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山梨地域では1994年10月にTRAIN(東京地区アカデミックネットワーク)の
サブセットで山梨大学を中心とした学術系のネットワーク「TRAIN山梨」と地域の
民間企業が中心となったネットワーク「YACC(山梨地域インターネット協会)」が
相互接続を行っている.この2つのネットワークは,一方ではそれぞれがTransitの
供給先を他に持ち,他方ではショートカットとして相互接続を行っていた.
その後,1996年1月からは商工指導団体のネットワークとの接続も行われ
YACC,TRAIN山梨,山梨21世紀産業開発機構のネットワークが相互に接続されている.
(図1参照)また,これら3つのネットワークを接続するために
4つの組織(山梨大学,山梨県工業技術センター,山梨21世紀産業開発機構,
山梨地域インターネット協会)が運用に携わっていた[8][9].
図 1:
1996年の山梨地域のネットワーク接続図
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このように複数の中継点を持つモデルは,今までの運用において次のような問題点が
議論されている.
- 相互接続されたネットワークの規模に起因する問題
ネットワークの接続が複数にわたるため,全体としての規模が大きくなる.その
ためにネットワークを複数経由することから生じる遅延,ホップ数の増加といった問題
がある.同時にネットワークに対するセキュリティも多数の所で注意が必要となり,
全体としての安全性も下がることになる.
- 中継点のネットワーク運営に依存
間に入るネットワークが電源工事などで停止するような場合には,複数箇所で接続
する接続の場合,全体に影響を及ぼすことになる.また,ネットワーク間に低速な回線
が存在したり混雑した回線が存在する場合にも,ここでの速度がボトルネックとなり,
全体の運営に多大な影響を与えることになる.実際,TRAIN山梨とYACC間の回線は64kbpsで
接続され,しかも,ネットニュースの配送を行っていたために,論理的な利用上限に近い
トラヒックが常に流れる環境にあった.
- ネットワークポリシーの問題
YACCと山梨21世紀産業開発機構は商用ネットワークであるが,TRAIN山梨は学術
ネットワークである.そのために全体としての商用目的のネットワーク利用が
行えなかった.これは,今後のネットワーク利用を考えた場合には大きな障害と
なる.
- ネットワーク利用の不公平感
TRAIN山梨のNOC(Network Operation Center)は山梨大学にあり,山梨大学の対外セグメントでパケット交換を
行っていた.当初はマルチポートトランシーバを利用しての接続であったために,
TRAIN山梨以外のパケットがこのセグメントの混雑を招く場合もあった.ある意味に
おいて,本来の目的とは別のトラヒックによる混雑はネットワーク利用に不公平
感を招くことにもなりかねない.
これらの問題の多くは接続形態によるものである.つまり,IXのような一点で
接続する形態をとることによって,多くの問題は解決する.一方,上記の問題
以外に地域IXを作る場合には,以下のような問題もある.
- 技術者不足
多くのISPが都市に集中しているため,技術者も都市に集中している.地域のISPでは
初期導入を都市の技術者に依存し,運営を地域の技術者が行う場合が多い.しかし,
稼働しているシステムに対して変更を加える事に消極的にならざるをえず,結局
経路制御に関する部分に対して理解する機会を失っていることが多い.
- 経営規模
地域においては経営規模の小さなISPも多い.このようなISPでは,トランジットの
購入のみしか行えない場合も多い.また,通信コストの高さもISPの活動を妨げる
原因となっている.
- National ISPの参加
各地で地域 IXが構築された場合に,そこに参加するNational ISPの技術者の
業務量もその数に比例して多くなる.National ISPにおいてもルータの設定に
熟達した技術者は少なく,それら技術者の負担増につながる地域IXの構築は好ましく
ない.
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Kaz Yatsushiro
平成11年2月26日