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マルチアーム検査ロボットの衝突回避制御


工学部機械システム工学科   牧野 洋  寺田英嗣


The multi-arm testing robot

Fig.1 The multi-arm testing robot

(上の写真を選択するとビデオで実際の動きを見ることができます)

1. 緒論

プリント基板の導通試験は治具を用いた多点同時測定が一般的な方法である.しかし近年では,多品種少量生産の傾向が強まり小ロット生産が一般的になりつつあり,基板ごとに必要な治具のコストや治具交換の時間が従来の方法では改善できないため,新たな検査システムの開発が望まれている.この解決方法の一つとしてロボットの使用が挙げられるが,その場合,以下の性能が要求される.

  1. 2ないし4点の測定点セットに対し,測定ピンが同時に接触
  2. 測定点距離は最小0.2mmなので, 工具点は互いに0.2mmの距離まで衝突せずに接近可能なこと
  3. 測定点セットは一つの基板上に数十ないし数百組
  4. サイクルタイムは移動,ピンの上下,測定時間を含め平均0.2s以下
  5. 基板サイズは330mm×250mm以下

そこでこれらを実現するために4本の SCARA 形アームによるマルチ検査ロボットを開発した.特に今回の検査システムでは,高速化への要求を実現するために,それぞれのロボットアームに対して「ロボット占有象限」を定義し,占有象限同士が交わらないように各アームに対して測定点を割り当てるという方法をとる.その上で直線軌跡制御を行い,カルテジアン座標上で運動曲線を割り当て,4本アームの同時発進,同時停止を行うことによって,高速で衝突のない制御手法を確立した.なお本研究は(株)テスコンとの共同研究によるものである.

2. 4本アーム SCARA 形ロボット

本研究では,右手系と左手系の2本の SCARA 形ロボットアームを一対としたロボットを2台対向させたロボットシステムを用いている(図1参照).各ロボットアームは,第2リンクが平行リンクによって動力伝達されており,アーム上の重量を軽減させることで,慣性モーメントの増大を防ぎ動作の振動整定時間を短くしている.また第2リンク先端のツール取付部(第3リンク)は,第2リンク動作用とは別の平行リンク系によってワールド座標系に対し常に45°の角度を保つよう取り付けられている.これらの各部の諸元を表1に示す.また本システムではツールとして導通試験用ピンヘッドを取り付けており,このピンヘッドの上下にはステッピングモータによる駆動システムを用いている.

Table1 Specification of each robot
ItemSpecification
Robot typeSCARASCARA
Link1 length280mm
Link2 length330mm
Link1 and link2 motorAC servo motor 400W
 EncoderAbsolute, 8192x4 p/r
 Reducer ratio1/50 Harmonic drive
Link3 length80mm
Up/down motorStepping motor
 EncoderIncremental, 200x4 p/r
Up/down stroke15mm
Arm maximum speed8860mm/s
Position repeatability±0.02mm(xy)

3. 衝突回避アルゴリズム

3.1 ロボット占有象限

本システムにおいて4本のアームの先に取り付けられたピンの先端がそれぞれ測定点に同時に接触し,その際に衝突が起きないようにしなければならない.そのための方法として「ロボット占有象限」(図2)を定義することにより衝突を回避することにした.

Occupied quadrant

Fig.2 Occupied quadrant

この「ロボット占有象限」は各ロボットアームの工具点を頂点として,座標軸の x, y 方向に半直線を引いてできる領域を意味し,4つの工具点が一致したときこの点を原点としてできる座標系の第1〜4象限をそれぞれロボットアームに割り当てたものである.なお,ロボットのいかなる部分も,この占有象限の内側に存在するようにロボットアームの幾何学的形状及びロボットの配置を決定する.これによりアームの衝突は,占有象限同士の重なりの問題として単純化することが可能となる.

3.2 測定点の各ロボットアームへの割り付け

各ロボットアームの占有象限間のx方向あるいはy方向の距離をマージンと名付ける.ここで衝突しない条件を考えるとマージンが正であることが必要である. このマージンが負であっても実際のアームが衝突するとは限らないが,衝突しないことを保証できないことから,負の場合はすべて衝突しているものとみなす.そして衝突と判定した場合には各測定点へのアームの割り付けをやり直すものとする.これは各アームごと隣同士及び向い同士のアームの衝突判定と斜め同士の衝突判定を行えば良いことから,従来の方法に比べ衝突判定が高速化できる.なお,同一データによる衝突回避の割り付けが複数組可能である場合は,4本アームの移動量のうち最大のものが最小になる組合せを選択している.

4. 軌跡制御

向かい合わせにあるロボットアーム同士が,ある測定点セットにおいて 0.2mm の近接した距離にあり,次の測定点においても 0.2mm の距離にあるものする(衝突回避条件は満足するものとする).この場合,両アームに PTP 動作を与えると工具点は外に膨らんで動く傾向があるので軌跡の途中で衝突を起こす可能性がある.この現象を回避するため直線軌跡による CP 制御を採用している.

5. 運動制御

高速位置決め運動を実現するために,加減速曲線としてカム曲線の一つの NC2 曲線を用い,停止時に起きる振動を防止している.この運動曲線はカルテジアン座標系における直線軌跡に割り付け,Δtごとの工具位置を求め,これから逆機構解を解いて各軸の変位(絶対値)を求めている.

6. 同期制御

始終点におけるy方向(又はx方向)のマージンが正であっても軌跡は交差する場合があり,そのような場合にも衝突が起こらないようにするためには,4本のアームに対して同一の運動曲線(この場合には NC2 曲線)を与えるとともに,同時発進,同時停止の同期制御を行う必要がある.

7. オーバラップ動作制御

図3に示すようにz方向の動作と x y 方向の動作を同期をとってオーバラップさせることにより動作の高速化を図った.この動作は逆 U 字動作と呼び,従来のロボット動作に見られる門形動作に比べ13.0%高速化できた.

Overlap motion

Fig.3 Overlapped motion

8. 実験システムの制御系

本制御システムは x, y, z 方向すべて同期をとるために12軸同期ドライバを用いた.このドライバには12軸全部の位置データが書かれている指令データを1msごとに全軸に同時に送信し,各軸側が必要な情報のみを取出して駆動している(図4参照).

Control system

Fig.4 Control system

9. 衝突回避制御の検証

本試作システムを用いて動作試験を行った結果,表2に示すように当初の目標である平均タクトタイム0.2s以下を実現できた.なお xy 方向ストロークが10mm以下程度の移動距離の場合にはタクトタイム0.1s以下で動作させることができた.

Table2 Performance of the tesing robot
ItemsPerformances
Maximum acceleration2.0G
Mean moving distance61.1mm
Mean tact time0.194s(including test time 0.01s)

10. 結論

本研究では4本の SCARASCARA 形アームを持つロボットシステムを用いて,同一作業域内の複数のロボットアームによる同時作業を可能にする衝突回避制御手法を提案した.実例としてプリント基板導通試験を行うシステムに応用し,これらの手法の有効性の検証を行い, その結果,衝突回避アルゴリズムにより衝突を防ぎながら, 平均タクトタイム0.2s以下で動作する高速のロボットシステムを開発することができた.