トレンチ調査とは,断層線を横切るように一定の規模の溝(トレンチ)を掘削し,
断層が動く前に堆積した地層と動いた後に堆積した地層を識別することによって,断
層活動の時期を推定するものである.
地震を起こし,大地を動かした活断層の活動の歴史は,大地に記録されているはず
である.地面の下には,数千万年前から数年前までの地層が堆積している.新しい地
層が堆積している場所には,その地層が堆積した後に起こった断層活動(これを”イ
ベント”とよぶ)が記されている.断層を掘り出し,そこに堆積している地層を,イ
ベントの前に堆積した地層と後に堆積した地層とに識別することができ,そしてそれ
ぞれの地層の年代がわかるなら,断層活動(過去の地震発生)の時期はわかる.地層
が次々に堆積する場所では,イベントはこれらの地層の中に次々と記録され,地層の
年代がわかれば,イベントの年代も次々に解読される.そして断層活動の周期を推定
することができる.その結果,その活断層が近い将来地震を発生させる可能性が高い
かどうか,地震危険度の長期評価評価を行うことが出来る.活断層のトレンチ調査と
は,このような考えによって行われている.
わが国のトレンチ調査は,1978年秋,鳥取県鹿野断層(図の1番)からはじまった.
毎年1〜2の活断層を対象に調査がすすめられてきた.この間に,その手法は改良され,
また調査数も増えた(1994年までの17年間に約20の活断層を対象に50回カ所で実
施された).調査数が増すにつれ,イベントの認定の方法や地下の断層形態などについ
て新しい成果が得られている.過去の地震の時期を解明し,地震危険度の長期評価を行
うには現在トレンチ調査に勝る方法は考えらていない.しかしトレンチ調査にはまだい
くつかの問題点もある.例えば1回ごとのイベントの時期は特定されてもそれぞれの断
層変位量はわからない.特に横ずれ断層ではその成果が得られたことはほとんどない.
調査溝の形状を工夫し,掘削方法の改良が行われてはいるがなかなかうまくいかない.
また縦ずれ断層では,調査溝の深度が大きく経費がかかりすぎる.さらに都市部では調
査用地の確保が極めて難しい.こうしたトレンチ調査の弱点を克服するために,トレン
チ調査に代わる新たな方法(地層抜抜き取り)が考案され,実用化されつつある中田ほ
か,1997).
これまでのトレンチ調査は,東大地震研究所,京大防災研究所,地質調査所を中心に
,各大学の地形・地質研究者の協力のもとですすめられてきた.1995年の阪神大震災
をきっかけに,活断層のトレンチ調査は,科学技術庁や地質調査所など国の機関と地方
自治体が中心となって全国で急速にすすめている.この2〜3年に実施された対象断層と
その数は,すでにこれまでに行われた件数を上回る.こうした成果は,広く公開される
ことになっている(詳しくはここをご覧下さい).
ここでは,これまで日本の各地で行われたトレンチ調査(下の図)のうち,2〜3の様子
を示します.下の表の点滅している断層の名前を押すとその内容を見ることができます.