ここで、こうした動向が展開される全体社会の社会・経済的背景について述べて
おきたい。
現代日本の地方政策は「地方分権」のイデオロギーに沿って新しい展開を遂げつ
つある。それは戦後一貫して展開されてきた、先に国家への集権によって富の蓄積
を強行し、次いで蓄積された富を各地方に分配する形式の経済・社会構造とは異な
る段階に進んだものと評価し得る。新しい段階では、富を各地方が自由かつ自律的
に蓄積することが予定されており、国家は蓄積の直接的な経営者から間接的な管理
者あるいは受益者へと後退する。しかし、国家が各地方の蓄積の集合の上にしか存
立し得ない以上、かつ国民国家として国民総体の福利を最低限保障する義務から解
放され得ない以上、国家が地方経営から完全に撤退することはあり得ない。むしろ
より合理化・抽象化された地方政策を展開する必要に迫られる。また新しい展開は
、原理的に過去の経済・社会構造から自由には展開し得ない。とりわけ戦後半世紀
のような過去の構造をほぼ無効化し得るだけの高度な成長を予定し得ない現代にお
いては、過去の構造は桎梏としてではなく前提として把握される他はない。こうし
て、新しい段階における国家の地方経営戦略は次の性質を帯びることになる。
@ 国家は各地方の経営に関する情報を効率的に収集した上で、いわば適材適所型
あるいはポート・フォリオ型の地方政策を展開する。逆に均等配分型あるいは利益誘
導型の地方政策は厳に避けられなければならない。
A 各地方の自由かつ自律した経営を前提とするがゆえに、それを阻害する国家の
直接的な地方支配は合理的に廃止される。逆に間接的な経営(計数化されたモニタリ
ングと管理)の手法が真にテクノクラーティックな官僚組織によって追求される。
B 地方経営に関する情報の中で最も重視されるのは、それらの経営の前提となる
各地方の過去の経済・社会構造=蓄積である。物といわず人といわず、ありとあらゆ
る存在のありとあらゆる性質が経営の前提として計量され、考課される。
3.地方自治体の情報化が与える地域社会へのインパクトへ 目次へ戻る