3.地方自治体の情報化が与える地域社会へのインパクト
さて、こうした動向は何よりまず既存の地域社会組織と抵触せずにはいない。
なぜなら既存の地域社会組織と電子情報空間上の情報集積との間には構造的な違い
があるからである。それは第一に、構造の単位について前者の「形式平等性」と、
後者の「実質平等性」との間にある。後者においてはプライヴァシイを保持したま
ま市民権を行使することができない。第二に、前者が歴史的に保持してきた、一部
の市民による行政へのアクセス可能性の非合法的な占取=寡占と、後者の市民総員
へのアクセス可能性の開放との間にある。後者の場合、一部の市民が代表を潜称し
て市民権を拡大行使することができないのである。この再構造化は、いわば地方自
治体を近代企業組織に変え、市民をその株主に変えるものだ。
首都圏の周縁部に位置するA市は前記のテレトピア計画の指定を受け、幹線道路
に沿って隣接の市にまで広がるケーブルテレビ回線網を展開してきた。また一方で
市内に大量に散在する福祉対象者について職員に蓄積された情報を、住民登録に基
づいてオンライン化する計画を進めている
(図表1)。 職員へのヒアリング調査(1996年8月実施)の結果、現状ではテレビ回線網はテレビ放送以上に活用され
ておらず、後者の福祉情報化も、財政難と福祉対象者(高齢者)の入れ替わりの激
しさから中途で頓挫していることが分かった。しかし、前者についてはすでに回線
とその運営技術は確立されているし、後者についても福祉事業を集中的に管理する
地域施設の建設自体は順調に進んでいるのである。注目されるのは、A市の場合、
歴史的経緯から北部(35年前旧B町が合併した地域)に大規模な建て替え期の公
営団地を数多く抱えている
(図表2)(図表3)。最初に立て替えに着手された公営団地の新築の低層階住宅が高齢者仕様になっていること (極端な事例だが、出棺が
容易な設計となっている)
(写真A)(写真B)に明らかなように、むしろ福祉情報化の客観的条件はそろっている。我々は、そこに桎梏ではなく新しい展開を可能に
する条件を見出すことができるのではなかろうか。
4.新しい展開の下での地域社会と自治の課題へ