エディプス・コンプレックス

子供が両親に対して抱く憎悪と愛情のシステムを精神分析ではエディプス・コンプレックスとよびます。その陽性の形では、男児においては母親に対する性的欲望とライバルである父親に対する殺害願望という形をとります。文化が自然から分かたれるのは正にこの深い欲望をタブーとして禁じるからであるという説もあります(レヴィ・ストロース)。

禁じられた欲望が生む不安を回避するための自己防衛機制として投射(投影)があります。例えば、「私は彼を憎んでいる」という感情を対象に投射し、「彼が私を憎んでいる」とすることにより罪悪感(不安)を覚えないようにするというのがそれです。

冒険物語では主体の「悪いもの」をすべて客体に投影するがゆえに、英雄(=息子)は罪悪感なしに怪物退治(=父殺し)をおこなうことになります。しかもしばしば、前者が後者を排除したいという欲望も転換され、後者が前者を排除しようとする試みに対する自己防衛として表現されるのです。罪悪感なしにエディプス・コンプレックスが実現される形、それが冒険物語と言えましょう。