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ネットワークを 使った制御教材の遠隔操作

--- WinVNC の活用 ---

 

斉藤 和裕  藤田 孝夫

 

山梨大学 教育人間科学部

 

 

 中学校における技術科の情報教育では、 制御教材を使った学習が必要であると考えるが、パソコン1台につき制御教材を 1つずつ揃えるというのはコスト的に考えると、現実的にはかなり厳しい。 そのため、制御教材を熱心に提唱された先生方も多 かったが、次第に技術科の情報教育の中で制御教材が用いられることは減って きたと思われる。 そこで本報告では、教材を ネットワークを通して共有することができれば、過去に抱えていた問題を少しでも解消 できるのではないかと考え検討した。また、制御とネットワークというそれぞれの技術 を結び付けることで、技術というもののすばらしさ、想像力、感性といった技術観の 育成につながるものであると考え、ネットワークを使った遠隔操作実験を行った。

 

第1章 序論

 

 プリンタポートに簡単なインターフェイスを介して 接続した模型を制御する プログラムをBASIC を用いて作成し、ここではさらに、インターフェイスと模型が接続された パソコンへ、ネットワークを使うこと で他のパソコンからアクセスし、遠隔操作的なことができないか検討した。 こうすることでの利点として次の ことが挙げられる。

(1) NEC 社製 PC- 98 シリーズと呼ばれる 機種でプリンタポートを使った制御教材が使われていたが、 コンピュータの性能が進歩した現在の Windows マシンへのそれらの移行は難しくなったという状況に変化した。また、 Windows 上で N88-BASIC を使う場合、NEC98 系の Windows マシンが必要になる。しかし、現在、市販されている Windows マシンのほとんどは AT 互換機、または DOS/V マシンといわれる ものであり、同じ Windows マシンでもこのような DOS/V 系のマシンであると、 N88-BASIC を使うことはできない。そのため、 N88-BASIC を使ってプログラムを作成し、 動作させるには 98 系の Windows マシン上からしかできないことになる。 そこで、ネットワークを利用することで、数多い DOS/V マシンから1台ある98マシンに 接続された インターフェイスへの出力を制御することができれば、問題は多少なりとも 解決できる。

(2)インターフェイスを用いた制御教材を単一的に 用いても情報教育としての 学習価値が十分あることは、これまでの情報基礎学習の中で用いられてきた ことからも実証済みである。 しかし、各パソコン1台につきインターフェイスといった教材を1つずつ 揃えるというのは、 コスト的に考えた場合、現実的にはかなり厳しい。そのため、制御教材を 熱心に提唱された 先生方も多かったようだが、次第に制御教材が技術科の情報教育の中で 用いられることは減ってきたと思われる。 このような過去の事情があったため、 Windows 環境で使用できないかと考え、 先に述べた事項に関し、 教材をネットワークを使うことで共有することができれば、過去に抱えていた 問題を少しでも 解消できるのではないかと考えた。

(3)制御とネットワークというそれぞれの技術を 結び付けることで、 技術というもののすばらしさを確認できることは、技術観の育成に つながるものであると思う。 また、ネットワークといった通信技術に対する様々な可能性の提示、 想像力の育成につながる のではないかと考え本課題に取り組んだ。

 

第2 章  アクセス方法の検討

 

 1台のパソコンには、プリンタケーブルによってプリンタ ポートとインターフェイスを接続し、 これに模型ロボット(EK ジャパン社、ムービット サッカーボーイ)を接続する。 このパソコンにネットワークにつながった他のパソコンによって外部から アクセスし、ロボットを動かすことはできないか下記のネットワークを使った 4つのアクセス方法を検討した。

(1) Windows 用の telnet サーバ

(2)プリンタの共有

(3) LPR (リモートプリンタ)

(4)WinVNC

(1)

Windows 用の telnet サーバである WinTD Windows Telnet Daemon v1.1.0 というフリーソフト( http://snappy.global2000.net/ )の使用を試みたが、 telnet でアクセスした場合、使えるコマンド、 命令というのは、 telnet に備わっているコマンドに限定される。 そのため、 BASIC を起動したり、作成したプログラムを 実行するなどということは、不可能であることが分かった。

(2)プリンタの共有サービスは、 Windows 95からネットワークというものを強く意識した OS になったことで 標準で付属しているものである。このサービスは、ネットワーク につながったパソコン同士でプリンタ を共有することができるというものである。しかし、このプリンタの共有は LAN の 同じドメイン同士でなくては使うことができない。そのため、ネットワークに つながっていれば どこからでもよいとわけではなく限られたネットワークの中での遠隔制御と いうことになってしまう。 同じドメイン内でなくてもできないか次に挙げる LPR (リモートプリンタ)の使用を 考えてみた。

(3) LPR (リモートプリンタ)については、 アライドテレシス社製の CentreNET AT-TCP/32 Version 1.0 というソフトの中にある プリンタサーバソフトを使用した。 このプリンタサーバソフトを使うことで、プリンタサーバとなる IP アドレスを指定し、 同じドメイン同士でなくても印刷させることができる。しかし印刷させようとする クライアント側の パソコンからプリンタサーバへは、印刷しようとするファイルごと 転送される形になっており、 BASIC で作成した プログラムの出力のみをプリンタポートへ出力する、ということはできなかった。 このことは、 (2)の場合でも同じである。

(4)このようにネットワークを使ってプリンタポートを 制御するには、 多くの問題を抱えており、思いのほか難しいことがわかった。そこで、 一つの手段として 次に挙げる WinVNC というソフトを 使うことにした。

 

第3章  WinVNC を使った遠隔操作

 

 VNC とは、 Virtual Network Computing の略称である。このソフトは、 指定した IP アドレスのマシン環境を自分の パソコンのディスプレイ に表示することができ、その資源を遠隔操作できるというものである。 Fig.1 は実際に WinVNC を使って いるところで、パソコンのディスプレイには本来のデスクトップ (青空の背景のもの)と、 サーバとなっているパソコンのデスクトップが表示されている。あとは、ビューア ソフトによって 表示されたサーバマシンのデスクトップを、通常使用するのと同じように操作する ことができる。

 

Fig.1

Fig.1 WinVNC の client 側の使用画面

 

3.1 WinVNC の入手とインストール

 

 WinVNC は、 http://www.uk.research.att.com/vnc/index.html  からダウンロードができる。 ダウンロードしたファイルは、 vnc-3.3.3r1_x86_win32.zip 962KB )というファイルである。 このファイルを解凍後、 WinVNC フォルダの中の setup.exe を実行してインストールする。この時にインストール先を聞いてくるので、今回 C:\Program Files\ORL\VNC として、このフォルダにインストール をした。 このプログラムは、インストール時に自動的にスタートメニューに登録され、 スタートメニューのプログラム− VNC とたどっていき、起動する。

WinVNC というソフトは、 FONT FACE="Century" SIZE=3>WinVNC というサーバソフトと、 vncviewer という ビューアソフトという2つの主要なファイルからなる。

WinVNC VNC server for Win32 ver3.3.3.1  ファイルサイズ: 196KB

vncviewer   ver3.3.3.0  ファイルサイズ: 172KB

 

3.2 WinVNC の使用方法

 

 サーバソフトの WinVNC では様々な設定ができるが、 ここでは最低限の使用についてのみ、報告する。 Fig.2 に示す WinVNC の各種設定画面で、アクセス用パスワード を設定する。

Fig.2

Fig.2 WinVNCの 設定画面

 

WinVNC が動くサーバに外部からアクセスする 場合、ビューアソフトである vncviewer を起動すると、サーバとなっている パソコンの IP アドレス とパスワードを聞いてくるので Fig.3, 4 のように入力する。

 

Fig.3

Fig.3 サーバ マシンのIPアドレスの入力画面

 

Fig.4

Fig.4 サーバ ソフトで設定したパスワードを入力

 

このようにクライアント側から vncviewer を用いてサーバへアクセスすると、 Fig.1 のよう に表示される。

 

3.3 WinVNC を使用した遠隔操作実験

 

 Fig.5 はパソコン自体は隣同士に あるものの、 WinVNC vncviewer を使って 実際にネットワークを介しての遠隔制御実験を行っているところである。 右のパソコン( VNC サーバ)の プリンタポートには、奥に見えるようにインターフェイスを介してロボットが 接続されている。 そのパソコンではサーバソフトである WinVNC を立ち上げ、クライアントとなる 左のパソコンからビューアソフトである vncviewer を使うことで、ディスプレイにサーバと なっている右のパソコンの画面を表示させることができる。今回の場合、 左のパソコンから vncviewer に よって表示された右のパソコンのデスクトップを操作し、 DOS プロンプトから BASIC または実行ファイルを立ち上げて プログラムを実行し、 ロボットを操作することができた。

 

Fig.5

Fig.5 WinVNCを使用した 遠隔操作実験の風景

 

この VNC というソフトは、今回のように Windows マシン同士でなくても使用できる。 PC-Unix( 本実験では Linux) マシンに PC-Unix 版の vncserver を起動することによって、 Fig.6 のように Windows マシンのデスクトップに vncviewer を使い PC-Unix の画面を Window Manager ごと表示させ、 Windows から PC-Unix の資源を利用することもできる。 逆に, PC-Unix から WinVNC が動いている Windows にアクセスし利用することもできる。すなわち、 Windows につながれたロボットを PC-Unix からも操作可能である。 VNC には、今回用いた Windows 95、98、 NT 用の他には、 Linux Solaris Macintosh WindowsCE 用などもあり、異なる OS 間でも使用できる。特に Unix 間では、 SSH1 を利用した Port Forwarding とも組み合わせることができ、 より安全性を保つことができることも分かった。

 

Fig.6

Fig.6 Windows に PC-Unixの画面を表示させている

 

 

第4章 結論

 

 プリンターポートを介してパソコンにつなげた模型ロボットを遠隔制御が できないか、いくつかの方法を試みてみた。このような目的にとって、思いのほかネットワーク上 からプリンタポートを直接制御することが難しいことが分かった。検討の結果、 WinVNC というソフト を使用することで遠隔操作が可能であることが分かった。一端接続すれば、 操作に関して全く通常の Windows95/98 の操作と 同様である。また、回線の速さよりも、サーバ側、クライアント側それぞれの搭載している CPU の性能が高い方が、 よりリアルタイムにマウスポインタが反応し、その追従性がよいという傾向があった。 サーバ側の CPU が233 MHz 、クライアント側の CPU が466 MHz というパソコン同士では、 一般電話回線を使った操作でも十分実用レベルであった。安全性という面では、 パスワードを自由に設定できる為、 利用の都度変える方法も採れる。また、サーバを立ち上げていなければ 当然アクセスできない。

このソフトは、特別なネットワークや機器を必要とせず、 指定した IP アドレスの マシンを遠隔的に操作ができ、同一のドメイン同士でなくても利用できる というところに利点がある。 極論すれば、今回使用したロボットを、地球の裏側からでも操作が できるということになり、 ネットワーク技術のすばらしさ、可能性を提示することで、想像力、 感性に訴えることができ、 十分価値があるものであると考える。

当初、制御実験のために 本ソフトの検討を始めたわけだが、 次第に次のような使い道についても有用ではないか、と考えた。

実際の40人学級などで情報基礎などの授業を行った時、 生徒一人一人 の作業の進度や理解度などを把握することは大変難しい。 そこで本ソフトを使うことで、教師用 の画面で生徒の画面を確認することができると共に、つまずきに対して 教師用マシンから生徒用 マシンを操作でき、援助することも可能ではないかということである。 特別な装置、機器はまったく 必要とせずにこのようなことができることは、非常に価値があると思う。

さらに、ネットワーク上につながった Windows95/98 NT Macintosh Unix 系のマシンなど、 OS 問わず使用できるということも 大きなメリットである。 これは、学校現場など様々なマシンが混在する環境では、 かなり有効であると考える。

 

参考文献

島崎 保任, "VMWARE VNC 最新情報 " , Linux X BSD Hyper Press (技術評論社) ,

Vol.1, pp.102-107, 1999.


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