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ホ-ムペ-ジを用いた被服構成実習の試み II

-手編みセ−タ−の製作-

　山梨大学教育人間科学部　　勢田二郎　

[seta@grape.kkb.yamanashi.ac.jp]

　　　　　　　　　　　　　　共同研究者　　 角田有紀 ， 内田洋子

概要

手編みセ−タ−の製作方法の詳細を動画を含む画像と文字により構成し、HTML言語で作成した。このホ−ムペ−ジを用いて、学生に実習させ、教育方法の効果をSD法で評価した。 結果は、従来の授業方法よりやや良いというイメ−ジが得られた。このような学習形態は、実技教育に有効と考えた。

目次

1.緒言

　家庭科の被服制作実習は、個人単位で製作が進められる場合が多く、学習者の技能差が実習の進度差となっている。その進度差を解決するために、数年前より被服実習におけるComputer Assisted Instruction (CAI)ソフトの活用を検討してきた。　すなわち、コンピュータシステムの教育への導入の第一のねらいである、「学習の個別化・最適化による教育の強化」の点において、学習効果の改善と向上に有効ではないかという見解から、ホ-ムペ-ジを用いた被服構成実習の試みとして、浴衣の製作の詳細をホ−ムペ−ジに掲載し、これを用いた教育効果について報告した（文献1）。その結果、技術を完全に伝えるという観点から、明解な画像の表示、動画や音声の取り込み等が課題として浮上した。このような問題の解決手段の一つとして、アニメ−ションによる表示を使用することが考えられる。これに適合しやすい内容として手編みを取り上げた。これを本校家政科の専門授業の服飾実習において、授業を履修した学生に実際に利用してもらうことによって、コンピュータが持つ特有の機能を教育に活かし、学習を効果的に展開していく教育システムとなるかどうかを調査することを試みた。

2.研究方法

　前報（文献1）と同様に、まず、画面に取り入れる写真を、実際にセ−タ−を作りながら撮っていき、それを画像処理ソフト(Adobe Photoshop)を使ってわかりやすいように加工し、アニメ−ション作成ソフト(GifBuilder)を用いてアニメ化した。さらに、Java Script言語を使用し、画面のスクロ−ルなしに見たいコマを画像として表示する工夫を行った。また、Java Script言語を使用した計算プログラムも用いたので、採寸結果から計算をすることもできる。このソフトを学内のサ-バ-に置き、ホームページとして公開した（注1）。

2.1　ホームページの内容（画像をクリックすれば実際の画面になる）

「やさしいやさしい編み物」のホームページの概要は以下のようである。

『表紙』

　このホームページは第1章から第4章に分かれるが、内容は基本的な丸首のメリヤス編みのセ−タ−製作方法について示したものである。表紙では、一般的なユーザーが使用する場合を考慮して、縄編みへのリンクをはった。より複雑な編み方については対応していない。

『総目次』　

全体を以下のように各章名とその概要を示し、わかりやすくした。

第1章「はじめに」では、セ−タ−作製の前に知っているべき事柄を示している。

第2章「試し編」では、計算の基礎として一定の長さのなかにある編地の目数及び段数の平均値を求める。

第3章「採寸方法」では、第2章で求めた編ゲ−ジをもとに、セ−タ−のでき上がり寸法を割り出し、採寸と寸法の設定を示している。

第4章「編み方」では、各部の編み方を説明し、セ−タ−を編み上げる。

　このように、各章に分けることで、どこからでも自分の進度に合わせて画面が出せるようにしてある。さらに、各章は以下のような各節にわけてある。章や節の上をクリックするとそれぞれにリンクするようになっている。以下に、このソフトのもつ特徴的な内容を述べてみる。

　『第1章』初めての人を対象として、各部の名称ならびに材料と用具の説明をおこない、一人で理解できるようにした。

　『第2章』基礎になる編み方とゲ−ジの取り方について示している。

第2節では編み出し方を示している。本ソフトの特徴として、アニメ−ションと画像を用いて表示した。下図のように、先ずアニメは一定速度で動き全体の動作の流れを示した。次に、実像は画面のスクロ−ルなしに見るために、カ−ソルを緑色数字の上に置けば、その画像を表示するようにJava Scriptを用い、また右側には説明文を示した。

　『第3章』採寸方法を示している。

　第２節では、採寸結果を入力すれば、編み目の数と段数を計算させるプログラムを、Java Scriptを用い作成した。

　『第4章』編み方について示している。

　第２節では、つなぎ方についてアニメと実像で示している。

　第３節では、編み方の順序を示している。各々の段階へ進度に応じて対応できるようにした。

　さらに、増し目や減らし目などについても、リンクをはり見直しやすく説明してある。

　最後に、より役立つように、縄編みに必要な編み方を解説した。これは教育効果の調査終了後書き加えたので、以下の議論の対象ではない。

2.2教育効果の調査

　このソフトを家政教育専門科目「服飾実習」を履修した学生を対象に教育効果を検討した。調査対象は、1997年度後期の服飾実習を履修した本校家政科専攻の2年生4名、他科学生1名の計５名であり、実習指導者は通常授業の中で本ソフトを補助教材として併用した。

　前報でも指摘したように、本来、このような教育方法の効果を調べるには、実験計画法に則って、学生を実験群と統制群に分けて実施し、その効果を何らかの方法で評価し、統計処理からその指導方法の有効性を検証する必要がある。しかしながら、被服構成実習のような実技を伴う科目においては教育効果の試験評価は容易ではなく、さらに学生数においても少数であり、2群を統計的に同じと評価する試験方法も確立されていない。そこで、意味やイメ-ジの測定法として心理学の分野で広く使用されているＳＤ法（文献2）に準じて、学習者に下記のようなアンケートを実施し、5段階の評定尺度で、学習方法や内容について各項目毎に評価してもらい、その平均値から教育効果を判断することとした。もちろん、この結果が、直接教育効果を示しているということはできないが、学生のもつイメ-ジが、従来の指導方法に対するイメ-ジとの相違を表わすことは明らかである。

アンケ−トは前報とおなじであり、個別質問としてソフトの操作の難易度、表示画面の構図・文字・色彩、学習への興味、学習ペース、学習効果および疲労感を質問した。さらに、学習の総括的評価も質問し、良い方を5、普通を3、悪い方を1とする5段階評価を行った。　

3.結果と考察

　アンケート結果を図に示した。図から以下の結論が得られる。

（グラフをクリックすると項目群別の図になります）

＜ソフトの操作性＞　平均値4.5と高い評価を得た。操作は簡単であると評価された。

＜画面の構図・文字＞各章において差はあるが、ほぼ４程度のやや良い結果であった。文字だけで画像がないものは評価が低く出た。

＜画面の色彩＞　　　平均値3.9とやや良い評価を得た。これは、背景色や明るさと模様の関係があるようで、ピンクの升目は目が疲れるという意見があった。

＜学習の興味や集中＞平均値4程度であり、やや良い結果である。画像と動画を取り込んだ章では楽しく学習できていると思われ、CAIソフトが受け入れやすいことを示している。

＜学習ペ−スと効果＞評価は３から４の後半であり、平均値はほぼ４である。特に寸法の設定の評価が高い。これは、自己寸法の入力だけで目数および段数が計算されることによると思われる。自分の進度で効果的に成就されることも評価できる。

＜体や目の疲労＞　　平均値４程度であり、普通よりやや良い。ピンクの升目の背景色の部分がやや悪く評価された。

＜全体の評価＞　　　平均値3.8である。第４章「肩をはぐ」、「袖つけ」が3.2と最も低い結果が得られた。これは、前報でも見られたように、ソフトの理解度がそのまま評価に結びつかず、作業の難易度が評価と結び付いている傾向があると考えられる。

　全体として、教育効果に対する学生のイメ-ジはやや良いという評価であり、セ−タ−を製作する服飾実習として、従来の講義手法より受講生には受け入れやすく、有効であると考えられる。

下図は前報との評価の比較を示したものである。

　前報の浴衣製作における総合評価（3.8）と比較して、本研究の総合評価（3.8）は同じ結果であった。内容が異なり、調査対象数も少ないので比較することはできないが、疲労・眼精疲労に関する評価が明らかに向上しており、動画と画像の工夫により前回よりもより改良したと考えている。

下図は個別の質問の平均値と全体の評価の平均値の比較である。前報では、ほぼ同じ結果であったが、今回は個別の評価の平均値がやや高く得られた。

　以上のように、進度が遅れたときや、宿題となったときのソフトの有効性を考えると、ソフト作成時の「被服実習におけるCAIソフトの活用は、コンピュータシステムの教育への導入の第一のねらいである『学習の個別化・最適化による教育の強化』の点から学習効果の改善と向上に有効である」という見解は支持される。意欲さえあれば、自分のペースで製作技術をマスターでき、かつ授業に遅れてしまった場合でもそれを補えるというメリットを持ち合わせている。

　今後の課題としては、音声の取り込み、背景色の変化、より複雑な模様編みの説明などの組み込みがあげられる。また、コンピュータの増設や提示用スクリーンの設置など環境面での改善も必要となるだろう。

4.文献

(文献番号をクリックすると本文中の位置に戻る)

注1　　手編みのホ-ムペ-ジを1998年から山梨大学学内サ-バ-に置いて公開してきた。現在（1999.10.1）のアドレスは以下のとうりである。

　　　　http://133.23.211.10/ehs/seta/teami/start/page.html

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