電子メールの読み書きができることに目標をしぼった。その後,受講者が個別またはメーリングリスト上で情報交換しながら,受講者の興味・関心に応じた教育関係のプロジェクトをすすめてもらい,その成果を8か月後に報告してもらうこととした。
 講師と,実施した講座内容は,以下のとおりである。

◆講師
     大谷  尚(名古屋大学教育学部 助教授)
     初鹿 義彦(山梨県情報教育センター 研修主事)
     栗田 真司(教育学部美術教室 助教授)
     成田 雅博(教育学部附属教育実践研究指導センター 助教授)
     奥山 賢一(教育学部附属小学校 教諭)
     井上 公彦(教育学部附属中学校 教諭)

◆内容
●5月31日(土)
 13:00〜13:20 開講式,事務連絡(常秋教育実践研究指導センター長,成田)
 13:20〜13:50 本講座の目的,主な活動について(成田)
 13:50〜16:30 電子メール,PPPの設定・使い方
           Macintoshクラス(奥山)
           Windowsクラス(井上)
 16:30〜19:30 情報交換会(希望者のみ)

●6月7日(土)
 10:00〜12:00 <オプション>PPP接続の方法,電子メールの使い方(初心者およびトラブルにまきこまれている人)
  Macintoshクラス(栗田)
     教育実践研究指導センター3階マルチメディア教材作成室にて
  Windowsクラス(成田)
     教育学部L114教室にて
 13:00〜14:00 インターネットの概説(成田)
            PPPアカウント,PPP接続の意味
            電子メールのアカウント,メーリングリスト
            電子メール,メーリングリスト,WWWを利用する上での留意点
 14:00〜15:00 県内教育施設・学校等の情報ネットワーク環境の現状(初鹿)
 15:00〜17:00
  HTMLクラス(栗田)WWWページの公開方法(HTML文書の書き方,WWWサーバのページの更新方法...ftp)
      情報処理分室(附属図書館前)にて
  Macintoshクラス(奥山)
       教育実践研究指導センター3階マルチメディア教材作成室にて
  Windowsクラス(井上)
       教育学部L114教室にて

●6月14日(土)<オプション>
 9:30〜12:00 HTMLの説明,実際のWWWページの作成,更新(Macintoshを使って)(饗場(県教委),奥山,石川(附属小学校),成田)
        山梨大学教育学部附属小学校あおぎりホール1F情報教室にて
●6月28日(土)<オプション>
        教育実践研究指導センター3階マルチメディア教材作成室にて
 13:30〜14:00 技術的な状況の説明(成田)
 14:30〜15:30 インターネットを利用した学習の特性と課題(栗田)
 15:30〜16:00 インターネットを活用した教育実践(成田)
 16:00〜17:00 今まさに動きだそうとしている教育プロジェクトの紹介,自由討議(成田,栗田)

●7月5日(土)<オプション>(第4回山梨県ネットワーク活用教育研究会(仮称)をかねる)
 14:30〜17:00 1997年度に主な活動が期待されている教育プロジェクト(新100校,こねっとプラン関係,日本人学校との共同実践等)(成田)
      山梨大学教育学部附属小学校にて

●8月20日(水)
 15:00〜16:30 <オプション>パスワードの変更,PPP接続の方法,電子メール・メーリングリストの使い方,相談(初心者およびトラブルにまきこまれている人向け)(成田)
 18:00〜20:00 初等・中等教育における情報ネットワーク環境を活用した実践の記録,分析の方法(大谷)

●1月10日(土)
 13:30〜17:50 「オンラインプロジェクト」の最終報告(栗田,成田,奥山,井上,初鹿)
 17:50〜18:00 閉講式,事務連絡(常秋教育実践研究指導センター長,成田)



4.受講者
受講者は,43人であり,そのプロフィールは,以下のとおりである。ねらいどおり,さまざまな校種の教師の参加があり,一般の方の参加も多かった。受講者には,講座申し込み時点あるいは,第1回目の講座時にアンケート調査をおこなっている。

男女別

男 女 計
25 18 43

職業別

教員 AET 司書 実習助手 学校事務員 教育委員会 社会教育施設 企業等 医師 保健婦 主婦 計
25  1   1   1     1     1      4      5   1   1   2  43

上のうち教員の内訳

小学校 中学校 高校 特殊教育諸学校 専門学校 計
 11   2   5     4      3   25



5.メーリングリストの利用状況
公開講座にかかわるメーリングリストとしては,受講者,講師,アルバイト学生及び講座を支援してくれる人が登録されるkouzaと,kouzaから受講者を除いたメンバーを登録したkouza-tの2つを設定した。2つのメーリングリストに投稿されたメッセージ数の概要は,以下のとおりであった。

●メーリングリストに投稿されたメッセージ数の推移

月 メッセージ数
6月 174
7月 70
8月 26
9月 17
10月 16
11月 27


kouza-tは,受講者がインターネット接続されるまでの間は,主に技術的な設定,受講者へのアドバイスの仕方等で情報交換が多かったが,技術的なセッティングが落ち着いた後はほとんど利用されなくなった。受講者も見ることのできるメーリングリストであるkouzaだけが利用された。小学生等の子どもが使うメーリングリストでは,授業者や学習支援者だけのメーリングリストの役割は重要であるが,大人が対象の公開講座の場合は,お金のことなど一部の情報についてしか必要がないものと思われる。
各受講者がネットワーク接続を終えた後には,公開講座受講者用メーリングリストに送信テストを兼ねて自己紹介メールを送ることとした。

メーリングリストでは,各受講者が取り組んでいる「教育プロジェクト」に関する情報交換などを期待していたが,実態としては別の内容についてのやり取りが多かった。教育プロジェクトで何をやっていいかわからない,と言う受講者も多かった。モデルとなる事例を講座であまり明確に示さなかったこともあるが,いささか期待外れであった。講座最終回において教育プロジェクトの最終報告会があり,その席で興味深い取り組みが報告されることもありうるので,講座最終回が終了してから,この問題を再度分析したい。


6.PPPサーバの利用状況
 受講者43人のうち,本講座で提供する以外の電子メールアカウントをすでにもっていた者は24人であった。そのうち,アドレスから,インターネット・サービス・プロバイダを利用していることがわかる者は11人であった。これらの受講者は,山梨大学のPPPサーバが話し中のことが多いため,それまで利用してきたものと同じプロバイダのPPPサーバを主に利用しているようであった。

本講座で提供する以外の電子メールアカウントのドメイン等
 本講座で用意した山梨大学のPPPサーバの利用状況であるが,サーバ側にアクセスログを記録する機能がない。そこで,受講者に自身のPPPアクセスログを記録してもらった。以下は,山梨大学のPPPサーバからだけインターネット・アクセスが可能なある小学校の教師からの報告である。

●1997年11月の曜日別PPPアクセス記録

    曜日   アクセス成功回数  アクセス時間(分) 話し中,エラー等の回数
月曜日(4回) 4 45 9
火曜日(4回) 4 77 12
水曜日(4回) 4 50 12
木曜日(4回) 5 45 24
金曜日(4回) 4 71 5
土曜日(5回) 6 151 9
月曜日(5回) 9 232 9

  合計    36 671 80



7.講座前半におこったこと
公開講座終了2か月前の1997年11月までに観察された事例を報告する。
(1)アルバイト学生
アルバイト学生の募集は,Webページ,学内のネットニュース,電子メール,学生課のアルバイト掲示,学内へ印刷配布する教育実践研究指導センターだより,口コミ等あらゆるメディアを使ったが,なかなか人数がそろわず,講座開始2日前にようやく4人の学生が決まった。次年度からは,受講者のネットワーク環境を指導する講師として工学部の教官をお願いし,可能な限りその教官の指導学生等をアルバイトとして紹介してもらう体制にする見込みである。
(2)ネットワーク設定
第1回及び第2回の講習では,講習時間が短いことや,手元に自分のコンピュータがあって環境設定を行ったわけでも無いため,講習の後,アルバイト学生に電話での問い合わせがあった。アルバイト学生も,熱心に対応し,中には受講者の自宅まで出かけていっしょに設定を行った例もあった。また,大学のPPPサーバ環境に特化した適切なインターネット接続マニュアルが無かったこともあり,設定が難しい,という感想が受講者からもよせられた。インターネット接続マニュアルは,Windows95用及びMacintosh用の2つを,工学部電子情報工学科の森澤氏が中心に作成中であり,1997年度中にはできあがり,ネットワーク上におかれる他,1998年度の公開講座教材としても使われる。
また,受講者からは,PPP接続のためのユーザ名,パスワードと,電子メール用のユーザ名,パスワードとの関係(両者はまったく別々のものである)がわかりにくかった,という感想がよせられた。この原因のひとつとしては,講座資料作成の手間を省くため,PPP用と電子メール用とでパスワードを同一のものにしてしまったことがあげられる。1998年度からは,両者は別々のものとして設定すべきである。
(3)ftpに関するトラブル
受講者がWebページを作成し,教育実践研究指導センターのサーバに置く際,ftpをうまく使いこなせず,個人メール,メーリングリスト,電話等で相談する受講者が多かった。この中には,受講者が受講前にすでにもっているインターネット・サービス・プロバイダーのPPPサーバに接続し,教育実践研究指導センターのサーバにftpしようとしたが,両者の間のネットワーク経路が混みすぎていて,タイムアウトになったケースもあった。
(4)Webページの作成
 1997年9月すぎになって,受講者からWebページを作成したというアナウンスがkouzaメーリングリストに流れたり,個人メールが届いたりした。受講者は,必ずしも講座で用意したWebサイトにページをおいているのではないが,オプション講座のWebページ作成法を受け,kouzaメーリングリストや個人メールでのやりとりをしながら,作成していっていった。受講者が作成したWebページは以下のとおりである。教材を指向した力作もあり,この講座がきっかけで,それまではとても作れそうになかったページ作成にチャレンジできた,と,講座のときに感想をもらしていた受講者もいた。
受講者が作成したWebページ

 「教育プロジェクト」としてまずやりはじめることは,何らかのWebページを作成することであるようだ。受講者である教師の間で相談して,子ども同士が交流する,というような共同学習プロジェクトが企画されることを期待したが,講座の運営者側から,個別にはたらきかけてプロジェクトを組織していくことが必要であることがわかった。

(5)不適切情報の投稿とそのフォロー
以下は,公開講座受講者連絡良メーリングリストに流れた情報と,それに対して起こったことである。以下の引用では,個人名が特定できる部分を省略または**に置き換える等の処理をしている。1997年7月8日に以下のようなメッセージが,kouzaメーリングリストに,W氏が投稿した。

みなさんこんにちは Wです。
**MLで下記のようなものがきたので協力できそうな方はお願いします。

(中略)

> ・血液提供のお願い
>
> 拝啓 T.F君の妹のM.Fさんは**病院に
> 再生不良性貧血で入院中ですが、早急に輸血を必要としております。
> このかたの血液型は、A型Rh−、という入手困難な血液でして
> 献血の協力をお願いするなど、全力を
> 尽くしておりますが、より多くの提供者を集めるためご協力を申し上げる次第であ
>ります。
>
> つきましては提供者を募っていただき、下記まで至急ご連絡頂きたく
> お願いしたします。

(後略)

 これに対して,同じ日に講座の講師のひとりから,以下のようなメールがkouzaメーリングリストに,投稿された。
 以下の問題は重要なことなので、全文引用します.また、このメーリングリストは 、インターネットの初心者が多いと思いますので、人々の善意に水を差すような印象 を与えることを承知で、あえて書きます.この問題は難しいのです.

(中略)

このメッセージは,悪意の無いチェーンメールを引き起こす可能性の高い不適切メールである。メーリングリスト上で何らかの注意をするべきなのだが,不用意に注意すると受講者全体が萎縮してしまう可能性があり,どうしようかと筆者はしばらく悩んでいた。そのとき,ネットワークの教育利用に関する諸問題について関心の高い講師の一人が,に以下のように反応した。

 稀少な血液については、ご本人も関係者も本当に困っていらっしゃるでしょうし、 この提供者を募るのにネットワークが活用されれば素晴らしいと考えます.速くに必 要な血液が集まることを祈ってやみません.

 しかし同時に、このメールは入院の期日と、その血液を必要とする期日の期限が明 確になっていないという点で、問題があるように思います.わかっているのは、**氏が、7月8日付けでもとの情報を**MLに発信したらしいということだけです.ここで「らしい」と書いたのは、メール のヘッダが失われているため、ヘッダから判断できないからです.  ですから、「つきましては提供者を募っていただき、下記まで至急ご連絡頂きたく お願いしたします。」の「至急」がいつまでなのかがわかりません.

 献血の募集は、皆が善意でつぎつぎに投稿するので、メーリングリストでは、よく 、本人が退院してしまった後も、チェーンメールになって日本中を駆けめぐり続けて いるということがおこります.これは、日本には、いかに善意の人が多いのかを示す ものでもありますが、そのような無用なトラフィック(情報の交通量)は、インター ネットを窒息させてしまいます.

 ネチケットによれば、インターネットでは、内容を問わず、チェーンメールは禁止 されています.もちろんこの場合、直接にチェーンメールになるような書き方はして いません.たとえば、「他のメーリングリストでも流してください」とか「メールで 献血者をさらに募って下さい」などと書いていません.しかし、チェーンメールを誘 発するようなメールであることは確かです.

 重要なことは、そもそもの依頼の期日と、献血の期限を明らかにしておき、情報の 「有効期限」を明らかにしておくことだと思うのです.これを投稿なさった方は、そ れを照会して明らかにし、改めてここに再投稿する責任があると思います.そしてそ の方が、つまり献血期限がわかった方が、いつまでだかわからないために行動に出ら れないでいる献血者を作らず、緊急性を認識した献血者がふえるかもしれないため、 輸血を必要とする患者さんのためにもなる可能性があると思うのです.

 いかがでしょうか.

この講師は,このメッセージで,メーリングリストに初めて投稿したのである。ネットワーク上では些細なことから,過激な言葉の応酬に発展するflamingや,初心者が熟練者からのメッセージに「怖れをなして」萎縮してしまう事例が多い。そういったことから,筆者はこの事態は早急な対応が必要な緊急事態ととらえ,以下の対応を即日行った。
(a)メーリングリスト上に,2人のやりとりの解説をし,初心者なら誰でもがやる可能性のあることであり,今後気をつければいいのであって萎縮する必要のないことを,受講者全員に説明する。
(b)最初のメッセージを投稿したW氏に電話して,講師の人柄などを説明しながら,萎縮する必要がないことを説明し安心してもらうとともに,メーリングリストに「今後気をつけます」メッセージを投稿するよう依頼した。
上記の(b)は過剰なケアに思われるかもしれない。しかし,ここでW氏が特に萎縮していなくとも,W氏が何もメーリングリストに投稿しなかったとしたら,W氏以外の受講者の少なからぬ人たちが,「このメーリングリストにうかつなことを書くと,しかられてしまう」といったイメージが定着してしまい,メーリングリストに有意義な情報を提供しようという態度をつみとってしまうことになりかねないのである。幸い,W氏は特に萎縮しているわけでもなく,最初のメッセージの翌日に以下のようなメッセージを投稿したのである。

おはようございます。 Wです。
**先生からご指摘いただきありがとうございました。
 初心者なもので本当にすいませんでした。

(中略)

本日(9日)、朝9時に担当の**さんに電話で確認いたしました。

 患者さんが入院なさったのは、平成9年6月22日で、 献血の依頼は7月に入ってからだそうです。いまのところ期日はなく 現在募集中とのことです。
 また、時間の経過とともに患者さんの様子も変化すると思いますので、 他のMLに流すときは担当の**さんにお電話で確認してください。

 よろしくお願いします。
 また、不備な点がありましたらご指摘おねがいします。

このように,特にネットワークの初心者も対象とするメーリングリストの運用の初期には,メーリングリストの運用担当者は,細心の注意を払って,投稿メッセージに対する反応,日々起こる事件に対するフォロー等をすることが重要である。また,同時に講師のように,ネットワークを使っていく際に気をつけなければいけないことについては,早めにそのことを説明する必要もある。


(6)ハードディスクの故障
 1997年8月25日,受講者のアカウントがあり,Webサーバでもあるpeachの外付けハードディスクの1つが,電源点検の停電の際,破損した。当該ハードディスク(容量2GB)は,公開講座受講者用メールサーバ,教育関係メーリングリストサーバ,教育学部及び教育実践研究指導センターWebサーバのデータ領域を含んでいたため,これらのサービスが3〜10日間にわたって停止した。これらのデータ領域は,もうひとつの無事であった外付けハードディスクに収容できるよう,教育実践研究指導センターの施設設備利用委員(主に藤田孝夫委員)により設定が変更された。データのおき直し,メーリングリストの再設定作業は優先度の高い順に筆者が主に作業した。  この故障の原因としては,以下が推測されている。当該の外付けハードディスクは,約3年4か月間の間,24時間稼働をしてきた。ハードディスク内にあったホコリなどが,電源点検の停電の間に冷えて固まって,ハードディスクが回転しないようになってしまったものと思われる。ハードディスクは,電源を入れて回転しつづけている間はトラブルが少ないので,次回停電の際にはハードディスクを停電していない場所に移し,回転させ続ける予定である。現在,センター共通経費により,4GBハードディスクを導入検討しており,納品され次第片方のハードディスクが随時他方をバックアップするよう設定される予定である。今回,トラブルがなかったpeach本体にも内蔵ハードディスクがあり,peachが故障した際の影響の大きさを考慮し,後継機の要求を平成9年度概算要求の中に盛り込んだ。その要求が認められ,1998年3月に後継機が導入されることとなった。


8.終わりに
以上の分析をまとめると,このような長期にわたる講座をうまく運営していくための条件として,以下を示すことができる。
(1)技術スタッフの充実
受講者が利用するサーバ等の技術的なトラブルの防止,トラブルへの対応を迅速に行うためのスタッフ,及び受講者個々のトラブル相談にのることのできるスタッフが多数必要である。
(2)技術的トラブルに対するpoliteな対応
受講者の多くはネットワークの初心者であるので,初心者にわかりやすい説明が必要である。それ以上に,受講者は,「こんなことをきいていのだろうか」「何か粗相をしてしまっているのではないか」と遠慮するケースが多いので,受講者が萎縮せず,講座内メーリングリストではある程度自由に要望を出していけるような雰囲気づくりのためにも,技術的な事項についてのやさしい説明が重要である。
(3)対面講習の充実
講座初期のインターネットアクセスを確保し,電子メール,ftpの使い方,Webページの作成方法に関する講習は,今回の講座の2回の半日から少なくとも3回程度まで増やす必要がある。それと同時に,インタ−ネットを活用した教育実践の事例紹介や,インターネットを利用した教育を支援する具体的な方法についてこちらから提案し,受講者に参加をよびかけていく講習も増やしていくことが必要である。

今後は,講座の最終的な分析もふまえ,来年度は,講座の回数及び内容の充実,スタッフの充実を図りながら分散型講座をすすめていく。本稿の冒頭でも述べたように,異校種間の教師の交流,異業種間の交流も促進できる形態の本講座の意義は深いと考えられる。

謝辞
本稿の研究では,ダイアルアップPPPのアカウントを利用させていただいた総合情報処理センター,教育学部附属教育実践研究指導センターの共同研究プロジェクト「教育へのインターネット活用に関する研究」の構成員,公開講座の講師,アルバイト学生,そして受講者に多くを負っている。謝意を表したい。
付記
 本研究の一部は,平成9年度文部省科学研究費(基盤(C)(2))「メーリングリストを活用したインターネットの教育利用に関する基礎的研究」(課題番号:08680228,研究代表者:成田雅博)の補助を受けた。

参考文献
成田雅博(1997) メーリングリストを活用した公開講座における受講者-講師間コミュニケーションに関する考察. 教育工学関連学協会連合第5回全国大会 (講演論文集 第二分冊 pp.511-512). 電気通信大学. 1997年9月. http://www.cer.yamanashi.ac.jp/narita/paper/9709jet.html